第134話『妖精』
襲われている女性は、かなりの長身だ。目測で、百七十センチ以上はある。
金色の髪を肩口で切り揃え、首元には星型のブローチ。緑を基調としたジャケットとミニスカートを身に付け、同じ人間とは思えない程激しく動き回っていた。
彼女がひとたび手をレイパーに向ければ、放たれるは星型のエネルギー弾。命中すれば、光と共に爆発し、敵を怯ませる。
一方、女性を襲う二体のレイパーだが、一体は全身が炎に覆われた、大男だ。全長三メートル以上あることから、ミドル級である。背中からは、まるで悪魔の羽のようなものが生えていた。
分類は『ミドル級火男種』といったところか。
手には黒い鞭を持っており、こちらも炎に覆われている。レイパーが軽く振るだけで木や地面が砕け、焦げる程の威力だ。辺りの木が破壊されていたり、焦臭い臭いがしていたのは、この鞭を振り回していたからだろう。
もう一体のレイパーは、そいつと比べれば小柄な人型のレイパーである。腕と足との間に皮膜があり、まるでムササビのようだ。しかし頭からは鹿のような雄々しい角が生え、全体的にアンバランスな見た目をしている。
こちらの分類は『人型種ムササビ科』だろう。
人型種ムササビ科レイパーは宙を滑空し、女性に勢いよく突進して攻撃していた。女性が突進を躱しても、別の木等を足場にコースを変え、再び攻めに行く。今は避け続けていても、このままではいずれクリーンヒットするのは時間の問題だ。
雅達は戦闘の場まで走って向かうも、倒れた木等が邪魔で思うように近づけない。
優やミカエルが遠距離攻撃を試みるも、今度は周りに立っている木が障害となってしまう。ある程度接近する必要があった。
そんな中、
「このぉっ!」
唯一飛んでいるファムが人型種ムササビ科レイパーに一気に近づき、飛び蹴りの奇襲をおみまいした。
「誰っ?」
襲われていた女性の、驚いた声。
ミドル級火男種レイパーも突然現れたファムに気をとられ、女性へと攻撃していたその手を一瞬止めてしまう。
その瞬間を逃さず、よいところまで近づけていた優が弓型アーツ『霞』によるエネルギー弾を放ち、見事敵の体に命中させる。
僅かに怯んだ隙に、ライナが自身のスキル『影絵』で三体の分身を出現させ、鎌型アーツ『ヴァイオラス・デスサイズ』を振り上げ巨大なレイパーの体に斬りかかった――が、それを見た女性が慌てたように、
「気をつけて! こいつに近づいたら焼け死んじゃう!」
女性の言葉通り、分身がミドル級火男種レイパーの体に近づいた刹那、その体から噴き出す炎が分身を包み、あっという間に焼き尽くしてしまった。
「皆さん! ちょっと離れて!」
ノルンがそう叫ぶや否や、杖型アーツ『無限の明日』を振り、二体のレイパーへと風の球体を飛ばす。
ミドル級火男種レイパーは腕を振って飛んできた魔法を弾き飛ばし、人型種ムササビ科レイパーは軽やかな動きで攻撃を躱す。
さらに人型種ムササビ科レイパーはノルンへと飛び掛り、蹴りを放つが、ノルンは『未来視』のスキルで敵の動きを察知しており、難なく敵の一撃を避けた。
ジロリと、人型種ムササビ科レイパーがノルンを睨む。
すると、
「皆! 逃げるよ!」
女性が叫ぶと、二体のレイパーに向かって手の平を向けた。
瞬間、レイパーは揃って顔に手を当て、激しく悶え始める。まるで、目玉に攻撃をされたかのようであった。
「今だ! こっち!」
呆気にとられる一行に声を掛け、その場を逃げ出す女性。
一瞬固まった雅達だが、ここは足場が悪く、戦闘には不向き。
すぐに女性の後を追って、その場を離れるのだった。
***
「助かったよ。私はカリッサ・クルルハプト。あなた達は?」
逃げ出すこと数分。
身を潜めれば、誰にも居場所を悟られないと確信させるほど、森の静かな場所にて。
ようやく落ち着いたところで、先程レイパーに襲われていた女性――カリッサはそう言って会釈する。
そこで、一行はカリッサの耳が、普通の人よりも明らかに長いことに気がついた。
「あなた、もしかしてエルフ?」
ミカエルが尋ねると、カリッサは頷く。
雅はふと、異世界のことについてレーゼが教えてくれた際、この世界にはエルフがいると言っていたことを思い出した。
本物に会えてテンションが上がった雅。
しかも、よく見れば随分スタイルが良い。
ピシャーン、と、雅の脳に光が走り、
「エ……エロフ……!」
無意識にそう呟き、そのすぐ後に優の拳が脇腹にヒットした。
と、悶える雅は置いておいて、だ。
ミカエルから始まり、自己紹介していくノルン、希羅々、優、ライナ、ファム。優や希羅々の名前を聞くとカリッサはキョトンとした様子だったが、特に突っ込むこともなくスルーしてくれた。
そして、最後に復活した雅の番。
「私は雅。束音雅です。私達、ちょっと探し物があってここに来たんですけど、そしたらカリッサさんを見かけて……。怪我はありませんか?」
「ご心配どうも。でも大丈夫。襲われて間も無く助けてもらったから」
「あなた、見たところアーツをお持ちでなさそうですけれど、そんな状態で二体のレイパーと戦うなんて無謀ですわよ?」
レイパーには魔法でダメージを与えられるとはいえ、ミカエルやノルンのようにアーツを介さなければ効果は薄い。
それ故の希羅々の言葉だったのだが、カリッサは「あー、そっちもご心配なく」と首元の星型のブローチに手を触れた。
「アミュレット型アーツ『星屑の瞬き』。光の魔法の攻撃性能を高める力がある。……最も、二対一じゃ随分苦戦させられたけど」
「おっと、それがアーツでしたのね。これは失礼……。もしかして、逃げる際に敵が何やらひどく悶えていたのは……」
「うん。『光封眼』っていう、私のスキル。相手の視界を一瞬だけ真っ白に染めることが出来るね。ちょっと集中しないといけないのが欠点。あなた達が隙を作ってくれたから、こっちもスキルを使う余裕が出来た」
「ところで、何でここにレイパーがいたんでしょう?」
ライナが尋ねるが、カリッサは首を傾げる。
カリッサはハプトギア大森林の一角を管理する仕事をしているらしく、今日も散策していたら、あのレイパー達に急に襲われたそうだ。
一部は観光地として開放されているハプトギア大森林だが、森の奥には普通は人はいない。そんな場所に何故レイパーがいたのか、不思議だった。
「もしかして、奴らもコートマル鉱石を探しているんじゃないでしょうか? 探している途中でカリッサさんを見つけて襲いかかった、とか……」
「コートマル鉱石?」
雅達の事情を知らないカリッサが疑問の声を上げたので、雅達は説明を始める。
すると、
「なるほど分かった。コートマル鉱石なんて見たことないけど、この森は広い。もしかするとどこかにあるかもしれない。私はこの森に少し詳しいから、一緒に探してあげる」
「いいんですか? ありがとうございます!」
こうして、カリッサがコートマル鉱石散策メンバーに加わった。
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