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第15章閑話

 七月二十七日金曜日、午後六時五十一分。


 新潟県北蒲原郡聖籠町にある『StylishArts』にて。


 以前はそこには二十階建てのビルがあったのだが、久世や魔王種レイパーの一件で倒壊し、今は立ち入り禁止となっている。


 そんな場所に、二つの人影があった。


 優一と優香だ。何やら人目を気にしながら、コソコソと向かっている先は……『StylishArts』の地下である。


 一ヶ所、魔王種レイパーが最終実験室に侵入した際に出来た穴はあるが、地下はある程度以前のまま残っている。


 アーツの開発や製造で使う特殊な機械は基本的に地下に置かれており、それらも殆ど無事だった。


 故に、立ち入り禁止となってはいるが、『StylishArts』の一部社員は普通に地下で仕事を行っていたりする。


 そんな地下の一室――休憩室と書かれている――に、優一と優香は到着。やたらゆっくりと扉を三回ノックすると、中から返事が聞こえてきた。


 部屋に入れば、そこには二人の男性の姿が。


 一人は桔梗院光輝。言わずと知れた『StylishArts』の社長である。


 そしてもう一人は、クセっ毛を茶髪に染めた男性。彼はというと……


「どうも、いつも娘がお世話になっています」


 会釈しながらそう言ったのは、橘(れん)。苗字から分かる通り、真衣華の父親だ。


 そして、彼は『StylishArts』の開発部長でもある。


「いやいや、うちの優こそお宅の真衣華さんには助けてもらっているようで……」

「真衣華ちゃんは元気? 昨日、人工レイパーと一戦交えたけど……」

「ええ。今は部屋で、フォートラクス・ヴァーミリアの手入れでもしている頃でしょう。ご心配頂き、ありがとうございます」

「優さんの方はどうですか? オートザギア……でしたっけ? 慣れない土地で大変でしょう」


 集まった四人の大人達。これから、このメンバーで秘密の打ち合わせをするのだ。先程の遅いノックは、要は合言葉のようなものだった。


 休憩室だからか部屋は小さく、テーブルと人数分の椅子以外に物は無い。実は仮眠用のベッドがあったのだが、邪魔だったので別の部屋に移動させてある。だがそれでも、ここに四人も入れば結構手狭だ。それでも、他の部屋は散らかっていたり大きな加工機があったりで打ち合わせには不向きなため、ここが打ち合わせには最も適していた。


「じゃあ蓮君。そろそろ……」

「ええ。では、進捗を報告させて頂きます」


 軽い世間話もそこそこに、早速本題に入る四人。


 蓮はテーブルの上に指輪を置き、空中にウィンドウを出現させる。そこには、様々なグラフや写真が写し出されていた。


 これは何のデータなのか……それは、この四人しか知らないことだ。


 一つ確かなのは、今蓮がテーブルの上に置いた指輪は、雅達がアーツを収納する際に用いている物と同じ物だということ。


「結論から先に申し上げますと、実用にはもう少し改良が必要ですね。性能を維持するためのエネルギーが今の倍は必要になる……」

「倍……ですか。普通にやっていたら、結構厳しい数値ね……」


 資料を見ながら、優香が眉を寄せて唸るように呟く。


 すると、蓮が再び口を開いた。


「そこについては、何とかなるかもしれないと考えています。優さん達が探しにいったコートマル鉱石……話を聞いた限り、異世界で使われている『魔法』の力を何倍にも引き上げる程のエネルギーがある、とか……」

「ミカエルさんの話では、現地でも大変貴重な物とのことですが……希羅々には、もし可能なら少量でも分けてもらえるよう頼んでみて欲しいと話をしてあります」

「ならば、解決出来るかもしれないな。上手くいと良いのだが……」


 目を閉じ、天井を仰ぐ優一。


 優からは毎日現地での状況の報告が届いているが、未だコートマル鉱石は見つかっていない。何としてでも探し出してくれ、と、優一は遠くの娘に祈る。


「後は実戦テストの問題がありますね。誰か実力のある人に、実際に使ってもらいたいんですが……」

「それなら、レーゼ君はどうだろう? きっと協力してくれるだろうし、彼女は防御系のスキルを持っている。他の人より危険は少ないはずだ」

「ありがとうございます。こっちも、首尾よくコートマル鉱石が手に入ったら、可能な限り早く完成させましょう」

「頼んだぞ、蓮君。これは……」


 言いながら、光輝がテーブルの上の指輪を手に取る。


「レイパーから人類を守る砦なんだからな」




 ***




 一時間後。


 打ち合わせが終わり、帰ろうとしたところで、蓮が「そう言えば」と、思い出したように口を開く。


「前に真衣華から聞いたんですけど、優さんのアーツ、あれからメンテナンスには出されましたか?」


 そう聞いたものの、優香が申し訳無さそうに目を閉じるのを見て、蓮は苦笑いを浮かべる。


「ごめんなさい。優には早くやるように言っていたんだけど……『アーツをメンテに出したら、みーちゃん達と戦えなくなる』って言って聞かないのよ」

「前に真衣華から、分解された優さんのアーツの写真を見せてもらいました。まぁすぐにどうこうなるとは思えませんが、安全を考えると、近いうちにメンテナンスした方が良いかと。エネルギー弾の装填速度も若干遅くなっているみたいですし……」

「まぁでも確かに、メンテ中の代替アーツでレイパーを倒そうというのは難しいか……」


 普段ならメンテナンスを受けることを強く勧める光輝だが、この時は悩むようにそう呟いた。


 アーツをメンテナンスに出すと、その間自分の身を守るための代替アーツが支給される。


 しかし万人が使うことを想定されているためか、渡されるのは大きな盾と、おもちゃみたいなナイフのアーツであり、性能は然程高くない。


 身を守ることが精一杯で、光輝の言う通りこれでレイパーと戦うのは困難を極める。そもそも根本的な話だが、使い慣れていないアーツでレイパーと戦うのは無謀だ。


 世界が融合し、レイパーの出現頻度が増えた今日この頃。使いなれたアーツをメンテナンスで手放し、代替アーツを持つことは却って危険だったりする。


 最も、挙動の怪しいアーツを修理もせずに持ち続けることも危険なのだが。


 悩ましい話ではあるのだが、結局、優香からもう一度優にメンテナンスの催促をしてみる、ということになったのだった。

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