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第125話『分担』

 七月二十四日火曜日。午前九時五十二分。


 日本、新潟県新潟市。


 束音宅に、来客を知らせるチャイムが鳴り響く。


 玄関に早歩きで向かうのは、青いロングヘアーの女性。レーゼ・マーガロイスだ。


 レーゼがガチャリと扉を開ければ、そこにいたのは彼女の知り合い。


「やっほー」


 夏らしい、涼しげなワンピースを着た彼女は、橘真衣華である。


 片手を上げ、朗らかに挨拶する真衣華に、レーゼも軽く笑みを浮かべる。


「おはようマイカ。さ、上がって」

「約束は十時半だったんだけど、やることも無くて……ちょっと早く来過ぎちゃった。なんかごめんね」


 実は今日は、雅の家で久世捜索の会議をすることになっていた。真衣華が来たのは、そのためだ。


「気にしなくていいわよ。それより、学校の授業はまだ再開しないのね」

「うーん……。まぁ、世界がこんなになっちゃったしねー。でも、段々落ち着いてきたし、来週からちゃんと始まるって」


 そんなことを話しながら、リビングに向かう二人。


 するとそこには、


「お、マイカじゃねーか。おはようさん。随分早かったな」


 赤髪の女性が、ソファに寝転がっていた。


 セリスティア・ファルトである。


「おはようございます。日本にはもう慣れました?」

「はっはっは。全くだぜ。特に気温はな……暑いのなんのって……」

「あー、分かる。私達でもきつい時ありますもん。今日も暑いですよねー」


 現在の外の気温は三十℃。予報では、お昼頃には最大で三十五℃まで上がるらしく、体験したことの無い温度にレーゼもセリスティアも震えるばかりだ。


「あれ? そういえばシャロンさんは?」

「ん? あいつなら部屋で寝ているぜ。『会議が始まったら起こしとくれー』つってた」


 セリスティアとシャロンは、今は雅の家に居候中である。


「ところでマイカ。皆が来るまで暇でしょ? ちょっと教えて欲しいことがあるんだけど……」

「レーゼさんが私に聞きたいこと? 珍しいね。何々? 何でも聞いて」


 普段は助けてもらってばかりなので、頼られて嬉しい真衣華。


 やや食い気味の彼女に苦笑しながら、レーゼは服のポケットから豆粒サイズのデバイスを取り出す。


「実はこの間、警察からULフォンを貸してもらったの。あなた達と連絡がとれないのは不便だろうからって。ただ、全然使いこなせなくて……」


 愛理から色々説明はされたものの、今のレーゼに出来るのはウィンドウを出現させることくらいだ。それも、たまに失敗してしまうことすらある。


「あー、昨日愛理ちゃんが言っていた奴ね。分かった。取りあえず、何が分からないの?」

「……あなた達と連絡を取りたい時って、何をどうすればいいのかしら? ウィンドウは出せるようになったんだけど、そこからの操作がさっぱりで……」

「うぉう、そこからかー。まぁ、慣れないと何がどこにあるのか分からないよね。えーっと……」


 そう言うと、真衣華はレーゼに教えるため、まずは自分のULフォンでウィンドウを出現させる。それを全員が見られるように設定し、ウィンドウの一部を指差した。


「レーゼさんのウィンドウの中に、このアイコンがあると思うんだけど、これをタッチして――」

「あぁ、これね。……あら? タッチしても反応が無いわ」

「力み過ぎかも。ちょっと失礼して……」


 真衣華がレーゼの背後に立ち、自分の手をレーゼの手に重ねる。


 そのまま、彼女の手を誘導してULフォンを操作していく。


「……なんか、ダンスの教習みてーだな」


 その光景を近くで見ていたセリスティアは、思わずそう呟いたのだった。




 ***




 そして、約束の十時半。


「さて、集まったわね。じゃあ早速始めましょうか」


 真衣華の他に、雅の家に来たのは愛理と志愛。


 そして立体映像だが、優一の姿もある。


 起きてきたシャロンも含め、リビングにいるのは全部で七人。


 それぞれの顔の前にはウィンドウが出現し、そこには久世に関する様々な情報が記載されている。


 久世の捜索の打ち合わせが始まり、まずは優一の報告からだ。


 と言っても、特筆するようなことは無い。


 警察の懸命な捜索にも関わらず、久世の足取りはさっぱり掴めていなかった。


「……そう言うわけで、すまない。世界が融合してから、彼の影すら見つからないというのが現状だ」


 申し訳無さそうに頭を下げる優一。


 愛理が困ったように唸り、眉を寄せて口を開く。


「妙だな。奴は確かに、あの場から逃げ出したはず……。一切の痕跡すら見つからないとは……」

「久世も人工レイパーに変身して逃げていル、ということは考えられないカ?」


 その可能性を提示したのは志愛。確かに彼女の言う通りならば、警察が足取りを掴めないのも無理は無い。


 だが、レーゼは険しい顔で首を横に振った。


「クゼは、自分の作ったレイパーに変身する薬のことを『失敗作だ』と言っていたわ。そんなものを、自分に注入するとは考えられない……」


 早くも手詰まりになったように、空気が重くなる。


 すると、セリスティアが手を上げて口を開いた。


「なら、そのクゼって奴が今まで何をしていたのか調べねぇか? 逃げた後の行方は分からなくても、その前何をしていたのかとかは分かんだろ」

「なるほどのぅ。そこから、次の敵の行動を予測し、居場所に検討をつけようという訳じゃな」

「クゼが今まで何をしていたのか、か……。きっとレイパーになる薬の研究でもしていたんでしょうけど……」


 レーゼが天井を見上げ、考えること数秒。


 ふと、疑問が浮かぶ。


「そう言えば、クゼはどうやって鏡の存在を知ったのかしら?」


 あの鏡自体、雅が異世界から持ち帰ったものである。


 しかも、ガルティカ遺跡で偶然発見したものだ。


 雅の元の世界に戻り、持ち帰った鏡が片割れの現在地を教えてくれたために両方の鏡を手に入れたが、そもそもの話、雅の世界にあった鏡は、どうやら久世が持っていたもののよう。


 弥彦山でその鏡にエネルギーを充填しているところを運悪く雅達に奪われ、それを取り返したというのがここまでの流れのはずだ。


 であるならば、それ以前のどこかのタイミングで、久世は鏡の存在を知っていたことになる。


 何が切っ掛けで知ったのか、レーゼには不思議に思えた。


「考えられる可能性ハ、ざっくり分ければ二ツ。自力で見つけたカ、誰かから教えてもらったカ。どちらかしか無いでしょウ?」

「いずれにしても、実際に鏡を手に入れるまで、何かしらのアクションは起こしていたはずよね」

「事件の後、久世の自宅等を調べてみたが、件の鏡や人工レイパーに関する資料は一切見つからなかった。持って逃げた……とは考え辛い。恐らく、他にアジトがあるのではないかと推測するのだが……」


 ここまでの話を黙って聞いていた優一。


 そんな彼の推測に、愛理は首を傾げる。


「なるほど。しかし今の世の中、怪しい行動は防犯カメラ等で捕らえられてしまうはずでしょう? アジトなんか、すぐ特定されそうな気もするのですが……」

「ああ。だがよく考えてみれば、彼には飛行手段があっただろう。あの、鷹のような人工レイパーだ」


 その言葉に、志愛の目が見開かれる。


「……ッ! そうカ、飛んで移動すれバ、防犯カメラにも映らなイ!」

「鷹の人工レイパーに変身する男……『藤澤幸人』というんだが、彼に、色々話を聞いてみよう」


 そう言った優一。


 すると、真衣華が手を上げ、おずおずと口を開く。


「人工レイパーの体は、人間とほぼ同じ位の大きさだよね。そんなのが飛んでいたら、多少なりとも目立つんじゃない? 防犯カメラには映らなくても、誰かが見ているかも」

「ありえるな。写真や動画を撮っていれば、SNSにアップしている可能性もある……。よし。私達はそっちを調べよう」

「私は、早速取り調べの手続きをする。何かあればすぐ報告しよう」


 そう言うと、優一の立体映像が消えたのだった。

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