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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第12章 北蒲原郡聖籠町『StylishArts』
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第103話『蜂花』

 地下三階。


 人工種蜂科と戦う、志愛と愛理。


 人工レイパーは、まるで蜂の尻部のような形状をする右腕の先端を向けると、突っ込んでくる二人に向かって太い針を飛ばす。


 秒速三百メートルの速度で襲ってくる針を、見てから躱すことは不可能だ。


 故に、敵の動きをよく注視し、撃ってきそうなタイミングで体をずらすという、一歩間違えれば即死するような方法で避けていた。


 志愛と愛理にとって幸運だったのは、針の射出が連射出来るような構造では無かったこと。


 一発撃ったら針が充填される構造のため、攻撃を躱した後に接近出来るタイミングが存在する。


 全神経を研ぎ澄ませ、一発一発丁寧に回避し、そしてついに自分達のアーツの攻撃範囲まで近づくことに成功する二人。


 志愛は足元を、愛理は胴体を狙い、同時に攻撃する。


 しかし、


「――何ッ?」

「ちぃっ!」


 人工レイパーは、ナナフシのような細い体を器用に曲げ、曲芸のように二人の攻撃を躱してしまう。


 さらに、近距離から愛理へと腕を向ける。


「――っ!」


 咄嗟に愛理が体を後ろに反らした瞬間、針が彼女の顔スレスレを通過していった。


「こノッ!」


 志愛が敵の細い体を圧し折ってやろうと、棍型アーツ『跳烙印・躍櫛』を振り回すも、左右に体を曲げたり、バク転しながら、我武者羅に振りまわされる棍の直撃を避けていく。


 そこに愛理も、刀型アーツ『朧月下』で斬りかかるも、人工レイパーはそれすらも紙一重で躱してしまった。


 だが二人も負けていない。


 愛理の薙ぎ払うようにして放たれた斬撃を仰け反って躱せば、そこに志愛が棍を真上から叩きつけに掛かる。


 それを右足の蹴りで迎え撃って防げば、スキル『空切之舞』を使って敵の死角へと移動していた愛理がさかさず斬りつける。


 二人で息を付かせる間もなく攻撃を繰り出すことで、敵に反撃の隙を与えない。


 だが――


「ッ?」

「権っ?」


 それでも、相手の方が一枚上手だった。


 攻撃を避けながら、人工レイパーは二人の動きをよく観察していたのだ。


 志愛が攻撃しようと一歩踏み込んだ瞬間を狙い足払いを仕掛けてバランスを崩し、思わず彼女へと意識を反らしてしまった愛理の腹部を蹴って吹っ飛ばす。


 さらに体勢を崩し仰向けに倒れた志愛へと、右腕の先端を向けた。


 志愛は、咄嗟にアーツを前に出す。


 放たれた針は、棍の真ん中に直撃すると……


「やバッ!」


 針が刺さったところから腐食していき、棍は溶けて無くなってしまった。


 驚異的な毒だ。


「グッ……!」

「権!」


 武器を失った彼女の胸部を、人工レイパーは思いっきり踏みつけるのであった。



 ***



 一方、人工種ヒマワリ科レイパーと戦うレーゼと真衣華はというと。


「あわわわわっ!」

「ちっ、面倒ね……!」


 人工レイパーの胸部にある、枯れたヒマワリ。


 そこからマシンガンのように放たれる種を、ひたすらに走り回り避けていた。


 二人はレイパーを中心として、まるで渦を描くかのようにグルグルと回りを走り、少しずつレイパーへと近づいてはいるものの、その顔は焦りに染まっていた。


 レーゼと真衣華の目は、人工レイパーの左腕へと向けられている。


 先端は球状となっており、タンポポの綿毛のようなものが無数に生えていた。


 綿毛の見た目から、飛ばしてくるものだと想像していた二人。その考えは当たっていた。


 種子のマシンガンを避けている今この瞬間も、少しずつ人工レイパーの手から離れ、フワフワと宙を浮いて漂っている。


 綿毛が直接攻撃してきた訳では無いが、無意味な行為ではないだろう。


 故に急いで勝負を決めたいのだが、人工レイパーの攻撃を避けながら接近し、攻撃を仕掛けるのは少し手間取っているレーゼ達。


 敵の攻撃が絶え間なく続いており、中々隙が無いからだ。


 それでもレーゼも真衣華も諦めない。


 攻撃をする度にヒマワリにある種の数は、目で見て分かる程に減っており、いつか必ず弾切れを起こすことは分かっている。


 現に、今のペースなら後十数秒で種子が無くなると思われた。


 攻撃は手数こそ多いが乱雑で、動き回っていれば当たることも無い。


 攻撃が止んだ瞬間、一気に近づいて勝負を決める。


 二人は手に持ったアーツを握る手に、力を込めた。


 そしてついに――


「っ! 行くわよ!」

「うん!」


 人工レイパーは動きを止める。ヒマワリにあった種子が無くなったのだ。


 この隙を逃さず、一気に人工レイパーへと近づく二人。


 ヒマワリには種が実るものの、再び攻撃出来るようになる前に二人の攻撃が人工レイパーを襲うだろう。


 行ける! ……そう思った、その時だ。


「――っ?」

「ちょっ? 何、こいつらっ?」


 二人と人工レイパーの間に、それまで宙に漂っていた綿毛が割り込んだと思ったら、綿毛から手足が生え、レーゼと真衣華に向かってくる。


 慌てて回りを見れば、同じように手足を生やした綿毛がたくさんあった。


 ざっと見たところ、百体は下らない。


「邪魔よ!」


 レーゼが剣型アーツ『希望に描く虹』で、迫る綿毛を斬る。


 綿毛の体は容易く切断され、小さく爆発した。どうやら戦闘力は低いらしい。


 だが、


「うわわっ?」


 弱いからといって無視すれば、今の真衣華のように体に纏わりつき、動きを邪魔してくる。


 慌てて振り払い、真衣華も片手斧型アーツ『フォートラクス・ヴァーミリア』を振るって、五体の綿毛を纏めて倒す。


 そのまま人工レイパーの方へと向かおうとするが、さらに十体の綿毛が行く手を阻んできた。


 レーゼも同じような状況だ。やって来る綿毛を斬っても斬っても、すぐに次の綿毛がやってくる。


 そうしている間にも、人工種ヒマワリ科レイパーの胸部のヒマワリの種子が復活した。


 遅まきながら、レーゼも真衣華もこの綿毛の役割を理解する。


 こいつらは、人工レイパーが種子を装填するまでの時間稼ぎなのだ、と。


 綿毛に邪魔され、自由に動き回れなくなった二人へ、再び人工レイパーは種子をマシンガンのように飛ばすのであった。



 ***



 地下四階に足を踏み入れた雅、優、希羅々の三人。


 そこも広いスペースのフロアであり、希羅々曰く模擬戦等が出来る様に頑丈な作りとなっているらしい。


 防音性に優れているのか、この部屋に入ったら、それまで聞こえていた上の階の戦闘音がパタリと止んでしまった。


 一瞬、もう決着が着いてしまったのかと錯覚してしまった程だ。


「四人とも、大丈夫かな?」

「……多分、きっと」


 ボソリと漏れた優の疑問に、雅はやや自信無さそうに答えた。


「……行きましょう。ここを降りれば、実験室がありますわ」


 先頭を行く希羅々は、一瞬だけ背後を見て、先を促した。


 彼女も、上の様子は心配なのだ。


 それでも先を行けと言われた。ここは任せろと言ってくれた。そんな彼女達の元に戻れるわけも無い。自分達に出来るのは、ただ先に進むだけである。


 それに――


「……あんたのお父さん、無事だと良いわね」

「……あら、心配して下さるの?」


 優の言葉に、意外だと言わんばかりに希羅々はそう言った。


 その態度が何となくイラっときた優。


「何よ、悪いぃ? 希羅ー……コホン、桔梗院ちゃぁあん?」

「……あなたに苗字で呼ばれると、何だか変な気分ですわね」

「……仕方ないでしょ、みーちゃんとの約束なんだから。私だって変な気分よ」

「――二人とも」


 無駄話を始めた優と希羅々を、雅が諌める。


 前方から、只ならぬ気配を感じたからだ。


 二人も雅に声を掛けられたことで、それに気づく。


 気配は、フロアの奥の、下へ続く階段の方からしている。


 フロアの真ん中辺りで、思わず立ち止まる三人。


 コツ、コツ……そんな足音が、やけに大きく聞こえた。


 雅達は、それぞれアーツを構え、階段の方を注視する。


 そして、新たにフロアに足を踏み入れた相手を見て、希羅々から殺気が漏れた。


 やって来たのは、鷹の頭をした人工レイパー。人工種鷹科レイパーだ。


 その横には、桔梗院光輝……希羅々の父親もいた。


 体と腕に縄が巻きついており、視界は布で塞がれ、猿轡を噛まされている。耳当てのようなものを身につけており、聴覚も封じられているのだろうと推測された。自由に動かせるのは足だけだ。人工レイパーに引き摺られるように、ここに連れて来られたのである。


 どういう目的で光輝を連れてきたのか……彼を抱えたまま戦闘態勢をとる人工レイパーを見て、三人はすぐに察した。


 ジリジリと、張り詰めていく空気。


 我慢出来なくなった希羅々が地面を蹴って敵に突っ込んでいったことで、戦闘が始まるのであった。



 ***



 地下三階。


 突然現れた、手足の生えた大量の綿毛。


 人工種ヒマワリ科レイパーからマシンガンのように放たれる種子の攻撃を避けながらもレーゼと真衣華は綿毛を倒していくが、一向に数が減る様子が無い。


 それもそのはず。こうしてレーゼ達が綿毛を倒している間にも、次々に人工レイパーの腕から綿毛が宙に舞い、新たな敵を生み出しているのだから。


 一方、愛理と志愛。


 人工種蜂科レイパーに踏みつけられていた志愛だが、ポケットからヘアピンを取り出すと、それを棍型アーツ『跳烙印・躍櫛』へと変化させ、倒れたまま敵を叩いて吹っ飛ばす。


 そして愛理と二人で反撃に転じようとするが……


「ッ? なんだこいつラッ?」

「あのレイパーが創り出したようだ! これでは……っ!」


 二人の方へも、綿毛が襲いかかっていた。


 刀と棍で慌てて捌きにかかる愛理と志愛だが、これでは人工種蜂科レイパーに反撃するどころの話では無い。


「っ!」

「愛理ッ?」


 そんな中、綿毛の相手に集中していた愛理の側を、針が飛んでいく。敵の攻撃だ。


「大丈夫だ!」


 そうは言いながらも、愛理の顔は強張っていた。


 今のは運よく当たらなかったが、この綿毛と戦いながら人工レイパーの攻撃を躱し続ける自信は無い。


 どうすれば良いのか――そう思った愛理の目に、離れたところで綿毛に苦戦しているレーゼと真衣華の姿が映る。


 そして、今も変わらず綿毛を飛ばし続けている人工種ヒマワリ科レイパーの姿も。


 その瞬間、ある作戦が浮かんだ。


「権! この綿毛の相手を任せた!」

「ワ、分かっタッ!」


 言うが早いか、愛理は朧月下を構えて人工種蜂科レイパーへと向かっていく。


 途中で迫りくる綿毛の相手を、志愛に任せ、自分は最低限の綿毛だけを処理し、一直線に走る。


 二発、三発放たれる針は、勘を頼りに避け、一気に人工レイパーとの距離を詰めた。


 上から振り下ろして放った斬撃は、人工レイパーは体を反らして避ける。


 その瞬間、愛理の『空切之舞』が発動。


 敵の死角である背後に瞬間移動し、背中に横に一閃。


「――ッ!」


 傷は浅いが、見事にヒット。僅かに走る痛みに軽く悲鳴にも似た声を上げるが、それでも人工レイパーは攻撃が飛んで来た方向へと右腕の先を向け、針を飛ばす。


 人工レイパーの狙いは、愛理と距離を取ること。


 元より、しっかりと狙っていない攻撃が当たるとも思っていない。わざと針を避けさせ、その隙に彼女から離れるつもりで撃った一発だ。


 故に、愛理が針を躱した時も、驚きはしなかった。


 だが、


「――グギッ?」


 遠くで悲鳴が上がる。


 人工種蜂科レイパーが放った針は、あろうことか人工種ヒマワリ科レイパーに命中していたのだ。


 膝をつく人工種ヒマワリ科レイパー。脇腹の辺りに刺さった針を中心に、体が紫色に変色していく。針に含まれる強力な毒は、人工レイパーにとっても致命的だ。


 これこそが愛理の狙い。


 針を誘導し、誤射させること。


 こうすると、何が起こるのか。


 人工種ヒマワリ科レイパーが膝をついたことで、レーゼと真衣華にマシンガンのように飛ばしていた種子の攻撃が止む。


 そうすれば、レーゼと真衣華を邪魔するものは、綿毛だけ。


 種子の攻撃が無ければ、綿毛を処理しながらも人工種ヒマワリ科レイパーに近づくことは、少し時間が掛かるが可能だ。


 そして、毒が回り、動けなくなった人工レイパーなど、二人の敵では無い。


「えぇぇぇえぃっ!」


 一足早く人工レイパーに接近した真衣華が、『腕力強化』のスキルを使い、二挺のフォートラクス・ヴァーミリアを交互に人工レイパーの体に叩き付ける。


「はぁぁぁあっ!」


 そこに、背後からさかさずレーゼが希望に描く虹で斬りつけた。


 毒に加えて、強烈な二人の攻撃。


 人工レイパーが耐えられるはずも無く、爆発する。


 すると――


「――ッ!」


 残っていた綿毛も、残らず小爆発して消え去った。


 視界を覆うように辺りに立ち込める、白い煙。


 残った人工種蜂科レイパーも、こうなれば針で標的を貫くことは困難だ。


 そんな人工レイパーの腹部目掛け、愛理が煙を吹き飛ばす程の勢いで斬撃を放つ。


 視界が良好なら簡単に避けられてしまっていた、この斬撃。


 今なら当たる。


 細い人工レイパーの体にとって、強烈な斬撃は致命的。


 咄嗟に後退したことで真っ二つになることは避けられたが、それでも深い斬り傷が腹部にくっきり出来上がる。


 そして呻く人工レイパーに、追撃の影が飛び掛る。


 志愛だ。


 跳烙印・躍櫛の先を思いっきり人工レイパーの顔面に叩き付けられ、吹っ飛ばされる。


 人工レイパーの顔には、虎の顔を模した刻印が浮き上がっていた。


 吹っ飛ばされながらも、もがくように手足をバタつかせるが、致命傷を負った体では耐えられるはずも無い。


 刻印が一際紫色の光を強めた瞬間、人工レイパーは爆発するのだった。

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