表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
163/669

第15章幕間

 レーゼ達が久世の手掛かりを求め、SNSで情報収集をしていた頃。


 フォルトギアの時間では午前八時七分。


 ミカエルの実家、アストラム邸にて。


「あー……頭いったい……」


 寝ぼけた眼を擦りながら、洗面所へと向かう優。


 敷地面積、約一万平方メートルのところに立てられた大豪邸は、客間から出て洗面所に向かうだけでも五分はかかる程だ。


 最初は大きな屋敷に感動を覚えていた優も、数日もここで寝泊りすれば一周回ってうんざりしてしまう。優はここと比べれば断然狭い我が家を恋しく思いながら、同時にそんな家のローンを完済するため日々一生懸命に働いている両親の顔を思い出し、何となく申し訳なくなって軽く謝罪する。


 すると、


「あら? 相模原さん。おはようございます」

「なんだ、希羅々ちゃん起きてたんだ。おはよ」


 途中で出くわしたのは、桔梗院希羅々。トレーニングウェア姿であり、薄ら汗の匂いがする。どうやらランニングでもしていたのだろうと優は推察した。


「ったく、早いわね。随分と健康的だこと」

「あなた方、寝過ぎですわよ。いくら昨日が遅かったとはいえ……」


 呆れた顔でチクチク説教じみたことを漏らす希羅々に、言い返すのも面倒な優は適当に相槌を打つ。


 昨晩は色々あって、優もまだ眠いのだ。


 理由は不明だが、どうも大量のエネルギーを求めて世界各国を回っている魔王種レイパー。雅達がフォルトギアに来たのは、そんな魔王種レイパーが欲しがりそうなエネルギーの塊――コートマル鉱石という魔法石だ――を、奴より先に手に入れること。


 コートマル鉱石がどこにあるのか分からないものの、先日、ミカエルの母親のヴェーリエが探してくれたコートマル鉱石に関する資料を元に、あちこち当たりをつけて探し回っていたのだ。


 昨日は少し遠出し、いかにもコートマル鉱石がありそうな洞窟を探してみたものの、結果は空振り。ここに戻ってからまた作戦会議を行い、あれこれと議論して何とか次の指針が決まった時には既に夜中の二時を過ぎていた。


 なんやかんや寝る支度をして、就寝したのは三時近かっただろう。優が眠いのも無理は無く、寧ろ早起きして普通に振舞っている希羅々が凄いのだ。いつも朝は六時に起床しているようで、今日もその時間に普通に目が覚めたらしい。


 どんなに寝る時間が遅くなっても、決まった時間に起きる。ここら辺が金持ちと貧乏人の生活の違いなのだろうかなどと考える優。


 一通り言いたいことを言い終わった希羅々は満足したのか部屋に戻っていくのを、ただボーと眺め、はてさて自分は何をしようと思ったのかと少しの間悩み、そういえば洗面所に行こうとしていたのだと思い出す。


 すると、優の近くにある部屋の戸が開く。


 出てきたのは……


「あ、ユウさん。おはようございます」


 銀髪のフォローアイという髪型の少女、ライナだ。


「おはよう、ライナさん」

「顔洗いに行くんですか? 私もです。さっき起きたばかりで……」

「あー、もしかしてさっきの希羅々ちゃんがうるさかった? 私から一言文句言っておくよ、ごめんね」

「い、いえ。別にそういうわけでは……」


 苦笑いを浮かべるライナ。何となく目が覚めただけだったのだ。


 ライナは優と一緒に、他愛も無い話をしながら洗面所へと向かう。


 が、どこか会話がぎこちない。起きたばかりで頭が回らないから、というのもあるが、そもそもの話、何を話せば良いのか分からないからである。


 雅のことくらいしか共通の話題が無いのだが、互いにそれを避けている様子。根拠は無いが、雅の話をすると余計な修羅場になるような気がするのだ。


 要は、二人とも今は牽制中の状態。


 相手が雅とどれくらい親しいのか、それを見極めるまでは深く突っ込めない。


 故に、表面的な会話しか出来ないのである。


 正直、一緒にいても居心地が悪く、逃げたい気持ちで一杯な優とライナ。


 しかしだからと言って会話を早々に切り上げないのは、互いに良好な関係を築く気があるからだ。悪い人では無いというのは知っているし、共にレイパーと戦う仲間である。


 この旅の間に、手探りで会話しているような今の関係を打破出来ないものかと二人がこっそり頭を悩ませていると――奇跡的にそのチャンスが巡ってきた。


 顔を洗い終え、スッキリした二人が部屋に向かっていた、その時。


 近くの部屋から、二人のメイドの会話が聞こえてきた。




「ねーねー、今うちにいる客人で、ピンクの髪の子いるじゃない?」

「あー、ミヤビさんのこと? うんうん」

「噂なんだけどさー、なんかメイド長のところに夜這いにいったとか……」

「あー、知ってる知ってる! 昨日の夜でしょ? 多分マジな話だと思うよ、それ。だって他のメイドのところにも夜這いに行っているって話だし!」




 思わずずっこけた優とライナ。


 雅のことを知っている二人は、ほぼほぼ間違いなく、今のメイド達の話が本当だと確信する。


 そう言えば、昨晩の打ち合わせが終わった後、雅の足取りがやたら軽かったのと優とライナは思い出す。きっとメイド長に会いに行くから、ウッキウキだったのだろう。


 夜中の二時過ぎに人の部屋に遊びに行くな、いやそもそも何をしにいったんだと色々な考えが二人の頭の中を巡り――気が付けば互いに光の無い目で頷き合って、雅の部屋に直行。


 部屋でくつろいでいた雅に有無を言わさず鉄拳制裁を加え、一通り叱りつけた後、二人は優の部屋で小一時間程雅の女癖の悪さに対して愚痴をぶちまける。


 そこには、先程までのようなぎこちなさは無い。




 気が付けば、二人はごく自然に会話出来るようになったのだった。

評価や感想、いいねやブックマーク等、よろしくお願い致します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ