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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第17章 新潟市中央区
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第17章幕間

 世界各地で魔法陣が発生し、人々がレイパーに襲われていた時。


 ノースベルグとセントラベルグの間にある、カルアベルグ収容所も、例外無くレイパーの襲撃に遭っていた。


 現れたのはたった一体。アランベルグの山奥に生息する、足が丸太のように太い猪『ファットボアー』によく似た特徴を持つ、人型のレイパーだ。


 分類はそのまま、『人型種ファットボアー科』である。


 しかしこいつが相当に強く、出現してからかれこれ十五分経つが、未だに決着が付いていない。


 その戦いの前線にて。


「囚人の避難はまだ?」

「はっ! 後一分程です!」


 レイパーと戦っているのは、金髪で長身の美女。かつて雅と交流し、一度は共に戦った、ここの看守である。


 リアロッテ・ライムベルツだ。武器は鞭型アーツ『スパーキア・ウィップ』。


 全身に電流が迸り、僅かだが髪が逆立っている。これは彼女が自身のスキル『帯電気質』を使用し、身体能力をアップさせているからだ。


 だがそれとは別に、全身ボロボロ。身体強化をしても尚、見るからにレイパーに苦戦しているのがよく分かる。


 発せられた声も、どこか疲れが聞き取れるが、それでも淡々としたように振舞っているのは、レイパー相手に疲弊しているところは見せまいという、リアロッテの意地だ。


 そんな彼女の背後で囚人や他の職員の避難を誘導していた男性――彼は以前、この収容所にて雅と口論になった男性である――が、切羽詰ったようにリアロッテの質問に答えた。


 レイパーが暴れ回るため、中々避難が進まず、既に犠牲者は十数人も出てしまっていた。


 カルアベルグ収容所には、レイパーと戦えるのがリアロッテと後もう一人しかおらず、そのもう一人は囚人の警護をするためここにはいない。


 つまり人型種ファットボアー科レイパーと戦っているのは、リアロッテ一人だけだった。


「そう、ならあなたもそろそろ避難して。ここは危険」

「はっ!」


 男性は敬礼をすると、他の囚人を連れて逃げていく。


 そんな彼らをレイパーは無視し、腕を軽く振ってから、腰を低くして突進の準備体勢に入る。


 最初は女性囚人を無差別に襲っていたレイパーも、今はその興味を、自分の邪魔をするリアロッテにしか向けていない。


 リアロッテは相手の足目掛けて鞭のトングを伸ばすが、それが巻きつくより早く、レイパーは動き出した。


「――っ!」


 自身の攻撃を躱され、レイパーの突進を受けて吹っ飛ばされ壁に激突するリアロッテ。


 スキルで強化した体のため、まだ息があるが、常人なら骨が砕けている威力だ。


 起き上がったリアロッテの眼前に、レイパーの拳が迫るが、咄嗟に横に転がり、それを躱す。


 そして再び鞭を振るい、レイパーの右腕にトングを巻きつけると、鞭から電流が流れていく。


 だが、リアロッテは顔を歪めた。まるで効いた様子が無かったからだ。


 戦闘開始から、既に足や左の腕、胴体……と鞭のトングを巻きつけ電流を流して感電死させることを試みているが、どうにもこのレイパーには効果が薄い。


 レイパーはニヤリと笑い、口を開く。


「クゾゾ。ハヤトカタ、ヨノヘテソメモトレ」


 そう言うと、レイパーは再び腕を振り上げ、リアロッテに拳を放つ。


「っ!」


 と、その時だ。


 レイパーの頭上から、不意に『何か』が襲いかかる。


 それに咄嗟に気が付いたレイパーがその場を飛び退いた。


 その『何か』は地面に着弾し、爆発する。


「……星?」


 リアロッテは眉を寄せ、そう呟いた。一瞬のことだったが、落ちてきた『何か』は星の形状をしていたのだ。


 そして上を見上げれば、そこには絨毯――魔法の絨毯だ――が浮いており、そこから誰かが飛び下りてくるのが見えた。


 リアロッテと同じ、金髪の女性だ。そして、耳が長い。エルフだ。首には、ブローチがある。


 着地した彼女は、リアロッテの方に顔を向けると、口を開く。


「勝手に助けたけど、良かった?」

「……あなたは?」

「カリッサ・クルルハプト。近くを通りかかったら、何か大変そうだったから……」


 リアロッテの窮地を救ったのは、カリッサ。ここから離れた国『オートザギア』にある、ハプトギア大森林で、少しの間雅達と行動を共にした女性である。


 ブローチは、アミュレット型アーツ『星屑の瞬き』だ。


 何故カリッサがここいるのかと言えば、ハプトギア大森林にあったコートマル鉱石を別の場所に輸送する仕事の都合……つまり、本当に偶然のことだった。


「……手を貸してもらえるなら、ありがたい。感謝する」


 敵が強く、一人では埒が明かなかったところだ。見知らぬ他人とは言え、戦力が増えるなら大いに助かる。


 と、そんな会話をしていると、二人に向かってレイパーが突進してきた。


「下がって!」


 カリッサはリアロッテの前に躍り出ると、両手の平を前に向ける。


 刹那、レイパーとカリッサの間に星型の盾が出現した。


 ガキン、という派手な音を立て、レイパーと盾が激突する。


 しかし、


「くっ!」


 突進を止められたレイパーは、さかさず腕を振り上げると盾を思いっきり殴りつけた。


 刹那、カリッサの顔が歪む。星型の盾に、罅が入っていた。


 二発、三発とレイパーの拳が叩きつけられると、派手な音を立てて盾が砕けてしまう。


 そして無防備になったカリッサへと、突進してきた。


「捕まって」


 そこでリアロッテがカリッサの体を抱えると、上にトングを伸ばし、収容所の壁の突起に巻きつけると、トングを縮めて勢いよく跳ぶ。


 瞬間、下の方から轟音がした。


 レイパーの突進で、壁が抉れた音だ。


 カリッサはリアロッテに抱えられながらもレイパーへと手の平を向けると、星型のエネルギー弾を放ち、敵に命中させて吹っ飛ばす。


 リアロッテは跳んでいる間に腕を振り、突起に巻きついたトングを素早く解き、二人は着地した。


 低い唸り声を上げながら起き上がったレイパーは、腰を落として再び二人へと突進する体勢に入る。


 だが、


「させないよ!」


 カリッサが手の平を向けながらそう叫んだ瞬間、レイパーは目を当ててもがき出した。


 彼女のスキル『光封眼(こうふうがん)』により、敵の眼を眩ませたのだ。


「今だ!」

「分かっている」


 こんな決定的なチャンスを逃すリアロッテでは無い。


 もがくレイパーの首にトングを巻きつけ――今度は電流は流さず思いっきり締め上げる。


 感電しないのなら、窒息死させるまで。


 さらにレイパーの体に、カリッサの無数の星型エネルギー弾が襲いかかった。


 リアロッテに首を締められ、エネルギー弾の嵐に反撃も出来ず、首に巻きついたトングを解くのにもがくレイパー。


 が、しかし。


 段々と呼吸が出来なくなり、酸素不足になった体に徐々に力が入らなくなって、ついに体が一瞬硬直した、そのすぐ後。


 人型種ファットボアー科レイパーは爆発四散するのだった。


「……ふぅ。助かった、ありがとう」


 何とか敵を倒せ、思わずホッと一息ついたリアロッテは、助けてくれたカリッサに礼を言う。


 カリッサは「なら良かった。じゃあ私はこれで」と手をヒラヒラさせて、ずっと宙に浮いていた魔法の絨毯に跳び乗ると、あっという間にどこかへ去っていく。


 カリッサはハプトギア大森林からコートマル鉱石を移動させる仕事が忙しく、ここに長居をする暇は無いのだが、そんなことはリアロッテは知る由も無い。


 随分あっさりとした別れで、リアロッテはついつい彼女の姿が見えなくなるまで、その背中を見つめていた。


 そして消えた後も、その場に立ち、空を見上げたまま。


 何となく、考えごとをしていたのだ。


 他の場所でもレイパーが暴れているという話は、彼女の耳にも入っていた。


 これまで自分が会ったことのある人達は無事だろうか、そう思ったリアロッテ。


 思い浮かべた顔の中には、雅やセリスティア、そして今は更生施設『牛の歩み』で生活している子供達もあった。


「……仕事に戻る」


 リアロッテはそう呟くと、無事にレイパーを倒したことを報告しに行くのだった。

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