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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第13章 日本海~シェスタリア
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第115話『朽人』

 ウェストナリアの西にある埠頭。遠くにはドラゴナ島が見える。


 そこに、大量の人の形をした化け物が暴れ回っていた。


 その数なんと五百体以上。


 化け物の肉体は爛れたり朽ち果てており、骨が見える部分もある。顔のパーツも欠けており、見た目はまさにゾンビといって差し支えない。


 分類は『リビングデッド種レイパー』といったところか。


 動きはのっそりしており、力も弱いが、集団で女性に襲い掛かり、首を締めたり岩等で頭を殴りつけたりして殺していた。


 そして殺した相手に噛み付くと、死体の肉体はレイパーと同じように朽ち果て、ひとりでに動き出す。こうやって、リビングデッド種レイパーは次々とその数を増やしていた。


 そんな凄惨な現場に、雅と愛理は到着する。


「な、何だこいつらはっ?」

「愛理ちゃん! 手分けして倒しましょう!」

「あ、ああ! 分かった!」


 雅は剣銃両用アーツ『百花繚乱』を。愛理はメカメカしい見た目をした刀型アーツ『朧月下』を構え、レイパーの群れに突撃していく。


 しかし、数が多い。「手分けして」と雅は言ったが、それにしても二人では手に余る大群だ。


 すると、地面に大きな影が差し込み、何事かと愛理が上を見て――目を大きく見開いた。


「っ? 新手かっ?」

「いえ、あれは――」


 雅も驚いた顔をしているが、すぐに顔を明るくさせる。


 直後、レイパーの群れに大量の火球と雷のブレスが降り注ぎ、五百体近くいたレイパーの内百体以上を消し炭にした。


「味方です!」


 上空にいたのは、山吹色の竜と、白衣のようなローブを着た金髪の魔女。


 彼女達も雅の存在に気が付いたようで、すぐに地上に降りてくる。


「ミヤビちゃんっ! 良かった! 無事だったのね!」

「タバネっ! 久しぶりじゃのう!」

「シャロンさん! ミカエルさん!」


 やって来たのは、竜人のシャロン・ガルディアル。そして炎魔法を操る魔女、ミカエル・アストラムだ。


 ミカエルの手には、白木で出来た節くれだった杖が握られている。先端には赤い宝石。ノルンの持つ『無限の明日』にそっくりな形状のそれは、『限界無き夢』というアーツである。


 二人とも爆音や煙に気が付き、ここまで来たのだ。その途中で合流した、という訳である。


「竜に魔法……。異世界とは聞いていたが、ファンタジーだな……」


 傍らで、感嘆したように愛理がそう呟く。


「そっちの娘は?」

「愛理ちゃん。私の仲間です。細かい話は後で。今は協力して、こいつらを何とかしましょう! ――シャロンさん! 前みたいにビリビリするやつ、お願いします!」

「あい分かった!」


 シャロンが頷くと、再び翼を広げ、空に舞う。


 シャロンの体の回りに電流の迸るリングが出現。


 同時に冷たい風が吹き荒び、空に雷雲が現れ、鋭く稲妻が走る。


 シャロンの広げた飛膜が激しく発光。


「二人とも、下がってください!」


 何をする気かと、不安な表情を浮かべる愛理とミカエルにそう告げると、雅は百花繚乱の切っ先を地面に向け、仁王立ちになる。


「タバネ! とびっきりのが来るぞ! 準備は良いかのっ?」

「はいっ!」


 シャロンの言葉に力強く頷いた瞬間、雷雲から雅へと勢いよく雷が落ちた。


 愛理とミカエルが、雅の背後で息を呑む。


 雅の桃色の髪は逆立ち、全身には電流を纏っていた。


 これは、『帯電気質』というスキルによりパワーアップした雅だ。リアロッテという雅の友人が使うスキルで、自分に電流を流すことで身体能力を上げる効果を持つ。


 自分に電流を流す手段が無く、ついぞ雅の世界では使う機会に恵まれなかったが、シャロンがいれば発動出来た。


「――さぁ、いきますよ!」


 百花繚乱を中段に構えた刹那、雅は一瞬でレイパーの群れへと突っ込み、斬りかかる。


 激しいスパークと共に、巻き起こる爆発。


 一体をあっという間に爆発四散させ、さらに一体、また一体と、雅は次々にレイパーを撃破していった。


「儂らも行くぞ!」


 シャロンも敵の群れの中心に舞い降りると、尻尾を振り回して敵を吹っ飛ばし、爪で体を引き裂く。


 攻撃しながら、開かれた顎門にエネルギーが溜まれば、雷のブレスをお見舞いして一気に敵の数を減らしていった。


 雅とシャロンの進撃に呆気に取られていた愛理とミカエルも、戦い始める。


 すると、


「きゃっ!」


 戦い始めて少しした頃、ミカエルの悲鳴が聞こえ、愛理がそちらに目を向け、戦慄の表情を浮かべる。


 ミカエルの回りにレイパーが押し寄せ、今や彼女は三体のレイパーに羽交い絞めにされてしまっていたのだ。


 ミカエルは肉弾戦は不得手。敵に接近されてしまえば、魔法を当てるのも難しくなってしまう。


 一対一の戦闘なら敵が近づく前に距離を取るのだが、こうして大量の敵を相手にしていると、魔法での攻撃の隙をつかれて接近を許してしまったのだ。


「は……離しなさい!」


 ミカエルを掴む腕の力が強まり、彼女の顔が苦悶に歪む。


 レイパーの手が、ミカエルの首へと伸びた、その時だ。


「はっ!」


 愛理がミカエルを拘束していたレイパーをあっという間に斬り裂いた。


「大丈夫ですかっ?」

「え、ええ。ありがとう……っ! 危ないっ!」


 膝を付いたミカエルに声を掛けた愛理だが、その背後から一体のレイパーが忍び寄っていた。


 愛理が振り向いた時には反撃も間に合わない程の距離まで近づいてきており、一撃は貰ってしまうことは覚悟する。


 だが、


「むっ?」


 突如、頭の後ろから炎で出来た針が飛んできて、レイパーの体を貫いた。


 ミカエルの魔法だ。


 彼女の方を見た愛理に、ミカエルはウインクをする。


「初対面だけど……お互い、助け合いながら戦いましょう!」

「ええ。そうですね!」


 そう言ってから、愛理は遠くで暴れる友人を一瞥。


「……私も負けていられないな。近くの奴は私が引き受けます! 遠くにいる奴をお願い出来ますか?」

「任せて!」


 互いに頷き合うと、愛理は刀を振り、近づいていた五体のレイパーを斬りつける。


 攻撃を躱されれば、自身のスキル『空切之舞』を発動させ、敵の死角に移動し、がら空きの背中を再度斬って倒す。


 そして瞬間移動した愛理に驚くレイパーを、回転斬りで纏めて爆発四散させる。


 ミカエルが空から十発近い火球を敵の群れへと落とし、生き残ったレイパーも炎の針を無数に飛ばし、串刺しにしていった。


 ――二分後。


 丁度、雅の『帯電気質』の効果が切れた時。


 五百体近くいたリビングデッド種レイパーは、三十体程度にまで数を減らしていた。


 後もう少し。四人が気合を入れなおした、その時だ。


「なんじゃ? 皆、気を付けい!」


 今まで自分達へと襲いかかっていたレイパーの動きが変わった。


 一体のレイパーを中心として、その回りに他のレイパーがわらわらと群がっていく。


 何をする気かは分からずとも、嫌な予感がして雅達が攻撃しにいくが、それを邪魔するかのようにレイパーが立ち塞がってしまう。


 一ヶ所に集まったレイパーの体がドロドロと溶け、まるで粘度のように纏まった後、一体の全長四メートル程の巨大なリビングデッド種レイパーを作り上げた。


「で、でかい……! ミドル級かっ!」

「っ! 来ますよ!」


 邪魔しに来たレイパーを全滅させたと同時に、ミドル級リビングデッド種レイパーが腕を振り上げ、手の平を雅達へと振り下ろす。


「皆! こっちに!」


 ミカエルは限界無き夢を振って炎の壁を作り、ミカエルと雅、愛理がその影に隠れる。そしてシャロンが三人に覆いかぶさり、翼を広げた。


 だが。


「ぐぅぉ!」

「シャロンさんっ?」

「か、壁が……っ?」


 レイパーの振り下ろした手の平は、容易に炎の壁を叩き破り、シャロンの背中に強烈な一撃を叩きこむ。


「っ! 見ろ! あいつの手が……!」


 愛理が指差したところを見れば、レイパーの手が少し溶けていた。ミカエルの作った炎の壁に触れた際、こうなったのだ。


 どうやらこのレイパーの体は熱に弱いらしい。


 それでも尚、シャロンの硬い竜の鱗をものともせずダメージを与えられる程のパワーがあることに、雅達は冷や汗を流す。


 僅かもしない内に、その手はすぐに再生してしまった。


「アストラム! もっと強力な魔法で奴を焼けんのかっ?」

「サイズが大き過ぎるわ! せめてこの半分くらいなら……」


 そうこう言っている間に、レイパーは次の攻撃モーションに入っていた。


 大きく手を引き、勢いよく放つ左ストレート。


 先程の一撃で、防御は不可能だというのは分かっているため、雅達は散り散りになってそれを躱した。


 標的を外した拳が地面に大きなクレーターを作る。


「こ、このままじゃ、やられる!」


 レイパーは、既に右腕を振り上げている。次の一撃を避けても、その次、またその次と攻撃が飛んでくるだろう。直撃するのは時間の問題だ。


「束音っ! アーツを合体させればどうだっ?」

「隙を作れれば……!」

「なら、任せるのじゃ!」


 愛理と雅の会話を聞いていたシャロンが、咆哮を上げてレイパーへと突っ込んでいく。


 同時に放たれる、レイパーの右ストレート。


 それを体で受け、痛みに呻き声を漏らしながらも、シャロンは爪で反撃し、レイパーの体に風穴を開けた。


 しかしダメージは無い。開いた腹部はすぐに塞がってしまう。


 シャロンは顎門を開けてエネルギーを集中させると、レイパーに向かって雷のブレスを放つ。


 レイパーは両手を前に出し、ブレスを手の平で受けるも、ブレスの勢いに負けジリジリと後退していく。


「束音! 今だ!」

「はい!」


 この瞬間を、逃すわけにはいかない。


 雅が百花繚乱を持つ手に力を入れると、刃の中心に切れ目が入り、左右にスライドする。出来た隙間に、愛理が刀型アーツ『朧月下』の柄を差し込んだ。


 出来上がったのは、全長三メートル程の巨大な刀剣。


 雅と愛理が二人で握ると、先端に取り付いた朧月下の刀身が白い光を放つ。


「ミカエルさん! 魔法はっ?」

「準備は万端よ!」


 気が付けば、ミカエルの足元には巨大な魔法陣。そして頭上には五枚の星型の赤い板が出現していた。


 板が円を描くように高速で回転を始め、その中心にエネルギーが集中。『限界無き夢』の先端についた赤い宝石が、激しく輝きを放つ。


「い……ま、じゃぁぁぁあっ!」


 ブレスを放ち終わったシャロンが、勢いよく飛翔。


 ブレスを受けきり、よろめくレイパーへと、雅と愛理が刀剣を横に一閃。


 斬撃が飛んでいき、レイパーの体を上半身と下半身に真っ二つに斬り裂いた。


 グラリと揺れ、地面に落ちるレイパーの上半身。


 その刹那、ミカエルの頭上で集中させたエネルギーから、巨大な火柱状レーザーが放たれる。


 それをモロに浴びたレイパー。焼き尽くされながら、消え入るような断末魔と共に爆発四散するのであった。

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