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第154話『塔上』

 雅達がそれぞれレイパーを撃破した頃、日本ではまだ、大量のレイパーが暴れていた。


 各地の大和撫子の奮戦により、少しずつ数を減らしているレイパー。


 それでも、新潟市内ではまだ多くのレイパーが残っていた。


 魔法陣からの出てくるレイパーは場所によって異なるが、新潟市で出現した魔法陣から現れたのは……『スライム種レイパー』ただ一種類。


 一軒家程もある大きさのスライムが、大量に分裂し、各地に向かっていた。


 故に種類は少なくとも、敵の数は多い。


 スライム種レイパーは変幻自在に形を変え、狼や蝙蝠、果ては騎士のような姿になって、女性を襲っている。


 スライムらしく標的の体に纏わり付き、体を溶かして殺す奴もいれば、剣や牙の形になった自身の一部で標的の体を貫き、斬って殺す奴等、一体から分裂したとは言え、戦い方、殺し方は様々だ。


 そんな中戦う、ノルンや優香、伊織達はというと――。


「はぁっ!」


 ノルンが杖型アーツ『無限の明日』を振るい、風の球体を飛ばす。


 真っ直ぐに飛んでいったその攻撃は、ノルンへと襲いかかってきていた、狼の形をしたスライム種レイパーを吹っ飛ばす。


 そこでノルンの脳裏に、自分が後ろからスライムに覆いかぶさられる映像が浮かぶ。彼女のスキル『未来視』が見せたものだ。


 振り向きつつその場を離れ、杖を向けて風の球体を飛ばせば、忍び寄っていたスライム種レイパーに直撃し、体が辺りに飛び散る。


 しかし――


「っ! まだ生きているっ?」


 飛び散ったスライムの一部がモゾモゾ動き出し、再び一ヶ所に集まって、何事も無かったかのようにスライムは復活してしまった。


 すると、


「ノルンちゃん! 離れて!」


 横から声がしたと思ったら、十本近い試験管がスライムに飛んできて、爆発する。


 試験管の中には様々な色の液体が入っており、爆発と同時にレイパーの体に掛かると、その体が煙を上げながら溶けていった。


「どくっすよ!」


 さらに声が轟いたと思ったら、溶けていくレイパーへと三発の小型ミサイルが直撃し、レイパーを爆発四散させた。


「ユウカさん! イオリさん! ありがとうございます!」


 ノルンを助けたのは、相模原優香と冴場伊織。


 伊織の腕には金属の箱が装着されていた。彼女のランチャー型アーツ『バースト・エデン』である。岩をも砕く威力のある小型ミサイルを放つことができるアーツだ。


 優香は指の間に試験管を挟んでいる。先程スライムに投げつけたのはこれだ。試験管型アーツ『ケミカル・グレネード』である。


 試験管の中には薬品が入っており、硫酸や王水等、薬品の種類は様々だ。いずれも優香の右手の指輪から出現させる際、彼女の意思で好きな薬品に変えられる。


 同じ硫酸でも、一般的な方法で生成されたものはレイパーには効かない。しかしケミカル・グレネードに入っている薬品ならば、レイパーにダメージを与えることが出来るようになっている。


「気をつけてね! ノルンちゃんが倒れたら、私達も終わりよ!」

「年下相手に申し訳ねーですけど……頼りにしてるっす!」


 バースト・エデンは二十発のミサイルを撃ったら、次にまたミサイルを撃つまで二十分の時間を要する。故に、攻撃のタイミングは慎重に見極めなければならない。


 ケミカル・グレネードもレイパーにダメージは与えられるが、どちらかというと薬品による戦闘補助がメインの使い方となるアーツだ。


 何より、優香と伊織にはスキルが無い。


 よって、この三人の中ではノルンがメインアタッカーとなる。


 責任重大だと、ノルンの額に汗が浮かぶ。


 それでも――


「ここら辺のレイパーは大体倒せたはず! 次、行きましょう!」


 尻込みなんてしている暇は無い。


 師匠達は、もっと強いレイパーと戦いに行ったのだから。


 ノルンはアーツをグッと握り締めると、伊織の先導の元、別の場所へと向かうのだった。




 ***




 一方、その頃。


 希羅々達は、シャロンの背中に乗り、塔の最上階を目指していた。


 魔法陣により、どこかへと消えた雅達。シャロン達は、彼女達は魔王種レイパーのところへと連れていかれたのだろうと推理していた。


 魔王種レイパーがいるとすれば、塔の最上階だろう。故に、彼女達はそこに向かっているという訳だ。


 因みにミカエルはシャロンの腕に抱えられ、希羅々と真衣華は背中に乗っている。


「……皆、無事かしら?」

「分からん。しかし、そう祈るより他無かろうて」

「真衣華。連絡の方はどうですの?」

「駄目だね。繋がらないや。やっぱり塔の中にいる人とは、通信が出来ないみたい」

「シャロンさん。塔へは後どれくらいかかりそう?」

「……天井が見えん。まだまだ掛かるのぉ」

「全く、呆れるほど高い建造物だこと……」


 シャロンの言葉に、三人は顔を険しくする。


 到着に時間が掛かれば掛かるほど、雅達の生存も低くなっていくのだ。


 ジワリと、一行の背中に嫌な悪寒が走る。


 と、その瞬間。


「なんじゃっ?」


 空中に突如紫色の魔法陣が出現し、慌ててそれを避けたシャロン。


 後ろを振り返りながら、眼を見開いた。


 すると、


「っ! シャロンさん! まだ来ます!」


 ミカエルの言葉で、慌てて前を向いたシャロンの眼に映ったのは、無数の魔法陣。


 二個、三個と回避しながら上昇していくシャロンだが――


「しまったっ?」


 時間差でいきなり現れた四個目は避けきれず、四人は魔法陣に捕われてしまった。


「真衣華! (わたくし)に捕まりなさい!」

「う、うん!」

「来るわよ! 皆、衝撃に備えて!」


 ミカエルの声を最後に、四人の視界がホワイトアウトし――




 気がつけば、ドーム状の部屋の床に体を叩きつけられる。




「こ、ここは……あの時の?」

「いや、ちょっと違うのぅ。前よりも広い……」


 以前、天空島で魔王種レイパーと戦った時の部屋と似ている部屋だが、シャロンの言う通り、前の倍以上の広さがある。床から天井までは三十メートル以上はあり、シャロンが竜の姿で飛び回っても全く不自由無いだろう。


 地面や壁の装飾も、少し違った。


 そんな中、


「……ふん。皆さん、気をつけて下さいまし。おでましですわよ」

「あいつは……!」


 希羅々達がいるのは、部屋の中心。


 そして、背後には出入り口と思わしき扉がある。


 その前に立つ人影。


 真っ黒い肌の、身長二メートル程の人型の生き物。


 全体的に筋肉が無く、骨ばったフォルムだ。


 不気味な程真っ白な眼に、長い指と爪。


 身に付けたるは、トゲのある肩パッドと、黒いマント。さらに血で汚れたブーツ。


 あまりに禍々しい見た目。


 そう、そいつは――




「モヅソフムトレボ、ワムメノト。モヤビヘワル。……ラヤトザカ」




 魔王種レイパーだった。

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