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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第12章 北蒲原郡聖籠町『StylishArts』
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第104話『人質』

 地下四階。


 ここに降りてきた雅達は、人工種鷹科レイパーと出会った。


 人工レイパーは、拘束された光輝――希羅々の父親だ――を連れており、怒りに燃えた希羅々が今まさに、レイピア型アーツ『シュヴァリカ・フルーレ』を手に突っ込んでいったところ。


 全力で地面を蹴り、猛スピードで一気に接近し、人工レイパーの喉元目掛けて突きを放つ。


 吸い込まれるように伸びていく、レイピアのポイント。


 だが、


「――っ!」


 やはりと言うべきか、人工レイパーは光輝を引っ張り、まるで盾にするように体の前に連れてくる。


 このままでは光輝は串刺しだ。


 そうはさせまいと、勢い良く突き出した腕に力を込め、無理矢理軌道を逸らす希羅々。


 だが、人工レイパーの前で、その行動はあまりにも致命的な隙を生み出してしまう。


 光輝を退け、大きく開いた希羅々の腹部へと、人工レイパーは蹴りを繰り出し、彼女を吹っ飛ばす。


 そのまま追撃しようと人工レイパーが一歩踏み出すが、その刹那、足元へと白い矢型のエネルギー弾が着地し、爆発を起こす。


 優が弓型アーツ『霞』で攻撃したのだ。


 光輝が近くにいては、誤射が怖くて人工レイパーにエネルギー弾は放てず、代わりに足元を狙う。


 すると人工レイパーが僅かに怯んだところに、雅がブレードモードにした剣銃両用アーツ『百花繚乱』を構えて突進していった。


 優が敵を怯ませることを信じて、攻撃を仕掛けにいったのである。


 しかし、


「くっ……!」


 人工レイパーは再び光輝を盾にして雅の手を鈍らせると、希羅々同様に腹部へと蹴りを入れた。


「はぁぁぁっ!」


 その直後、復帰した希羅々が声を張り上げ再び攻撃を仕掛けるが、結果は変わらない。同じように光輝を盾にする。


 だがこの瞬間、矢型のエネルギー弾が人工レイパーの脇腹に直撃した。


 光輝が誰かの攻撃の盾にされる時を、優は密かに待っていたのだ。


 ――三人掛かりなら、いける!


 アーツを構え、油断無く人工種鷹科レイパーを睨みながらも、雅も優も希羅々も同じことを思う。


 ゆっくりと動き、人工レイパーの正面には希羅々が、右側には雅が、左側には優が立つ。


 三人の雰囲気が変わったことを、人工レイパーも悟ったのだろう。


 僅かに、歪な頭についた眼に警戒の色が浮かぶ。


 まずは雅が牽制するように斬撃を繰り出すと、優が弦を引いてエネルギー弾を装填する。


 そして雅の斬撃に少し遅れて、希羅々が人工レイパーの胸元目掛けて突きを放つ。


 人工レイパーは優と自身の間に光輝を置いて彼女の狙撃を封じると、右足の蹴りで雅の斬撃を上方向に弾き、そのまま足裏で希羅々の突きを受け止める。


 そのまま優の狙撃を光輝で封じながら、足だけで二人の攻撃を捌いていく。


 雅も希羅々も攻めようとしているものの、その動きにはどこかぎこちなさがあった。


 近くに光輝がいるため、そちらに気を払わなければならないからだ。


 優も、光輝を盾にされている中、何とか敵の隙を作りだそうと要所要所でエネルギー弾を放つものの、効果は薄い。


 三人は、顔を歪ませる。光輝の存在が、自分達の想像以上の枷となっていた。


 人工レイパーを倒すより先に、光輝を救出しなければ、勝ち目は無い。


 どうすればいい……そう思った雅の脳裏に、あるスキルの存在が浮かぶ。


 以前、天空島でライナを助け出した時に使ったスキル――ファムの『リベレーション』が使えないか、そう思ったのだ。


 他者であっても、捕われている人間を助ける方法を雅に教えてくれるスキルだ。


 今の状況は、このスキルを使う条件が揃っている。ここで使わなければ何時使うのか。


 雅は一旦後ろに飛び退いて、その『共感(シンパシー)』により、ファムのスキル『リベレーション』を発動すると――彼女の眼に、希望の光が宿る。


 自分一人では無理。優の力が必要だが、敵に狙いを知られるわけにはいかない。


 故に急いで左手の人差し指をスライドさせて、『ULフォン』によりウィンドウを出現させると、優にメッセージを送る。


 そして、優に見えるように、自分の胸元を指差した。


 そこは、優がいつもULフォンを入れている場所。


 最初何のことかと思った優だが、すぐにメッセージの存在に気がつく。


 軽く目を通すと、「了解」と言うように雅に軽く頷いてみせた。


 今、人工レイパーと一人で戦っている希羅々も、二人が何かしようとしていることに雰囲気で察した様子。


 とにかく自分に攻撃を引きつけようと、光輝に注意しながらもレイピアによる攻撃の手を緩めない。


 雅は百花繚乱をライフルモードにすると、人工レイパーの足元に向かって桃色のエネルギー弾を放つ。


 人工レイパーが僅かに怯んだところに、胸元めがけ希羅々がレイピアを突く。


 堪らず、光輝を体の前へと引っ張り、攻撃の盾とする人工レイパー。


 その瞬間。


 優が白い矢型のエネルギー弾を放った。


 狙いは、光輝を掴んでいる人工レイパーの腕。


 丁度肘のところへと、見事命中する。


 刹那。


「――ッ!」


 雅が、いつの間にか突っ込んできており、人工レイパーの手から光輝を奪い、そのまま飛び退いて人工レイパーから距離を取る。


 優が人工レイパーの腕を狙撃することを、彼女は知っていたのだ。光輝を希羅々の攻撃への盾にした瞬間には、彼女はもうすでに光輝へと走り出していた。


 ファムのスキルで、人工レイパーの腕の弱所を知った雅。肘へ強い衝撃を加えれば、光輝を掴む手が一瞬緩むのである。


 接近戦では光輝が邪魔で肘を狙い辛いため、雅は遠距離攻撃出来る優に、肘への攻撃を頼んだのだ。先程のメッセージで、それを伝えた。


 そして優が肘を狙撃し易い様、希羅々をサポートし、彼女の攻撃に人工レイパーが光輝を盾にするよう仕向けたのである。


 一か八かではあったが、上手くいった。


 光輝を奪われた人工レイパーは、咄嗟に雅と光輝の方へと体を向けるが、その刹那、希羅々の強烈な突きを受け、その直後、優の『死角強打』のスキルが乗った白い矢型のエネルギー弾を受けたことで大きく吹っ飛ばされる。


 その間に雅は光輝の縄を切り、目隠しと耳当てを外す。


 急に目の前が明るくなり、思わず目を閉じた光輝を、雅は立たせた。


「早く離れて!」

「す、すまない!」


 自分の置かれた状況を正確に把握する光輝。


 希羅々を見ると驚愕したような声を上げたが、それでも今ここに自分がいると邪魔になると判断し、諸々の疑問を呑み込んで部屋の隅まで移動する。


 光輝が逃げ出したことで、人工レイパーは怒り狂ったような声を上げた。


 しかしそれを聞いても、雅も優も希羅々も、誰一人として顔色を悪くしない。


 三人とも落ち着いて、大きく息を吐き、アーツを持つ手に力が入る。


 これでやっと本気で戦える、そう言わんばかりの表情だ。


 三人も、人工レイパーも、互いに睨みあう。


 人工レイパーは唸り声を上げると、背中の羽を広げ、飛び回る。


 そのまま、四方八方からタックルしにかかる。


 飛行速度が速く、目で追い切れない雅達は、敵の気配を頼りに、攻撃をアーツで受け止め、衝撃を少しでも和らげるより他は無い。


 しかし、剣やレイピアを持つ雅や希羅々は兎も角、弓が武器の優は、二人程人工レイパーの攻撃を凌ぎきれない。


 左、正面、右、背後、真上から……あらゆる角度から、人工レイパーは突撃してくる。


「きゃっ!」

「さがみんっ?」


 ついに、優は人工レイパーのタックルを防ぎきれず、吹っ飛ばされてしまった。


「ちぃっ! ちょこまかと……!」


 苛立つ声を上げる希羅々。


 今は何とか攻撃を防いでいるが、このままでは、やられるのも時間の問題だ。


 すると、希羅々の元に雅が近づき、背中同士をくっつける。


「束音さん? 何を?」

「こうすれば背後からの攻撃は防げます! 桔梗院ちゃん、何とか敵の動きを止めましょう!」

「ふん! 仕方ありませんわね! 背中は任せますわよ!」


 言うと、二人は目の前と上だけに注意を払う。


 すると、何となくだが、敵の動きが見えてきた。


 全方向を見ようとするのを止めたことで意識が集中し、無駄な動きも無くなって余裕が出来たのだ。


 故に、分かる。


 今、人工レイパーが雅の右側から突撃してくることに。


「――そこだ!」


 見えたから、この時の雅も攻撃の準備が出来た。


 相手の動きに合わせて、百花繚乱で迎え撃つ。


 さらにこの瞬間、雅は真衣華の『腕力強化』も発動していた。


 効果は真衣華のものと同じ。自分の腕力を少しの間上げる効果がある。


 人工レイパーの突進に負けないように、自分のパワーを上げたのだ。


 タイミングはばっちり。


 激突した人工レイパーの体と百花繚乱の刃だが、スキルの効果もあって、上手く敵を弾き飛ばす。


 縦に回転しながら、大きく後ろに飛んでいく人工レイパーは、翼に力を込めて何とか空中で止まる。


 だが――


「――ッ?」


 人工レイパーの動きが止まったところで、羽に白い矢型のエネルギー弾が命中する。


 先程吹っ飛ばされた優が、人工レイパーを狙撃したのだ。


 彼女のスキル『死角強打』により、威力の上がったエネルギー弾は、人工レイパーの翼に大きな傷を付け、動きを鈍らせる。


 片翼を損傷したことで、空中に留まれなくなった人工レイパーは床へと落ちていった。


「桔梗院ちゃん!」

「ええ!」


 雅が声を掛けた瞬間、百花繚乱の刃の中心に切れ目が入り、上下にスライドする。出来た隙間に、希羅々のシュヴァリカ・フルーレがすっぽり入ると、そのまま刃ががっちりとレイピアを咥えた。


 床に叩き付けられた人工レイパーがヨロヨロ立ち上がるも、その体を強張らせる。


 二つのアーツが合体した、全長三メートルもの巨大なランスの姿を見たからだ。


 雅と希羅々が一緒にランスのグリップを握ると、シャフトが白く発光し始め、そのまま二人は人工レイパーへと走り出した。


 咄嗟に背中を向けて逃げようとする人工レイパーだが、時既に遅し。


 力一杯に放ったランスの突きが人工種鷹科レイパーの背中を貫き、そのまま爆発させるのであった。

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