第13章幕間
七月十六日月曜日。午前十時。
ウェストナリア学院にある、ミカエルの研究室にて。
「あらあら……これだけの人数が集まると、ここじゃちょっと手狭だったわね……」
「ちょっと、じゃ無いですよ師匠。動く隙間もありません」
未だかつて無い人数がやって来てキャパオーバーとなった研究室を見てミカエルが苦笑いを浮かべれば、ノルンが珍しく呆れたような目をミカエルに向ける。
まぁ、『動く隙間が無い』というのは大袈裟だが、それでも大分窮屈である。
部屋にいるのは、雅、レーゼ、セリスティア、ファム、シャロン、ライナ、優、愛理、志愛、真衣華、希羅々。ミカエルとノルンも入れれば、十三人だ。
なお、この研究室の適正収容人数は五人である。
「てかさ、前に皆で集まった時、既に『ちょっと狭いね』って話出たじゃん。なんでここに皆を集めようって思ったわけ?」
ファムの言う『前に皆で集まった時』というのは、世界が融合する直前、ライナ達がこの部屋に集まった時のことである。
ファムが特大のジト目をミカエルに向けるが、当の本人は曖昧な笑みを浮かべて冷や汗を流すことしか出来ない。
正直ミカエルも、「ここじゃ絶対狭いわよね……」と思ってはいたのだが、他に落ち着いて話が出来る場所を探す気力が無かったのである。
なお、
「えー、いいじゃないですかー! これだけ狭い方が、却って皆との仲も深まる気がしませんか?」
「そう思うのはみーちゃんだけよ」
物理的に体が密着せざるを得ない状況に、雅は顔を赤らめ気持ちの悪い笑みを浮かべていた。
「どうせみーちゃんのことだから、『これならばあんなところやこんなところに手が当たっても不可抗力。仕方が無いんです!』なんて思っているんでしょ? セクハラしたら――分かってるよね?」
「えー、思っていませんよー。誤解ですぅ」
わざとらしく視線を逸らし、下手な口笛を吹き始める雅に、優が拳に力を入れる。
鉄拳制裁の準備は万端だ。
身の危険を感じた雅は大きく咳払いをして、一旦真面目な顔を作る。
「まぁ話をするだけですし、ぎゅうぎゅう詰めでも問題無いですよ。さて皆さんお集まり頂いたことですし、これまでの話と、今後の予定について打ち合わせをしたいと思うんですが――その前に、自己紹介しましょう」
シェスタリアで会った時にも簡単に自己紹介はしているのだが、状況が状況な上、一度に何人もの名前を覚えるのは大変だ。
ある程度落ち着いている今、再度しっかりとした自己紹介をしてもらおうというわけである。
「各自、名前や年齢、使っているアーツ、趣味や特技等軽くお話願います。ついでに今日穿いている下着の色やスリーサイズ、性感帯とか――」
そこで、優の拳骨が落ちる。相当に良い音がした。
頭を押さえて「くぁぁぁあっ!」と呻き、話が出来なくなった雅の代わりに優が口を開く。
「皆さん、後半は無視で。適当に、私から時計回りにやっていきましょう。じゃあ早速――」
***
「私は相模原優。十五歳で学生。みーちゃんとは四歳くらいの時からの付き合いで親友。使っているアーツは弓型アーツ『霞』で、矢の形をしたエネルギー弾を飛ばして攻撃出来る。このエネルギー弾は目を凝らさないと見辛いね。文字通り『霞んだ』ような矢よ。スキルは『死角強打』で、相手が目視していない攻撃の威力を上げる効果があるわね。趣味は読書」
「……はい? 今、何と?」
希羅々が、優の発言に眉を寄せる。
その反応にちょっとイラっときた優が、笑顔のまま青筋を浮かべた。
「なぁーにぃー? きーらーらーちゃぁぁぁあん? 私の趣味が読書じゃおかしいってわけぇ?」
「い、いえ……てっきり体を動かす系が趣味かと……」
珍しくたじろぐ希羅々。
なお驚いているのは希羅々のみならず、志愛や真衣華、レーゼもだった。何せ、優が本を読んでいるところなど数える程しか見たことが無い。希羅々の言葉の通り、体を動かすこと――それこそ、使っているアーツ的に弓道とかが趣味だと思っていたのである。
「……私の口から擁護しておくが、これは事実だ」
「さがみん、ミステリーとかよく読むんですよ」
この事実を知っている愛理と雅。
この二人からそう言われれば、信じるしかなかった。
「……まぁ、最近はみーちゃんを探したり、人工レイパーの件で色々あったから、あんまり本を読む暇は無かったかもね。まぁいいわ。次、レーゼさんお願い」
「え、ええ」
***
「えー、自己紹介する必要があるかは分からないけど……私はレーゼ・マーガロイス。十六歳。バスターよ。ミヤビが私の世界にいた時も、私がミヤビの世界にいた時も、彼女と一緒の家で生活していたわ。だから結構付き合いは長いつもりよ。使っているのは剣型アーツ『希望に描く虹』。空色の剣で、理想的なフォームで剣を振ると、斬撃の跡に虹が架かるの。スキルは『衣服強化』で、名前の通り着ている服を頑丈にする効果があるわ。趣味は……最近は料理ね。ミヤビに色々教えてもらって、楽しいって思えるようになったの」
「そういや俺も、昔レーゼの家に泊まった時、色々食わせてもらったな。美味かったぞ」
かつて逃がしたパラサイト種レイパーを追い、ノースベルグまで訪れた時のこと。レイパーの捜索のための拠点として、セリスティアはレーゼの家にご厄介になっていたことがあった。
「ありがとうセリスティア。ミヤビの世界で新しいレシピも覚えたから、また今度振舞ってあげるわ。ところで……折角だし、セリスティアも覚えてみない?」
「あー、いや。俺ぁそういうのはどーも……性に合わねぇんだろうなぁ……」
「いつまでもお惣菜ばっかりじゃ体に悪いわよ、全く」
昔の自分もそうだったのだが、レーゼは一旦それは棚に上げるのだった。
***
「篠田愛理。十六歳。この面子では、相模原の次に束音とは長い付き合いだな。武器は刀型アーツ『朧月下』。切れ味抜群……と言いたいところだが、最近は刃が通らない相手が増えてきた気がする。精進せねば……。スキルは『空切之舞』といって、自分の攻撃が避けられたら、相手の死角に瞬間移動する効果があるぞ。趣味は動画配信。自分で言うのも難だが、界隈ではそこそこ人気がある」
「動画を皆に見せて、お金を稼いでいるのよ。こういう人を……ええっと、何だっけ? あぁそうそう、『うぇーいちゅーばー』っていうの」
「マ、マーガロイスさん……『うぇーい』では無く、『うぇい』です。『Waytuber』。『うぇーい』ではパリピになってしまいます」
「ぱ、ぱりぴ……?」
また知らない単語が出てきた……と頭に『?』を浮かべるレーゼ。
なお、雅や優達は、生真面目なレーゼの口から出てきた『うぇーい』という言葉に笑いを堪えるので必死だ。
「あー、愛理ちゃん。パリピの説明は後にしましょう。なんか長くなりそうですし……」
***
「俺ぁセリスティア・ファルト。十七歳でフリーの仕事師。レイパーと戦ったり、古家の解体とかやってるぜ。ミヤビとは、ここから北にあるでっかい都市で起きたレイパーの事件が切っ掛けで出会ったな。使っているアーツは爪型の『アングリウス』っていう奴だ。両手に小手みたいにはまっていて、戦闘時にでっかくなって爪が出てくんだ。爪は伸縮自在。攻守どちらにも優れた良いアーツだな。スキルは『跳躍強化』つって、ジャンプ力を十倍くらいまで上げてくれるぜ。応用すれば、高速移動みたいなことも出来る。趣味は筋トレだな。体を動かすことが好きだ。肉体労働は任せとけ」
「しっつもーん!」
「あ? なんだ?」
「一人称、何で『俺』なの?」
突然手を挙げた真衣華の言葉に、セリスティアは目をパチクリとさせる。
「あー……?」
皆が見守る中、セリスティアは唸り――やがて、眉を八の字にして首を傾げた。
「いや、分からねぇ。何か物心ついた時から一人称『俺』だった。他の人とは何か違うたぁ思ってたけどよ、直すって考えが無かったぜ。何でだ?」
「いや、私達に聞かれても分からないわよ……」
「私は俺っ娘、アリだと思いまス!」
力強く頷く志愛に、セリスティアは「お、おう」と曖昧な返事をするしか出来なかったのであった。
***
「次は私の番ですわね! 私は桔梗院希羅々。十六歳。高校生でしてよ。真衣華や相模原さん達が使っているアーツは、私の父が経営している『StylishArts』という会社で開発された物ですの。私の持つレイピア型アーツ『シュヴァリカ・フルーレ』もそう。特殊な機能はありませんが、軽くて丈夫な武器で愛用しております。スキルは『グラシューク・エクラ』で、巨大なレイピアを呼び出して攻撃出来ますわ。大抵のレイパーなら、これ一発で仕留められるほどの威力がございましてよ。趣味はお茶会。時間がございましたら、是非ご一緒如何です?」
「お茶会かー。お菓子は出る?」
「クッキーからケーキまで、ご要望があれば何でも用意致しますわ」
「絶対行く!」
「ちょっとファム!」
甘い物に目が眩んだファムを、ノルンが慌てたように注意する。
だが、希羅々は全く意に返さない。
「構いませんわよ? スイーツは女子の嗜みですもの。そこのあなたも、是非」
「……じゃ、じゃあお言葉に甘えて」
ファムを窘めるノルンも、やっぱり女の子。欲望を素直に出すことこそ無いが、お茶会やスイーツには興味はあるのだ。
「難なら、お友達も誘って賑やかに楽しみましょう。おーほっほ!」
「…………」
そんな希羅々を、真衣華だけは微妙な目で見つめていた。
何故なら、希羅々のお茶会で出てくるのは、紅茶ではなく烏龍茶だからだ。希羅々の好物である。
無論烏龍茶も美味しいのだが、一般的にお茶会と言って想像するのは紅茶だろう。パッと見中学生くらいのファムやノルンに変な知識を植えつけたり、がっかりさせてしまわないかは若干不安だった。
***
「楽しみが一つ増えたところで、次は私だね。私はファム・パトリオーラ。十三歳。このウェストナリア学院の学生。隣のノルンとは同級生だよ。ミヤビともこの学院で出会って、何やかんやあって友達になった。アーツは翼型の『シェル・リヴァーティス』で、空を自由に飛べる。羽根を飛ばして攻撃も出来るけど、威力は控えめかな。スキルは『リベレーション』で、自分に掛けられた拘束を解く効果があるけど、使ったことはあんまり無いね。趣味は昼寝で、特技は早寝。風の気持ち良い場所なら、一秒あれば夢の中さ。後、お風呂も大好き」
「あ、授業とかよくサボる娘なので、怠けているところを見たら厳しく注意してあげて下さい」
「ちょっとノルンっ?」
「あー、私と初めて会った時も、授業をサボってお昼寝中でしたよね」
「ミヤビまでっ?」
「あなたのサボり癖は、教師の間でも噂になっているわ。そろそろ改善しないと、将来苦労するわよ」
学者兼学院の教員も勤めるミカエル。ファムがサボるとノルンが監督不行届と怒られてしまうので、どこかのタイミングでビシっと言っておくべきだと思っていたのだが、今回は良い機会だった。
言い返そうと口を開くファムだが、悪いのは自分だ。「ぐぬぬ……」と唸るも、
「だ、大事な授業とかはサボったことないし……」
と、非常に苦しい発言で逃げに走る。
すると、
「まぁ、世の中学校の勉強が全てでは無い。将来困ったら、動画投稿でのお金の稼ぎ方を手解きしよう」
見かねた愛理がそう擁護する。
「あんた……良い奴だな!」
それを聞いて、ファムは目を輝かせるのであった。
***
「順番的にはノルンなんだけど、きっと私から自己紹介した方が良さそうね。私はミカエル・アストラム。二十歳。研究者で、専門はレイパーの生態についてよ。この学院の教員でもあるわ。隣のノルンは私の弟子だけど、この娘の方が私よりしっかりしていて、フォローしてもらってばかり……。ミヤビちゃんが私の論文を見て訪ねて来て、それから一緒に行動するようになったわね。使うアーツは『限界無き夢』。杖型のアーツで、自分の使う魔法の威力を大幅に上げてくれる力があるわ。スキルは『マナ・イマージェンス』っていって、自分の魔力を増やせるのよ。炎の魔法が得意。趣味は色んな人の論文を読むことかしら? それでよく夜更かししちゃって、ノルンに叱られちゃう」
「みんな、気をつけてね。この人結構ドジで色々やらかすから……」
「ちょっとファムちゃんっ?」
さっきのお返しだ、と言わんばかりにニヤニヤしながら、ファムがミカエルの悪癖を暴露する。
「ミカエル先生が一人で何かしに行くと、ノルンがいつも心配しているんだ。『師匠、一人で大丈夫かな?』って」
「ファ、ファムっ!」
「うぅ……完全に子供扱いされてる……」
「前に雅からちらりと聞きましたガ、界隈では有名な研究者なんですよネ?」
しくしくと落ち込み始めるミカエルに苦笑いを浮かべる志愛。ファムは頷き、
「出している論文とかは良い評価もらっているみたい。でも先生、論文発表の時に転んで資料は床にばら撒くわ、発表の原稿は忘れるわ、他にも色々ドジることでも有名なんだよね――って痛っ!」
「ファァァムゥゥゥ? いい加減にしなさい!」
「ご、ごめんよノルン!」
「師匠はちゃんと、凄いんだよ!」
ミカエルを弄り過ぎた結果、ついにノルンの雷が落ちた。
***
「ファムが失礼しました。ノルン・アプリカッツァ、十三歳で学生です。ミカエル先生の弟子で、隣のファムとは同級生。学年委員長も務めています。授業をサボっていたファムを探していた時に、ミヤビさんやライナさんと出会いました。『無限の明日』っていう杖型アーツを使っていて、風の魔法で戦います。師匠から貰った大事なアーツで、見た目も師匠の物と似ていて、姉妹アーツだって聞きました。スキルは『未来視』で、自分にとって危険な未来を視ることが出来ます。ただ使う度に体力を消耗しちゃうから、ちょっと注意しないとだけど……。最近は師匠のお手伝いが楽しくて、自分の中じゃこれが趣味になっています」
「先程から『師匠』とか『弟子』って単語が聞こえるのですが、お二人は学校の先生と生徒の関係ではありませんの?」
希羅々はどうにもピンとこないのか、首を傾げてそう尋ねる。
すると、ノルンの代わりにミカエルが口を開いた。
「この学院には、私達が自分の研究をサポートしてもらうため、専門的な知識の伝授と引き換えに学生を一人まで付けることが出来る制度があるの。傍から見ると、それが師匠と弟子に見えるみたい」
「ああ、成程。お二人はその制度で繋がっているのですね。中々素敵な制度ですわ」
「でもノルンは優秀で、私もウカウカしているとすぐに追い抜かれちゃうわ。師匠と弟子の立場が入れ替わる日も近いかもしれないわね」
「し、師匠っ? そんな私なんて、まだまだですよー……」
**
「権志愛、十五歳。学生で優達の同級生ダ。雅とはその関係で知り合っタ。レーゼさんとハ、レイパーに苦戦していたところを助けてもらって以来の付き合いでス。出身は韓国……ここから南西にある国。アーツは棍型の『跳烙印・躍櫛』デ、スキルは『脚腕変換』。足の裏で地面とかを強く蹴るト、腕力がアップしまス。私の大事な攻撃の要。趣味はアニメ鑑賞や漫画やゲーム。暇が有ったラ、皆さんとも是非やりたイ。日本のエンターテイメントは面白いかラ、きっとハマると思いますヨ」
「志愛ちゃんのアーツはちょっと特殊で、私達みたいに指輪から出すんじゃ無くて、手に持った物を形状変化させて創り出すんですよ」
「あー……そう言えば、昨日の戦いの時も瓦礫を拾ってたよね。何やっているんだろうなーって思っていたけど、そういうことだったんだ」
ファムが、ようやく理解したというように何度も頷く。
「手入れとかは不要だけド、代わりに壊れやすいのが難点ダ」
「ミヤビさん達とは違う国の出身なんですよね? カンコクって、どんな国なんですか? 遺跡とかあります?」
そう聞いたのはライナ。
「食べ物は美味しいし物価も安くて良い国でス。オススメはチヂミ。私も偶に作ル。遺跡……百済歴史遺跡地区とか有名ですネ。百済という古代国家の跡地デ、小さな頃、両親に連れていってもらったことがありまス」
最も子供の頃のこと故に、志愛の記憶にあるのは、大きな石の塔があったことくらいだ。
それでもライナは非常に興味を持った様子。さらに質問をしようと口を開いたものの、話が長くなりそうだったため雅がやんわりと制止するのだった。
***
「やっと回ってきたのぅ! 儂はシャロン・ガルディアル。こんな姿じゃが、本来は竜。三一六歳じゃが、そろそろ誕生日が来るから三一七歳になるの。これでも竜の中じゃまだ子供じゃ。シェスタリアの西にある『ドラゴナ島』で暮らしておる。タバネともそこで出会ったの。崖から落ちたところを間一髪で助けた形じゃった。いやー、あの時は危なかったのぉ……。こほん、話が逸れた。竜の攻撃はレイパーにも効くようじゃから、ブレスや尻尾、爪とかで戦うの。アーツは持っておらんから、スキルも無い。趣味は、人間のような生活をすることじゃ」
「……人間のような生活?」
愛理が首を傾げる。
「昔、人から家具屋ら娯楽物やらを貰っての。それに囲まれて、それっぽい生活をするだけでも結構楽しいのじゃ。竜の姿だと、水浴びや昼寝以外に楽しみが無くての……。たまに島に流れ着いた廃材とかを加工して、家具を作ることもある」
「あ、じゃああの洞窟にあった家具の中には……」
「うむ。中には儂が作ったものもあるぞ」
それを聞いて、雅は感嘆する。言われなければ、市販されているものと違いが分からない程のクオリティだった。
一方、愛理や真衣華は竜がDIYをするという事実に苦笑いを抑え切れない様子である。
「もうすぐ誕生日と仰っていましたが、何時頃で?」
「世界が融合して、時間感覚が正しいかは分からんが……その……明日じゃ」
控えめにそう呟いたシャロン。
一瞬間を置いて……。
全員が一斉に驚きの声を上げるのだった。
***
「えー、この雰囲気で私? しょうがないなぁ……。橘真衣華、十五歳。希羅々の親友だよ。志愛ちゃんと同じく、レイパーに襲われているところをレーゼさんに助けてもらったことで知り合ったんだ。雅ちゃんともその時出会ったよ。アーツは『フォートラクス・ヴァーミリア』っていう斧型のアーツ。結構重そうな見た目をしていて頑丈だけど、意外と軽くて取り回しやすいのが特徴かな? スキルは二つあって、『鏡映し』と『腕力強化』。『鏡映し』は自分や他人のアーツをコピー出来るスキルで、『腕力強化』は自分のパワーを上げる効果があるよ。趣味はアーツ弄り。分解したりメンテナンスするのが好きで、機会があったら皆のアーツも見せて欲しいね」
「二つのスキル持ち……珍しいな。もしかして、昔は別のアーツを使ってたのか?」
「……うん。『影喰写』っていう小太刀――小さな刀みたいなアーツを使っていて、『鏡映し』のスキルはそっちのアーツから貰った。今はもう、壊れちゃったけど……」
「……そっか。わりぃこと聞いちまったな」
真衣華の様子から、質問をしたセリスティアは色々察したのだろう。
大事なアーツを壊されたことがトラウマで、真衣華にとってあまり思い出したく無い記憶だ。
「……ところで真衣華のお父様は、私の父の会社の社員でもありますの。とても優秀な方ですのよ」
「……私のお父さん、希羅々のお父さんの部下なんだよね。いやー、そうなると色々大変なんですよー。たまーに希羅々が無茶なお願いしてきてさー、断ろうとすると『あなたのお父様を首にしてもらいますわよ!』なーんて言ってくるもんだから辛いのなんのって――」
「ちょっと真衣華? 真に受ける方がいるでしょうに! たちの悪い冗談はおよしなさい!」
「え? あ、ああっ、ごめんごめん嘘々! ちょっとしたジョーク!」
主にノルンやライナ辺りが恐怖の目を希羅々に向けたので、希羅々は眉を吊り上げた。
勿論真衣華も本気で言ったわけでは無かったのだが、思いの他ノルン達が信じ込んでしまったようだと気が付き、慌てて発言を撤回する。
しかしその行動が却ってノルン達を信じさせてしまう悪循環が発生。
結局誤解が解けるまでに、五分程掛かってしまうのであった。
***
「次は……あぁ、私ですね。私はライナ・システィア。十五歳。ミヤビさんとの出会いについては、今説明すると長くなってしまうので、また後で時間がある時に。アーツは鎌型の『ヴァイオラス・デスサイズ』で、使うスキルは『影絵』。自分の分身を創り出すことが出来て、攻撃にも防御にも日常生活にも使える万能なスキルですよ。たくさんの分身を創ると、それだけ分身が単純な動きしか出来なくなっちゃいますけど……。趣味は遺跡めぐり。古代の壁画とか、古いオブジェとか、そういうのが好きなんです」
「ライナさんは、普段は何をしている人なの? こっちじゃ、十五歳ってもう大人みたいなもんなんだよね?」
雅が異世界から帰って来た日の夜、そんな話を聞かされていた優。
ライナは一瞬悩むが、すぐに口を開く。
「これは内緒にしておいて欲しいんですけど、私もバスターなんです。ヒドゥン・バスターっていう、ちょっと特殊なバスターなんですけど……。警戒心が高かったり、表立って行動しないレイパーを、敵にばれないようにこっそり調査するのが役割です」
「ヒドゥン・バスター……存在は聞いていたけど、私も初めて会ったわ」
「あ、レーゼさんも会ったことないんだ」
「ヒドゥン・バスターは、場合によっては敵を誘き出すために、無力な少女を演じる必要があるんです。決してバスターだとバレないよう、同じバスターの仲間にも、自分がヒドゥン・バスターだというのは秘密にしないといけないんですよ」
本来なら問題な行為だが、天空島での一件の後、セリスティア達には自分がヒドゥン・バスターであることは話をしてあった。優達も雅の仲間で、今後も一緒に戦っていくかもしれないなら、いずれバレるのも時間の問題だ。後々のトラブルの火種にならないよう、話をしておいた方が良いと思ったのである。
表向きは考古学者の見習いであることにして欲しい、そうライナは最後に付け加えるのであった。
***
「最後は私ですね! 皆様ご存知雅! 束音雅です! 先日ついに十六歳になりました!」
「みーちゃんうるさい!」
「おっと、さがみん失礼。えー、使っているアーツは剣銃両用の『百花繚乱』。さがみん達のアーツと合体出来る機能がありますね。使うスキルは『共感』といって、皆さんが使うスキルを一日一回だけ使えるスキルです。効果が変わったりする場合があるので、実戦で使う前に検証が必要なのが困り物。でも皆さんのスキルのお陰で今日まで何とかやってこれました。本当にありがとうございます! 特技は結構色々ありますね。家事全般とかマジック、速読、スノボ、ギター……他にも色んな人から色んなことを教えてもらいました」
「なお趣味はセクハラ」
「さがみんっ?」
「裸で添い寝とかよくするわよね」
「あ、それは俺もされたな」
「体を触られたこともあるナ」
「レーゼさんにセリスティアさんっ? 志愛ちゃんっ?」
「手付きががいやらしい時も結構あります」
「ライナさんまでっ?」
「人との距離が近過ぎますわ。もっと適切な位置があるでしょうに」
「あ、私もそれ思ってた」
「希羅々ちゃんっ? 真衣華ちゃんっ?」
「視線がいやらしいなと思うことはあるわ……」
「前にうちの生徒をホテルに連れ込んだよね」
「あー、あったあった。噂になってたね」
「束音……お前そんなこと……」
「自業自得じゃのぉ……」
「わーん! 皆が苛めますぅ!」
***
「えー、コホン。少し取り乱しましたが、以上で自己紹介、終わりっ! ――ここから真面目な話。今後どうするか、についてです。まずは情報共有しましょう」
そして、雅の世界で起きた事件について、セリスティア達に簡単に説明をする。
二つの世界で見つかった鏡の存在と、久世浩一郎という男にそれを奪われてしまったこと。
久世の配下には、レイパーに変身する人間――人工レイパー――がいること。
久世の目的はレイパーを滅ぼすことだと言っていたが、決して自分達とは相容れないこと。
「最終的に、久世さんは鏡の中に眠っていた『何か』を解放してしまいました。それが何なのかは分からない。でも、彼は『原初の力を手に入れる』って言っていた。きっと、何か関係があるんだと思います」
「結局、途中で魔王みたいなレイパーが乱入してきて、クゼには逃げられたわ。どこにいるかも分かっていない」
「人工レイパー……面倒な奴らね」
「放っておくわけにはいかんか……」
ミカエルとシャロンが、難しい顔で唸る。
「ライナさん達の方は、何か変わったことはありましたか?」
「二人を探すためにあちこち回っていた際、変な物を見つけたくらいです」
「変な物?」
「天空島の地下への入り口とか、ガルティカ人の残したオブジェとか、そんなもの」
しかし、ライナの言葉に反して、ミカエルは首を傾げた。
「変な物には違いないけど、大した物でもないわね。魔法言語で書かれていた石板があって、それを知り合いに調べてもらっている最中だけど、特筆するのはそれくらいかしら?」
「天空島の地下で見た壁画は少し怪しいかもしれん。巨大な塔が描かれておった」
ただの壁画だが、シャロンはそれに、心がざわつくものを感じていた。
「……まぁこっちも色々あったけどよ、結局大した話はねぇってことだな」
セリスティアが、そう締めくくる。
「……一旦、あの魔王みたいな奴を倒すのが急務じゃない? 天空島を奪って行ったわけだし、何をするか分からないよ?」
「久世の方も放っておけん。こっちも対処したい」
ファムと愛理が、そう提案する。
どちらの敵も、何とかしなければならないのは間違いない。
どちらを優先すべきか、それが問題だった。
悩む雅達だが、答えは出ない。
結局、
「メンバーを二つに分けて、両方に備えましょう」
雅がそう提案し、全員が頷くのであった。
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