第99話『待受』
『StylishArts』の正面玄関の扉を突き破り、雪崩れ込むように入る雅達。
早速エレベーターで最上階まで行こうとしたところで……レーゼは小さく舌打ちをする。
「壊されている……。面倒なことを……!」
エレベーターの操作パネルを押しても反応が無い。恐らく、他の久世が人工レイパーに命じて壊させたのだろう。他の階も同じだと思われ、これで最上階まで行くことは諦めた方が良さそうだった。
「仕方ありませんわね。階段を使って――っ!」
希羅々がロビーの奥の方を指差したその瞬間、殺気が彼女達を襲う。
遠くから勢いよく、真衣華目掛けて『何か』が飛んでくる。
「真衣華っ!」
「希羅々っ?」
希羅々が慌て真衣華の手を引き引っ張ると、それまで真衣華がいたその地点に黒い『何か』が着弾する。
床に当たった瞬間、爆発。
攻撃が飛んできた方を見れば、そこにいたのは海老の頭をした人型の化け物。
体も海老のような甲羅で覆われているが、腕は吸盤が付いた触手のようになっており、まるでタコの足のようだ。吸盤の中心には穴があり、そこから墨のような液体がポタポタと垂れていた。先程の攻撃は、そこから放たれたのだろう。
人工レイパーである。
分類は『人工種海老科』だろうか。
「あいつは……!」
ドローンを狙撃してきた時、ちらりと見えた影が、この人工レイパーと重なり、雅はアーツを構える。
「皆さん、先に行って下さい! あいつは私が引き受けます!」
「私もやる! 後で追いつくから!」
真衣華も前に飛び出した。彼女の手には二挺の『フォートラクス・ヴァーミリア』が。片方は『鏡映し』のスキルによって複製したものである。
「真衣華、大丈夫ですのっ?」
「平気平気! フォートラクス・ヴァーミリアもあるしね! 皆は先に行って!」
「分かった! 任せたぞ!」
愛理がそう言うと、雅と真衣華を残して階段へと走り出す。
そんな彼女達に向かって人工レイパーは吸盤の穴を向け、そこから墨の塊を放った。
しかし、それが彼女達に命中することは無い。
雅がライフルモードにした百花繚乱で、桃色のエネルギー弾を放ち、空中で相殺させたからだ。
「あなたの相手は……私達です!」
「行くよ雅ちゃん!」
「はい!」
雅は百花繚乱をブレードモードに変えると、真衣華と一緒に人工レイパーへと駆け出すのであった。
***
ビルの十階。
レーゼ達が昇っている階段では、ここまでしか来ることは出来ない。
今彼女達がいるフロアは、真ん中に大きな穴が開き、丁度『ロ』の字のような構造になっている。
次の階へは、壁の反対側にある階段を利用しなければならなかった。
しかし――
「……いるナ。邪魔者ガ」
「いるわねぇ、邪魔者が」
志愛と優が、揃って眉を顰めた。
右の通路にも、左の通路にも、それぞれ一体ずつ人工レイパーが待ち構えていたのだ。
しかも、その二体には見覚えがある。
一体は、黒猫の顔の、やや筋肉質の真っ黒な細身の人工レイパー。分類は『人工種黒猫科』だろうか。レーゼ達が尾行していた男が変身するレイパーだ。魔王種レイパーに吹っ飛ばされた彼だが、生きていたのだ。
もう一体は、烏の頭をしたボディビルダーのような筋肉の鎧を持つ、真っ黒い体の人工レイパー。こちらの分類は『人工種烏科』か。雅達がこちらの世界に来た日、希羅々と交戦した奴である。
「前に逃がした奴か……。丁度良い。どこかできっちり倒さなければと思っていたからな」
「以前、いいようにやられましたし……借りは返させて頂きますわ」
愛理と希羅々が、アーツを刃を手の平でゆっくりと撫でながら前に出る。
二人の戦意が、人工レイパーにも伝わったのだろう。二体とも僅かに腰を落とし、戦闘態勢に入った。
「相模原、マーガロイスさん。少し手を貸してくれ」
「分かった」
「勿論よ」
愛理を先頭に、優とレーゼが右方向に。
「あら、マーガロイスさんは取られてしまいましたわね。権さん、ご一緒頂けます?」
「構わなイ。しかしいいのカ? 前はあいつと一人で戦いたがっていたようだガ……」
「気持ちが無いわけではありませんが、そうも言っていられませんし。頼りにしていますわよ」
希羅々を先頭に、志愛が左方向へと進む。
こうして、それぞれの場所で戦いが始まるのであった。
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