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第92話『爆発』

 歪な鷹の頭の化け物が、男性に姿を変えた。


 年齢は三十代くらいか。オールバックの髪型で、高身長。先程そこにいた化け物とは思えないくらい、整った顔立ちだ。


 オールバックの男の手には、レーゼ達が盗まれた鏡。


 レーゼは頭の中で、必死に状況を整理する。


 今、廃工場の中にいるのは、二人の男。


 片方は、化け物が姿を変えた男である。


 そしてもう片方は、その化け物の目撃情報を警察に送った男だ。


 親しい、という感じでも無いが、様子を見る限り、とても仲が悪そうにも見えない。


 仲間、という間柄が、一番しっくり来る表現か。


 すると、二人の男は何やら会話しながら、工場の奥へと行ってしまう。


「どうします? 追いますか?」


 険しい顔で尋ねてくる愛理。レーゼは即答できない。


 状況を整理しても何も見えてこない以上、慎重に対応しなければならないだろう。


「状況を、見たままに捉えれば……あの鷹みたいなレイパーは、人間の男が変身した怪物だった、ということよね」

「えエ。理由は分かりませんガ……」

「でも、放っては置けない。……タチバナさん、大丈夫?」


 真衣華が青い顔になっているのに気が付き、レーゼは心配そうに声を掛ける。


 無言で頷く真衣華。だが、その後で、ゆっくりと口を開いた。


「ごめんなさい、ちょっと、ショックで……」

「ショック?」

「うん……。予想、当たってたから……。あのキリギリス顔のレイパーを倒した後、男が倒れていたでしょ? 雅ちゃん、その男がレイパーに変身して、私達に襲いかかったって思ってたけど、私、信じたくなかった。だって襲われる理由、無いし。そういう奴、レイパーだけだって思いたかった。でも……今の見たら、信じざるを得ないっていうか……」


 そう言って、真衣華は下唇を噛む。


「……ごめんなさい。私とミヤビが変なことに巻き込んだせいで、嫌な思いをさせちゃったわね……」


 レーゼは、弱々しく頭を下げる。


「ううん、別に、レーゼさんのせいじゃ……。私こそごめん。弱音、吐いちゃった」

「気にするナ。あんなのを見れバ、誰だって嫌な気持ちになル。しかし実際のとこロ、どうしますカ?」

「二手に別れましょう。私は工場の裏へと回る。あなた達はそこの入り口から入って二人を追って頂戴。挟み撃ちに――」


 レーゼがそこまで言った、その時だ。



 少し離れたところで、爆発が起きた。



「っ? なんだっ?」

「……くっ、仕方ない。行ってみましょう!」

「シ、しかシ、あいつらハ……」


 志愛が、二人の男が向かった方を見る。


 無論、そちらも放っては置けない。


 しかし、


「何だか嫌な気配を感じるの……。あの二人とは比べ物にならないくらいの、ね」

「……分かりました。ならば、マーガロイスさんに着いて行きます!」

「ごめんなさいね――行くわよ!」


 レーゼは廃工場の方を一瞥してから、爆発の起きた方へと走り出す。


 他の三人も、後に続くのだった。



 ***



 廃工場から二百メートル程離れたところにある工場にて。


 先程の廃工場よりもずっと大きな工場で、製鋼関連の事業をしている工場である。今日は日曜日だが、稼動していたようだ。


 逃げる人は多くは無い。身につけている制服もバラバラで、どうやらたまたま近くの工場で作業を行っていた人が避難している様子である。


 だが、火が出ている工場へと向かうレーゼ達に、避難している中年の男性が怒鳴ってきた。


「君達! 何をしている! 早く逃げなさい! レイパーが現れたんだ! もう何人も殺されている!」

「なら、なおさら逃げるわけにはいきません! レイパーなら、私は倒さなきゃならないんです!」


 負けじと声を荒げるレーゼだが、男性は顔を青くして激しく首を横に振る。


「変な格好をした……恐ろしい奴だった! あんなレイパーは見たことが無い! 悪い事は言わないから、早く逃げるんだ! 俺はもう行くぞ!」


 そう叫んで、男性はレーゼ達を置いて先に行ってしまう。


「なんだ? どんなレイパーが現れたというんだ?」

「……行きましょう。念の為、いつでも逃げられる準備はしておいて」


 険しさを増したレーゼの表情に、不安が膨らむ愛理達。


 そして四人は、工場の敷地内に入る。


 建物は三つ。向かって左側に一つ、右側に一つ、そして奥にも一つ見える。


 全て平屋の建物だ。燃えているのは、向かって右側の建物である。


 すると、左側の建物の中から、悲鳴と、何かが壊れるような物々しい音が聞こえてきたと思ったら、建物の壁に破裂したような穴が開く。


 そこから中を覗きこんだ四人。中は事務所となっていたが、飛び込んできた光景に、顔を青くする。


 男女問わず、人の死体がいくつも転がっていた。アーツも床に落ちており、いずれも損傷が激しい。デスクや棚も倒れたり砕けたりしており、一体どんな戦いがあったのか想像もつかない。


 レーゼは腰に収めていた剣型アーツ『希望に描く虹』を抜き、志愛が近くに落ちていた金属の棒を拾い上げ、愛理達の右手の薬指に嵌った指輪が輝く。


 愛理の手には刀型アーツ『朧月下』が。


 志愛が拾った棒は姿を変え、棍型アーツ『跳烙印・躍櫛』が。


 真衣華の手には片手斧型アーツ『フォートラクス・ヴァーミリア』が、それぞれ握られる。


 四人はアーツを構えながら、慎重に建物の内部に足を踏み入れた、その時だ。


 部屋の奥の壁を砕き、何かが部屋に入ってきた。


 その姿を見た瞬間、レーゼの顔からスーッと血の気が引く。


 愛理達をこの場所に連れて来てしまったことを、激しく後悔した。


「ラン? セホヘグエゾチ、ラデワルホヤ」


 骨ばったフォルムの真っ黒い肌をした身長二メートル程の、黒いマントをはためかせた人型の生き物。


 トゲのある肩パッドと、血で汚れたブーツを身に付けたそいつは――雅とレーゼ達が、異世界で戦った、あの魔王種レイパーだ。


 胸元には、以前雅達が付けた傷が、まだ残っていた。


 魔王種レイパーは、レーゼを見ると、ニヤリと口元を歪める。


「三人とも――」


 逃げなさい、レーゼがそう伝えようとするも、その先は続かなかった。


 魔王種レイパーの姿が消えたと思ったら、一瞬でレーゼのすぐ側に出現し、彼女の腹部に強烈な蹴りを入れ、外まで吹っ飛ばしたからである。


 咄嗟にレーゼは自身のスキル『衣服強化』を発動していたが、それでもなお、鋭い激痛に、呻いたまま起き上がることが出来ない。


 呆気に取られた愛理達。


 だが、魔王種レイパーは止まらない。


 手始めに愛理の首根っこを掴んで部屋の奥まで投げ飛ばすと、志愛の背後に回りこみ、殴り倒す。最後に真衣華に向かって手の平をかざし、黒い衝撃波を放って吹っ飛ばし、壁に激突させた。


「ぐ、あぁぁぁあっ!」


 声を張り上げながら、愛理がアーツを振り上げ突っ込む。


 我武者羅と言っても良い、彼女の突撃。


 だが、魔王種レイパーは鼻を鳴らすと、大きく腕を広げ、彼女の袈裟斬りを受ける。


 二発、三発と続く、愛理の斬撃も、全てその身で受け続けるが、四度目の、首元を狙った一撃は、上体を後ろに反らして躱した。


 その瞬間、愛理は『空切之舞』のスキルを発動。


 当てるつもりの攻撃が躱された時、相手の死角へと瞬間移動するスキル。これにより、レイパーの視界から彼女の姿が消える。


 そして魔王種レイパーの背後へと出現した愛理は、再度首元を狙い、斬撃を放った――が。


「――ぅぐっ!」


 彼女の攻撃が届くより先に、レイパーが振り向き、再び愛理の首を掴む方が速かった。


 そのままレイパーが、ギリギリとゆっくり、恐怖を与えるように手の力を込めていく。


 しかしその時。


「っ、離セ!」

「あぁぁぁあっ!」


 志愛と真衣華がそうはさせまいと、レイパーに攻撃を仕掛ける。志愛は倒れたまま足元を目掛け、真衣華はレイパーの頭部を目掛け、それぞれ棍と斧を叩きつける。


「ッ?」

「か……硬い……!」


 命中したはいいが、まるで効いていない。レイパーの肉体は鋼のように硬く、それでいてしなやかだ。ちょっとやそっとの攻撃では、ダメージなど与えられない。


 それでも、少し気に障ったのだろう。


 レイパーは憤然としたように鼻を鳴らすと、今まで絞め殺そうとしていた愛理を部屋の外へと投げ飛ばし、真衣華の腹部に肘打ちを入れて怯ませる。


 そして、立ち上がった志愛へと蹴りを放った。


 志愛はアーツで受け止めようとするが、レイパーの蹴りはアーツを砕いてしまう。


 蹴りの威力を殺せず、思わず後ろに転がらされてしまう志愛。


 魔王種レイパーは、先程の肘打ちで体をくの字に折って呻いている真衣華へと近づくと、アッパーをするように、腹部へと拳を叩きこむ。


 軽々と宙に浮く真衣華の体は、そのまま外へ。


 そして最後に倒れた志愛を蹴り飛ばして、彼女も部屋の外へと追いやった。


 どうやら、部屋の中では狭くて戦い辛いため、外へと連れ出したかったらしい。


「な、なんだあの化け物は……」


 想像を絶する強さに、愛理が声を震わせる。


「……私達が、異世界で最後に戦ったレイパーよ。七人掛かりでも倒せなかった、正真正銘の化け物だわ」


 よろよろと立ち上がり、答えるレーゼ。


 七人掛かりでも倒せなかった、という言葉に、愛理達三人の顔が絶望に染まった。


 険しい顔を保っているだけで、レーゼも内心は絶望に近い心境である。


 それでも、両手でしっかりとアーツを握り、構えるレーゼ。


「何でこんな時に現れたのかは分からないけど……何とか隙を見て逃げるわよ! 四人でどうにか出来る相手じゃ無いわ……!」


 無理矢理に出した大きな声。


 レーゼの言葉に、他の三人も青い顔をしながら頷くのであった。

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