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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第13章 日本海~シェスタリア
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第109話『幕開』

新章、スタートです! さぁ、ここから雅達の本当の戦いが始まる……!

 七月十五日日曜日。午前十時五十六分。


 佐渡の北東の沖を、一隻の船が進んでいる。


 全長三十メートル程で、ブリッジやファンネルが後ろについている、甲板が前に長く伸びている船だ。


 その甲板に、一人の少女がいた。


 アホ毛の生えた桃色のボブカットに、ムスカリ型のヘアピン。


 そして、黒いブレザーとスカートという、学生服姿の彼女は、束音(たばね)(みやび)


 どこか懐かしむような、期待するような、それでいて不安を覚えているような、そんな表情。


 遠くを見つめるその先には、二つの大陸があった。


 一つは、ユーラシア大陸。


 そしてもう一つの大陸は……『ナランタリア大陸』。


 一ヶ月以上前、雅が旅をしていた場所、異世界にあるはずの大陸である。


 聖籠町にある『StylishArts』で魔王種レイパーと戦った後、空が七色に変色し、世界が白い光に包まれた。


 すると異世界の仲間達と、突如連絡が取れるようになり、聞けば異世界でも同じ現象が確認されたとのこと。


 ニュースを見れば、雅達の世界に突然、異世界にあるはずの三つの大陸が出現したことが分かったのだ。


 一体何がどうしてこうなったのかは分からないが、自分達の行いが無関係とは言えない。調査を行う必要があり、雅達七人は新潟県警の許可を貰ってナランタリア大陸へと向かっていた。 シェスタリアという港街で、異世界の仲間達と合流することになっている。


 因みに今乗っている船は、佐渡警察署の船だ。


「……大変なことになっちゃったわね」


 ふと、後ろから声を掛けられた雅。


 振り向けば、そこには腰の辺りまで伸びたスカイブルーの髪に、翡翠の眼の少女がいる。腰には西洋剣があった。


 レーゼ・マーガロイス。雅が異世界で出会った、最初の仲間だ。訳あって雅の世界へと転移し、今日まで共に過ごしてきた。


「あれ? レーゼさん……体はもう、大丈夫ですか?」

「あちこち痛むけど、平気よ」


 数時間前、レーゼは巨大なレイパーから強烈な一撃を受けていた。吐血する程のダメージを受けているはずだが、休んだせいか、今は少し落ち着いている。


「なら良いですけど……あんまり無理しないで下さいね。――ところで、レーゼさん的にはちょっと嬉しかったりもしますか? 久々の里帰りですし……」

「一ヶ月ちょっと振りかしら? まぁ確かに、ちょっと不謹慎だけどそんな気持ちね」


 レーゼが、雅の隣に来て答える。


 今向かっているナランタリア大陸にある『ノースベルグ』という街が、彼女の故郷だ。雅達は調査のついでに、ノースベルグにも立ち寄るつもりでいた。


「でも、折角就籍の手続きをしたのに、無駄になっちゃったわね。それは残念かも」

「あはは……この間、手続き完了の知らせがありましたけど、どうしましょうか?」

「まあ、仕方ないわね」


 レーゼがこの世界に来た時、戸籍が無いと色々問題があるため、就籍の手続きを行った。記憶喪失になってしまったという設定で何とか手続きを済ませ、非常に疲れた記憶が今もレーゼの頭に蘇る。


 折角戸籍も手に入れたので、アルバイトでもして少しでも雅の家にお金を入れようと思っていたのだが……実は履歴書を作成する段階でレーゼは四苦八苦していた最中であった。


「嬉しいと言えば、ミヤビも実はそんな気持ちだったりする? 目的は果たせたわけだし……」

「ええ。予定とはちょっと違いましたけど……」


 雅が異世界を旅していたのは、二つの理由があった。


 一つは、レイパーと共に戦ってくれる仲間を探すため。


 そしてもう一つが、異世界と雅の元いた世界の二つの世界を自由に行き来する方法を探すためである。


 自由に行き来する……とは違うものの、二つの世界が一緒になったということは、ある意味では雅の目的は果たされたと言えよう。


「でも、これから世界はどうなっちゃうんでしょう? どこもかしこも大混乱ですし……」

「向こうも向こうで慌しいみたいね。無理も無いけど」


 世界が融合してまだ十時間。正確なことはまだ調査中だが、大陸が三つ増えただけに留まらず、どうやら地球も少し大きくなったらしい。


 地球が大きくなったということは、その分重くなったはずであり、それならば雅達に掛かる重力も増えるはずなのだが、体感では変化が無い。不可解なことである。


 雅とレーゼはナランタリア大陸を眺めながら、変わった世界についてあれこれ会話を続ける。


 とは言っても、内容はあって無い様なものだ。目的地に到着するまでの、ただの暇つぶしという側面の方が大きい。


 そして、十分もダラダラと話をしていた時だろうか。


「ミヤビ、レーゼさン、ここにいたのカ」


 またしても後ろから声が掛かる。


 振り向けば、そこにいたのはツーサイドアップの髪型の、ツリ目の少女。やや日本語がカタコトな彼女は、(クォン)志愛(シア)だ。


「ええ。ちょっと風に当たりたくて。志愛ちゃんは?」

「そろそロ、祖国が見える頃かと思ってナ」


 言いながら、志愛はレーゼの横に立つ。


 韓国出身の志愛。彼女の予想通り、ナランタリア大陸から少し西に目を向ければ、そこには半島があった。そこが韓国だ。


 しばらく故郷を見つめていた志愛だが、やがて深く息を吐く。


「韓国にいる友人に連絡をとったんダ。彼女達モ、世界が変わって不安になっていタ。もっと早く久世を止めていればと思うト、少し責任を感じてしまウ……」

「あなたのせいじゃないわ。こんなこと、誰にも予想出来なかったのだし……」

「まあ最モ、レーゼさんが故郷に帰れるのなラ、世界が融合したことも悪くないとも思っているんですけどネ。しかシ、やっぱり奴の姿は目障りだナ」


 志愛の眼光が、僅かに鋭くなる。


 その視線は、韓国から少し離れたところ……佐渡の近くにある、ドーム状の巨大な白い物体に向けられている。


 あれもレイパーだ。分類は『ラージ級ランド種』で、世界が融合した後も変わらずそこにいる。自発的に人間に襲い掛かるようなことは無いが、こちらから危害を加えようとすれば暴れ出し、巨大な津波を発生させる厄介なレイパーである。


「以前は大人しかった奴ですけど、もしかしたら突然暴れ出すかもしれないんですよね……」

「あア。何時襲ってきてもおかしくなイ。――ところデ、二人とも随分元気そうだナ」

「異世界で慣れていますからねぇ。さがみん達は、まだ寝ていますか?」


 そう聞くと、志愛は頷く。


 数時間前まで、数多くの敵と戦っていた雅達。すっかりクタクタである。かく言う志愛も、一時間位前までぐっすり眠っていた。


「シアも、もう少し眠ってきたらどう? 到着まではまだ掛かりそうだし……。って、どうしたの、二人とも?」


 レーゼは何気無く言ったつもりなのだが、雅と志愛が目を丸くしており、何か変なことでも言っただろうかとレーゼは怪訝な顔をする。


「いえ、レーゼさんって確か、志愛ちゃんのことは『さん』付けで呼んでいたから……」

「……あ」


 言われて、気がついた。


 今までは雅以外の人は『さん』付けで呼んでいたレーゼ。人付き合いが苦手な上、慣れない環境のせいで、無意識に他人と少し距離を作ってしまっていた。


 しかし、今。


 さらりと、本当に何も違和感無く、確かに自分は志愛のことを呼び捨てにして呼んだと気がついたのだ。


「……ふフ、ついにデレ期がきましたネ、レーゼさン!」

「い、いえ……そんな大仰なことでは無いんだけれど……。きっと、大きな戦いを共に乗り越えたから、無理せず自然と壁を取り払えたのかもしれないわ。きっと他の皆のことも、名前で呼べそうね」

「桔梗院だけハ、名前で呼ぶと面倒なことになりそうなので気をつけて下さイ」

「大丈夫ですよぅ。きっと今なら、名前呼びしても怒らないと思いますよ?」


 自分の名前にコンプレックスのある仲間のことを思い浮かべる三人は、一緒に苦笑いを浮かべる。


 そんな時だ。


 雅達の眉が、同時にピクリと動く。


 それまであった朗らかな雰囲気は消え去り、変わりにピリっと張り詰めたような空気が辺りを支配する。


「……二人とも、気がついた?」

「えエ。殺気を感じましタ。海の中からでス」


 ほんの僅かな違和感。


 誰かが、こちらを見ているような、そんな感覚。


 間違いなく、レイパーのものだ。


「甲板の真ん中まで移動しましょう。三人で背中合わせになれば、どこから来ても対処出来るはずです」


 雅の提案に、レーゼも志愛も揃って頷く。


 志愛がポッケからペンを取り出すと、雅と志愛の右手の薬指に嵌った指輪が同時に輝きを放つ。


 雅の手には、剣銃両用アーツ『百花繚乱』。メカメカしい見た目をした、全長二メートル程の巨大な剣だ。柄を曲げれば、エネルギー弾を放てる銃になる。


 志愛の手に握られたペンが姿を変え、現れるのは棍型アーツ『跳烙印(ちょうらくいん)躍櫛(やくし)』。全長ニメートル程の銀色の棍で、先端は虎の頭を模した形状になっており、開いた口にはゴルフボールサイズの紫水晶が咥えられている。


 レーゼが剣型アーツ『希望に描く虹』の柄に手を掛けた。全長一メートル程の空色の刃を持つ長剣だ。斬撃の跡には、虹が架かる。


 ゆっくりと、三人は甲板の上を移動していく。



 そして、雅達が甲板の中心まで来るのを待ち構えていたかのようなタイミングで、海の中から何かが飛び出してきた。

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