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第127話『下田』

 新潟県のほぼ真ん中……県央地区と呼ばれるところ、三条市。刃物や金物の生産で有名な地域だ。


 レーゼ達が調べに行ったのは、三条市の南東側にある、下田地区。


 粟ヶ岳や守門岳といった山々に囲まれ、地区の真ん中を走るように五十嵐川が流れている山村である。有名なのは八木ヶ鼻という、高さ二百メートル超の崖だろう。三条市の名勝にも指定されている。どの季節に訪れても、荒々しくも雄々しい岩壁に圧倒されるが、特に冬は雪によって美しく彩られ、非常に美しい。


 レーゼ達の目的地は八木ヶ鼻よりももっと手前……写真に映っていたのは、下田地区の里山だ。


 時刻は、午後一時四十六分。


 この暑い中、六人――レーゼ、愛理、セリスティア、志愛、シャロン、真衣華だ――は山道を歩いていた。


「なんか……前にもこんな風に山道を歩いたことがあったわね……」

「弥彦山の時ですね……あの時も暑かったですけど、今日は一段とキツい……」


 言いながら、愛理は後ろを着いてくるセリスティア達に視線を向ける。


 あの時一緒にいたのは雅とレーゼだけだったが、今はもっと多くの仲間がいる。


 雅は昔、自分の世界と異世界の仲間達と一緒に全てのレイパーを倒す等と言っていたが、よもやそれが、こんなに早く実現するとは正直思っていなかった。


 不思議なものだと思う一方、なんとなく嬉しくもある。


「橘。目的地まで、あとどれくらいだ?」

「まだ十分くらい歩かないとだねー」


 調べてみたら、里山には敵がアジトにしそうな廃屋がいくつかあり、そこから候補を三つ絞り込んでいたレーゼ達。


 今真衣華が答えたのは、その内の一番近いところのことである。


「それにしても、溶けそうな程あっちぃな……。前にミヤビから聞いたんだけど、これが半年もすれば凍えそうな程寒くなるって本当かよ……?」

「えエ、本当でス。この暑さが恋しくなるくらイ、寒くなりますヨ」

「体を壊しそうじゃのぉ……」


 今日の気温は三十六℃。正直、こんな日に外を出歩くのは自殺行為の一歩手前だ。


 ジリジリと降り注ぐ夏の日差しは痛いくらいであり、愛理達も何年も日本で過ごしているが、これには慣れない。


「希羅々達が帰ってきたらさ、皆で海行かない? プールでもいいけど」

「オ、それいいナ。今度の休ミ、新しい水着でも買いに行くカ」

「こら二人とも。そんな話をすると行きたくなるだろう。――少し、休憩しましょうか」


 真衣華と志愛に軽く笑いながらそう言ってから、愛理は全員にそう提案する。


 もう少し頑張れば目的地だが、無理は禁物だ。


 皆もそれを分かっているから、快く承諾するのだった。




 ***




「そういや、ここって観光地なんだっけ?」


 近くの木にどっしりと寄りかかり、辺りを見回しながらセリスティアは聞く。


「そうそう。私も小さい頃、連れて来てもらったことがあるよー。温泉入った」

「オンセン?」

「あ、そっちの世界には無いんだね。簡単に言えば、滅茶苦茶気持ち良いお風呂」

「ふーん……」


 今一ピンと来ない様子のセリスティア。


 とは言え、真衣華もそれ以上上手く説明出来るだけの技術が無い。


 すると、ふと思い出す。


「ファムちゃんって、お風呂に入るのが好きだって言ってたっけ? 彼女も誘って、今度皆で一緒に行こうよ。説明するより、実際に入った方が早いからね」

「お主らは、来たことはあるのか?」


 二人の会話を聞いていたシャロンが、愛理と志愛に尋ねると、二人は首を横に振る。


「下田か……。私は今日が初めてだ。新潟も広いからな。西区辺りまでならよく遊びに行くが、そこから先は弥彦くらいしか行った記憶が無い」

「ここら辺に来るとカ、県を跨ぐ感じでス。プチ旅行」

「旅行、か……。私には縁が無いわね。シャロンは、旅行とかするの?」

「い、いや。儂も無いが……」


 何気無く悲しいことを言うレーゼに、尋ねられたシャロンは少しばかり顔を引き攣らせる。


「人目に付くと大騒ぎになるでの。あまりドラゴナ島から出んようにしておったからのぉ。……む?」


 話ている途中、シャロンは何かに気がついたかのように、後方を振り向いた。


「どうしたの?」

「……すまぬ。なんでも無い」


 だが、すぐに顔を戻す。


 レーゼは頭に『?』を浮かべながらも、まぁ本人がなんでも無いと言っているなら良いだろうと思い、それ以上は特に追求しなかった。


「さて、そろそろ行こうか」


 愛理が時間を見ながらそう声を掛ける。


 何やかんや、十分くらいの時が経っていた。


 しかし、


「あー、すまんの。儂はもう少し休憩してから行く」


 シャロンだけは、暑さにやられたというような顔でそう言った。


「なんだシャロン。流石のあんたも、へばっちまったってわけか?」


 セリスティアがケラケラ笑いながら、シャロンの背中を強く叩く。


 その衝撃たるや思わずつんのめってしまう程であり、若干の抗議の視線を向けるものの、シャロンは咳払い。


「皆は先に向かってくれんか? 五分くらいしたら追いかけるでの」

「まぁ、いいけど……。でもシャロン、あなた地図も何も無いでしょ?」

「だったら、私も残るよ」

「タチバナ……」


 残ると宣言した真衣華に、何故かシャロンは複雑な顔をしたが、話は最もだと思ったのだろう。


 すぐに「すまんな」と、真衣華が一緒に残ることを了承するのだった。




 ***




「やー、それにしても、暑いよねー。疲れるのも無理ないっていうか……」

「いや、竜は暑さには強いでの。心配せんでも良い」

「え? 疲れたんじゃないの?」

「……タチバナ、少し隠れておれ」


 スーッと、シャロンの目付きが鋭くなる。


 体から殺気が迸り、真衣華の背筋を凍らせる。


 シャロンは後ろを振り返ると、静かに口を開いた。




「そこでコソコソしておる奴、出て来い」

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