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第162話『致命』

 新たに得た力の、真の意味に気がついた雅。


 これまで手も足も出なかった魔神種レイパーを倒せる可能性が出て、雅は早速敵に左手の平を向け、音符を放つ。


 サッカーボールより一回り小さいサイズの音符が、真っ直ぐレイパーへと飛んでいく。


 だが――


「っ? 当たらない!」


 放たれた音符を、レイパーは体を横に傾け、いとも容易く回避してしまったのだ。


 そして、にやけた顔で雅を指差し、得意気に口を開く。


「ハイソカル、ムオヨトレ」


 相変わらず言葉の意味は分からないが、言いたいことは伝わり、雅は奥歯をギリっと鳴らす。


 音符の持つ効果を、敵も理解したのだと分かったのだ。


 この強敵を倒すためには、音符を撃ち込むことが絶対条件。


 それも一発だけでは無く、二発……いや、三発撃ち込まなければならないと雅は直感していた。


 自身の『共感(シンパシー)』のスキルで発動した『衣服強化』や『帯電気質』等と同様に、新たに得た力にも制限時間があると思わなければならない。


 その制限時間が五分なのか、十分なのか、それは不明だ。


 終わりが見えないが故に、雅は焦る。


 二発、三発と手の平から音符を飛ばすが、レイパーには当たらない。


 音符の速度は決して遅くはないものの、魔神種レイパーの身体能力の前では鈍間もいいところだ。


 攻撃を外せばさらに焦る悪循環。


 切羽詰った顔で、一体どうすれば……と雅は頭を悩ませる。


 そんな時。


「ミヤビ! 焦るんじゃない!」


 レーゼの怒号が、雅の背中に突き刺さる。


 刹那、三方向から同時に、炎のレーザーがレイパーへと放たれた。


 ミカエルが残った魔力を全て使い、放った全身全霊の攻撃。


 魔神種レイパーにダメージを与えることよりも、少しでも大きな隙を作るために放った。


 ただでさえ魔力の消費が激しいレーザー攻撃。同時に三発も放つなんて、ミカエルとて初めてのことだ。


 故に勿論、練習したことも無い技なのだが、それを無視し、ぶっつけ本番で使ったというのは、それだけ状況が切羽詰っているということであり、さらにはミカエルが雅の新たな力に賭けたということの表れでもある。


 雅にエールを送るほどの余裕は無いが、それでもミカエルは心の中で叫ぶ。


 ミヤビちゃん、頑張って! と。


 そんなミカエルの攻撃だが、レイパーはレーザー同士の僅かな隙間を縫うように素早く動き、隙を作るどころか攻撃が当たることすら無かった。


 虚しく響き渡る爆音に、ミカエルの眼が揺らぐ。


 だがレイパーがレーザーを避けた直後、


「ぐ……ぅ……ま、まだじゃ……!」


 気が付けば天井に作られていた小さな黒雲から、レイパーに雷が落ちた。


 離れたところで倒れていたシャロンが、何とか繰り出した攻撃だ。


 突然の衝撃に、一瞬動きを硬直させたレイパー。


 決定的なチャンスを、雅は見逃さなかった。


 左手の平から放たれた音符は、一直線にレイパーに飛んでいき、そして――体へと吸い込まれる。


 当たった。


 あんなに当たらなかった攻撃が、当たったのだ。


 その事実に、雅の目が大きく見開かれた。


 当たる。


 独りでは当たらなくても、皆と戦えば、当たる。


 そんな当たり前の事実。決して雅は忘れていたわけでは無い。


 だが今、真の意味で、雅はその事実を強く理解した。


 魔神種レイパーの前に倒れた仲間達が、傷つき、悲鳴を上げている体に鞭を打ち、よろよろと立ち上がる。


 皆の目に、強い光が宿っていた。


 想いは一つ。


 雅の力に、全てを賭けること。


 レイパーの周りに、五十体以上もの分身ライナが出現し、一斉に襲いかかる。


 一体一体の攻撃は単調で、彼女達が繰り出す攻撃は、何一つとしてレイパーに当たることは無い。


 いや寧ろ、攻撃をする前に、魔神種レイパーに蹴散らされてさえする。


 だが、そんなことはライナも百も承知。


 本当の狙いは――


「――ッ!」


 レイパーは突如左翼の根元に走った痛みに僅かに顔を顰める。


 後ろを振り向けば、そこにいたのは愛理だ。


「翼一本……貰った!」


 大量の分身ライナに身を潜ませ、刀型アーツ『朧月下』で翼を斬りつけたのだ。


 虫の息といっても良い程に消耗していた愛理。皮肉にもそれ故に、レイパーは彼女の接近に気が付けなかったのだ。


 愛理の一撃により、翼の根元には深い傷が付いていた。


 いくらレイパーの皮膚が硬いとはいえ、関節部分は柔らかい。


 傷だけならすぐに再生できるかもしれないが、ここまで深い傷だと、どうしたって翼を動かす際に違和感が残る。そしてそれは、流石の魔神種レイパーといえどもすぐには回復させられないものだった。


 身体能力の高いこのレイパーに、自由に空を飛ばれてはたまったものでは無い。故に、愛理は翼を奪うチャンスを、実は最初からずっと狙っていた。


 そして同じことを考える者が、もう一人。


 分身ライナの影から真衣華が飛び出し、斧型アーツ『フォートラクス・ヴァーミリア』を振り上げていた。勢いよく放たれた斬撃が、もう片方の翼へと吸い込まれるように迫る。


 しかし同じ手はレイパーも二度は喰らわない。


 振り返り、真衣華の一撃を腕で防ぐと、分身ライナや愛理諸共、衝撃波で纏めて吹っ飛ばしてしまう。


 直後、


「ハァッ!」

「おらぁっ!」

「ぬぅ……!」


 志愛、セリスティア、シャロンがレイパーへと同時に飛び掛る。


 シャロンは人間態で、いつものように翼や尻尾は生やしていない。大ダメージを負った体では、竜の姿を保つことが出来ず、せいぜい腕だけを竜化させるのが精一杯だ。


 それでも腕の鱗の頑丈さは健在。レイパーの激しい打撃攻撃でさえ、数発程度なら耐えられる。


 志愛とセリスティアは、シャロンが敵の攻撃を防いだ隙にレイパーへと攻撃を放ち、直後に敵から離れる。ヒットアンドアウェイ……それを繰り返していた。


 もう『命の(サーヴァルト・)護り手(イージス)』を使ってしまった今、魔神種レイパーの攻撃をまともに受けてしまえば今度こそ死ぬ。慎重に攻撃してさえ、ギリギリの攻防だ。


 その後ろで手の平を前に出したまま、音符を放つタイミングを計る雅。


 しかし、中々チャンスは無い。


 三人の体もボロボロで、長くは持たないのは明白だ。


 一体どうすれば……と思った矢先、


「束音さん!」

「希羅々ちゃんっ? ミカエルさんも!」


 希羅々がミカエルを担いで、雅の元へとやって来た。


 希羅々はミカエルを地面に降ろすと、二人揃って雅に片手を差し出す。


「えっ?」

「あのスキル、まだ使っておりませんのでしょう? もう一度『グラシューク・エクラ』を使って、何とか隙を作りますわ!」

「私も魔力さえ回復出来れば、まだ戦えるわ。ミヤビちゃん、お願い!」


 言われてハッとする雅。


 慌てて二人の手を握り、『共感(シンパシー)』により『マナ・イマージェンス』のスキルを発動する。


 ミカエルが使うと自分自身の魔力を回復させる効果があるこのスキル。魔法が使えない雅が使った場合、自分以外の人間の体に触れることで、魔力を回復させたり、一度使ったらしばらく使えないスキルをもう一度使えるように出来る効果となる。


 二人以上を対象として使ったことは無いから、スキルが上手く適用されるかは賭けだ。


 だが、希羅々とミカエルの顔が明るくなったのを見て、雅はスキルが上手く適用されたと理解する。


 希羅々はレイピア型アーツ『シュヴァリカ・フルーレ』を、ミカエルは杖型アーツ『限界無き夢』を構え、未だ志愛、セリスティア、シャロンの三人と格闘する魔神種レイパーを睨んだ。


 二人は声を重ね、同時に大技を繰り出す。


 巨大なレイピアと極太のレーザーがレイパーへと放たれた刹那、志愛、セリスティア、シャロンの三人は一斉にその場を飛び退いた。


 レイパーは衝撃波でレーザーを打ち破り、巨大レイピアを蹴りで天井へと吹っ飛ばしてしまう。


 だがその直後、雅が時間差で放っていた音符がレイパーの脇腹に直撃し、体内に吸い込まれた。


 脇腹に目を向け、舌打ちをするレイパー。


 ジロリと三人を睨み、まずは希羅々から仕留めようと走り出す。


 希羅々の前に躍り出て、炎の壁――今まで出していたものより、三倍の厚さの壁だ――を創り上げるが、レイパーは衝撃波で壁を破壊し、二人を吹っ飛ばしてしまった。


 その後、すぐさま雅へと接近し、拳を振り上げる。


 咄嗟に、雅が一か八かレイパーの体を斬りつけようと百花繚乱を構えた刹那、


「舐めんじゃないわよ!」


 横からレーゼが、雅とレイパー間に体を入れ、レイパーの拳の一撃を体で受け止めた。


 スキル『衣服強化』を使っても、その一撃の重さにレーゼの口から血が溢れる。


「レーゼさんっ!」


 悲鳴のような声を上げる雅。


 しかしレーゼは雅の声に、何も言わずに彼女を突き飛ばした。


 直後、レーゼの体に容赦の無い、乱打の嵐が襲いかかる。


 命の(サーヴァルト・)護り手(イージス)と合わせても相当なダメージを受ける攻撃だ。『衣服強化』でしか防御力を上げていなければ、必然、さっきよりも大きな衝撃がレーゼの体に伝わってくる。


 それでもレーゼは、気合と根性で、レイパーの乱打を受け続けていた。


 そしてレイパーの蹴りを、腹でモロに喰らったレーゼの体が、くの字に折れる。


 だが――その体が吹っ飛ばされることは無かった。


 レーゼは両腕でレイパーの足をしっかりとホールドし、


「撃て……撃てぇぇぇえっ!」

「――っ!」


 血を吐きながら、レーゼは決死で叫ぶ。


 彼女が必死に生み出したチャンス。


 とにかく相手の動きを少しでも鈍らせようとした、レーゼの行動を無駄には出来ない。


 雅は歯を食いしばり、音符を放つ。


 レイパーが足に纏わりついたレーゼを振り払うのと、音符が胸に直撃するのは同時。


 そしてレイパーは胸を手で押さえると、顔を歪め、雅から慌てて距離を取った。


 自分の体に三発の音符が蓄積した今、雅の攻撃を受けたらどうなるか……それが分かっているから、流石の魔神種レイパーの顔にも焦りが見える。


 だが次の瞬間、部屋に白い煙が充満し、雅達も、レイパーの姿さえも覆い隠してしまう。


 この煙は、ミカエルが魔法で放ったものだ。雅が三発目の音符を直撃させたのを見て、即座に出したのである。


 狙いは、雅の攻撃のサポート。


 この煙に隠れ、雅が奇襲してくるのだと、レイパーは読む。


 煙で視界を封じたとはいえ、雅達の気配を感じ取ることは出来るレイパー。


 しかし気配の数が不自然に多い。


 ライナが煙に乗じて、十数体の分身を創り出していたのだ。


 こうなれば、誰が誰だかなど、流石のレイパーも判別に困難を極める。


 故に、レイパーは跳躍した。


 高いところに煙は無い。


 上から衝撃波を放てば、鬱陶しい煙なんて全て払ってしまえると考えての行為だ。


 そして高いところにいれば、雅の斬撃は届かない。


 レイパーは手に黒いエネルギーが集中させ、一気に下に向けて放った。


 煙が吹き飛び、レイパーの顔がにやける。思った通り、雅は煙に紛れて自分に奇襲を仕掛けようとしていたのだ。


 悔しそうに自分を見上げる雅の顔は、レイパーにはとても間抜けなものに見えていた。




 刹那、背後に、あるはずのない殺気を感じてレイパーは振り返り……瞳を揺らす。




 レイパーの背後にいたのは、雅。


 ファムの手に掴まり、彼女は宙を舞っていた。


 何故雅がここに、下にいる彼女は誰だ……とレイパーは一瞬驚き――すぐに思い出す。


 雅には『共感(シンパシー)』で使っていないスキルが、もう一つだけあったことを。


 ライナの『影絵』のスキルは、まだ使われていなかった。地上にいた雅は、煙で自分の姿が隠れた時に、スキルで創り出した分身だったのだ。


 そしてライナが大量の分身で気配を誤魔化してくれたお陰で、魔神種レイパーはこの瞬間まで、床にいる雅が分身だったと気が付かなかったのである。


「ミヤビ! 行け!」


 ファムがそう叫びながら、雅をレイパーの方へと放り投げる。


 羽が使えない今、空中にいるレイパーは自由に動けない。


 攻撃を当てる最大のチャンスだ。雅は両手で百花繚乱を握り、思いっきり振り上げた。


「クゾゾ!」


 それでもレイパーの手の平の照準が、雅へと移る。逃げることが出来ずとも、反撃することは容易なのだ。


 ――その瞬間。


 白い矢型のエネルギー弾がレイパーの腕に直撃し、明後日の方に逸れた。


 思わずレイパーが、攻撃が飛んで来た方向を見れば、肩で息をしている優が片膝立ちになり、弓型アーツ『霞』を構えていた姿が飛び込んでくる。今の一撃は、彼女が放ったものだった。


 優はずっと、決定的なチャンスを伺っていた。息を潜め、もう自分は倒れて動けないのだと錯覚させていたのだ。ずっとずっと、我慢していた。雅が音符を当てようとしている時も、何度もサポートに回ろうと思った。


 それでも決して動かなかったのは、最後の一撃を当てるための隙を、誰かが作らなければならないと分かっていたからである。


 そして雅は、優のその考えにちゃんと気が付いていた。


 故に、レイパーは間に合わない。


 雅が優のアシストを信じて、敵の反撃を恐れずしっかりと百花繚乱を振っていた。その剣撃の速度の前には、魔神種レイパーの腕による防御はあまりにも遅い。


 レイパーの目が、大きく見開かれる。雅の視線が、自分の体のどこに向けられているのか、このレイパーは分かっていたから。




 雅の狙いは、レイパーの胸元。


 そう。今は見えないが、傷があったところだ。




 あの傷は雅が付け、それから全員で広げたもの。


 そう簡単に消えるものでは無い。


 見た目は治ったように見えても、短期間で治りきるはずは無いのだ。


 その証拠に、魔神種レイパーは、胸の傷へと放たれた攻撃はそのまま受けず、防いでいた。


 顕著に現れていたのは、優を追い詰めた時のことだ。矢型エネルギー弾なんて、このレイパーからすれば大したダメージにもならない。事実、攻撃を受けながら、悠々と彼女に近づいていた。


 そのレイパーが、傷口があった部分への狙撃だけは防いでいたのだ。


 流石にそこを少し攻撃されたくらいでは致命傷にはならないだろう。ミカエルのレーザーが浴びても、平気な顔をしていたくらいだ。だが表に出さないだけで、痛みくらいは感じていたはずである。だから可能な限り防いでいたのだろう。


 そして今、三つの音符が蓄積した体で、雅の全力の一撃を、その傷にモロに受けたとしたら……自分がどうなるか、レイパーは悟ったのだ。


 故に、恐れる。


 悟ったが故に、レイパーは生まれて初めて『恐怖』した。


「いけぇぇぇえっ! みぃぃぃちゃぁぁぁあんっ!」


 優やレーゼ達の声が雅の耳に届くのと、百花繚乱の刃が魔神種レイパーに届くのは同時。




 ド、ミ、ソ、そして一オクターブ上のレが組み合わさった四和音と、轟音が部屋一杯に響き、魔神種レイパーの体が一直線に床まで落ちていった。




 この激しい戦闘で、一切傷つくことの無かった部屋の床が、レイパーの衝突により大きなクレーターが出来る。


 それ程までに、強力な一撃。


 確かな手応えを覚えながら、雅は再びファムに抱えられ、床に着地した。


 まだ、油断はしない。


 なぜなら、先程の一撃を受けてもなお、魔神種レイパーは爆発四散していないから。


 案の定、一瞬の間を置いてから、レイパーの体がピクリと動く。


「な……何て奴だ……まだ動けるのか……!」

「いや、見ろ!」


 愛理とセリスティアの声。


 立ち上がる魔神種レイパーは、まるで体から力が抜けるかのように、黒い煙を垂れ流していたのだ。


 雅が斬りつけた胸元には、大きな傷がパックリ口を開いている。緑色の血と共に、煙はそこから一番多く出ていた。


「ブ……ラタイ……!」


 消え入るように呟かれる、レイパーの言葉。


 そして黒い光がレイパーの体を包み、すぐに消える。


 その後に、そこにいた存在を見て、誰もが驚愕した。




 あちこち傷だらけ、血だらけの、真っ黒い肌をした、身長二メートル程の人型の生き物。


 全体的に筋肉が無く、骨ばったフォルムは、今にも圧し折れてしまいそうだ。


 赤く充血した真っ白な眼に、長い指。


 肩パッドはトゲが折れて、黒いマントの残骸が背中に張り付いている。ブーツもズタズタで、緑色の血で汚れていた。




 明らかに、魔王種レイパー。


 大きなダメージを受け、もう魔神の姿を保てなくなったのだろう。





 決定的な、止めを刺すチャンスに、雅達はアーツを構えた、その時だった。





 突如、大きな爆音と共に塔が揺れる。





「な、なんですのっ?」

「っ! 皆! 外を見て!」


 ミカエルの指差す方を、雅達だけでなく、魔王種レイパーも視線を向け――大きく目を見開いた。






 外に、何かいた。






 先程の爆音と揺れは、それが塔から飛び出してきたものだ。


 その存在は小さく、一瞬何だか分からなかったが、すぐに雅と優は眉を顰める。


「み、みーちゃん! あいつ……あそこにいた奴だ!」

「え、ええ!」

「っ! ミヤビ! ユウ! あいつ、まさかあなた達が言っていた――」




「ええ……レイパーの胎児です!」




 レーゼに続けて放たれた、雅の言葉。


 驚愕する一行。


 特にその話を聞いていない、希羅々、ミカエル、真衣華、シャロンの四人はあんぐりと口を開ける。


 そして、誰もがただ見ているしか出来ない中、レイパーの胎児は黒い光となって、どこかへと飛び去ってしまう。


 それを、魔王種レイパーは心底悔しそうに見つめ――口を開く。


「ビヤヘワタ……ライタカタテトウソヅゾッノネモオボ……カルフマヘゾッノタテ……!」


 そこで雅達は気が付く。


 突然現れたレイパーの胎児に、気を取られている暇など無かったことに。


「おイ! あいつが逃げるゾ!」

「っ! しまった!」


 志愛の声にハッとする一行。志愛の声の後に聞こたのは、ライナの言葉だ。


 慌ててレイパーの方に向かってくる雅達に、レイパーはジリジリと後ずさる。


 彼女達の行動は、僅かに遅かった。


 レイパーの体が、光に包まれる。


 そして――


「あぁっ!」

「そんな!」

「もう少しじゃったというのに……!」


 青褪める一行。


 光が消えた時、もう魔王種レイパーは消えてしまっていたのだった。

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