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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第17章 新潟市中央区
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季節イベント『宿題』

 これはレーゼが新潟にやってきた後のこと。


 丁度、志愛が雅の家に泊まりに来て、三人で一緒にアニメ鑑賞会をしていた日の夜である。


「あら? 何をしているの?」


 夕食が終わり、後片付けが終わったレーゼ。


 すると、テーブルで志愛がウィンドウを開き、何やら真剣な顔で指を動かしていた。


「これですカ? 学校の課題でス」

「あぁ、そっか。学生だものね」


 こちらの世界の学生がどのような勉強をしているのか、ちょっと気になったレーゼは、ウィンドウを覗きみる。


 志愛がやっていたのは、小論文。テーマは最近の時事問題を取り上げており、こちらに来てまだ日の浅いレーゼからしてみればちんぷんかんぷんなものだ。


 と、そこで、


「レーゼさんも何年か前は学生だったんですよね。やっぱり、こんな感じの宿題って出たんですか?」


 雅が二人の輪に入ってきて、そう尋ねる。


「ええ。作文の課題なら、私も結構やらされたわ。……そう言えば、ちょっと苦い思い出があるわね」

「苦い思い出、ですカ?」

「丁度、今くらいの時のことよ。私が十二歳の頃のことだったかしら――」




 ***




 異世界の学校にも長期休暇は存在する。異世界の八月は日本で言えば冬のようなものであり、要は冬休みだ。この日は丁度、その冬休み最終日の夜だった。


 外ではしっとりと雪が積もる中、暖かい自室で次の日の準備をしていた十二歳のレーゼ。机の上には本や紙の束が置かれており、それらを整理しながら鞄に詰めていた。


 長期休暇の時に、学校から大量の課題を出されるのは異世界も同じ。


 レーゼは計画を立てて終わらせていたため、よくある『夏休み最終日に泣きながら課題を終わらせる』なんてことにはならない。そんなことでは、昨年他界した両親に顔向けが出来ないと思っていたから。


 しかし、


「……え? 何これ」


 手を付けていない課題が出てきたのだ。


 どうやら本の間に挟まっており、今まで見つからなかったのだろう。


 しかし、幸いにも紙は一枚だけ。どうせ大した内容では無いはず……そう思ってそれを見たレーゼの顔から、サーッと血の気が引いた。


 作文の課題だ。題材は、『休み期間中に友達と何をして遊んだか』というものだった。紙一枚に纏めるようにという指示だ。


 ごく一般的な学生なら、恐らく今この時間にこの課題が終わっていなかったことが発覚しても、まだ何とか出来るレベルのもの。


 だが……レーゼは違った。


「ど、どうしよう……。私、誰とも遊んだりしていないわ……」


 家事に入浴、食事に睡眠。学業、鍛錬。レーゼの生活は、この六つで構成されている。


 ティーブレイクくらいはしていたとは言え、誰かと遊ぶという行為は一切していない。


 せめて課題が『休み期間中に何をして遊んだか』であれば、そのティーブレイクを盛ってそれっぽく書けるのだが、この『誰かと一緒に』というのが大変な曲者だ。


「困った……。私、友達なんていないのに……」


 ワシャワシャと、レーゼは髪を掴みながら唸る。


「今から誰かを遊びに……いえ、駄目よ。もう夜も遅い。でも、正直に『友達なんていないから遊びませんでした』なんて書いたら怒られる……」


 無論、課題をやらないなんて選択肢は無い。忘れていたのは自分である。


 とは言え、もう十二歳にもなる学生にこんな子供っぽい課題を出すなと不満が無かったわけではないが。


 提出が明日となれば、大変心苦しいが、でっちあげるしかないと決心するレーゼ。


 しかし、だ。


「今時の子って、何をして遊ぶのかしら? かくれんぼ? 鬼ごっこ? 誰かに聞こうにも、この時間は迷惑よね……」


 レーゼの遊びの知識は、六歳くらいの時から止まっている。


 流行の遊びなど、知らない。


 因みにレーゼの学校の生徒で、鬼ごっこやかくれんぼをして遊ぶ子は、男女含めてただの一人もいなかったのだが、そんなことレーゼは知る由も無い。


「と、とにかく何とかするしかないわ……。明日の朝まで終わるか……いえ、終わらせるのよ、私!」


 恐ろしく乏しい知識をフル動員し、レーゼは青い顔をしながら課題に向き合うのだった。




 ***




「結局、学校のだれそれと一緒に鬼ごっこをして遊びました……って内容を誇張しまくって何とか書き上げたんだけれど、あっさり嘘がばれて先生に呼び出されたわ」


 当時の記憶に、顔を顰めるレーゼ。今にして思えば、自分はどうかしていたと分かる。


 流石にただ「鬼ごっこをしました」だけでは嘘がばれると思ったため、いかにも十二歳がやりそうな鬼ごっこに仕立て上げようとしたところまでは良かった。


 ただ内容がマズかったのだ。いくらなんでも、大豪邸を舞台に、どったんばったん大騒ぎな鬼ごっこをしましたというのは無理がある。リアリティを出そうと書いている内にあれもこれもそれもとどんどん情報が増え、気が付けば紙一枚に収めなければならないはずなのに十枚くらいになっていた。ちょっとした小説だ。


 因みにその時の課題は、レーゼは今でも机の引き出しの奥底に眠らせてある。言うまでも無く黒歴史。


 ただ、当時一番辛かったのは――


「怒られるかと思ったんだけれど、何か憐れまれて……あれが相当堪えたのよ。――って、どうしたの、あなた達?」


 雅と志愛が、目元を拭ったのを見て、レーゼは怪訝な顔をする。


「レ、レーゼさん……これからは、いっぱい遊びましょうね」

「私で良けれバ、いつでも相手になりまス」

「ちょ、ちょっと……そんな顔……待ちなさい、二人とも。あの時のことを思い出すから、その顔はやめて」

「志愛ちゃん、アニメの続き、観ましょう。ちょっとでも多く、レーゼさんと一緒に遊ぶんです!」

「そうダ! 課題なんてやっている場合じゃ無いナ!」


 志愛はウィンドウを閉じ、雅と二人でガシッとレーゼの腕を掴む。


 そして「ちょっとちょっとぉっ?」と困惑した声を上げるレーゼを連れて、二人は雅の部屋へと向かうのだった。

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