表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
109/669

第89話『犀人』

「ふん、待ちくたびれましたわ!」

「うっさいわね」


 午後四時十三分。


 じゅんさい池公園の、公園駐車場にて。


 三十台もの車が止められる、広い駐車場の奥。休日だから、他にも十数台の車が見受けられる。


 雅と優が到着した頃には、既に桔梗院希羅々はいた。


 希羅々の近くには、黒塗りの、いかにも高そうな車がある。


 二人がやって来ると、運転手の男性と会話する希羅々。すると車が発進し、どこかへと去ってしまう。


「あんた、車で来たの?」

「突然の連絡でしたので。急ぎなのでしょう?」

「こっちは歩きで来たっていうのに……途中で拾え」

「黙らっしゃい。親友と散歩出来たのですし、楽しかったでしょうに」

「まぁまぁ二人とも。それより、今日は突然だったのにありがとうございます、希羅々ちゃん」

「希羅々ちゃん言うな! ですわ!」

「あ、あはははは……」


 会って数秒でこのやりとり。


 何となく、先が思いやられる雅である。


「大体の事情は真衣華から聞いています。大事な鏡が見つかったとか」


 先程車をどこかへやったのは、ここが戦場になると知っていたが故のようだ。


「はい。詳しく話をするとですね――」


 改めて、ここまでの状況を説明する雅。以前、レーゼと愛理から色々聞いていたため、希羅々の理解もスムーズだ。


 五分後。雅が説明を終えると、希羅々は眉間に皺を寄せて唸る。


 希羅々も、今回の一件に違和感を覚えたのだ。


「まぁ一旦、見つかったレイパーを撃破しようってことになったのよ。こっちも放っては置けないしね」

「……それもそうですわね。仮に罠だとしても、レイパーを倒さなくて良い理由にはなりませんし。――あら?」


 会話をする三人の頭上に、影が差す。


 何気なく空を仰いだ希羅々は、息を呑んだ。


「っ! いましたわ!」


 頭上にいたのは、目撃されたというレイパー。


 背中から赤黒い翼の生えた、人型のレイパー。歪な形状になっているが、顔は鷹であることが分かる。


 そしてその手には、雅達が盗まれた、二枚の鏡が握られていた。


「早速お出ましか!」


 優がそう叫ぶと、三人の右手の薬指に嵌った指輪が光り輝く。


 出現するは、彼女達のアーツ。


 剣銃両用型の『百花繚乱』。


 弓型の『霞』。


 そして希羅々が持つのは、レイピア型の『シュヴァリカ・フルーレ』だ。


 優が霞の弦を引くと、白い矢型のエネルギー弾が装填される。


 レイパーに狙いを定める優。その時だ。


 突如、雅の脳裏にモノクロのイメージが浮かび上がる。自身の『共感(シンパシー)』のスキルにより、ノルン・アプリカッツァの『未来視』が発動したのだ。



 全く別の方向から、角の生えた化け物が自分達に襲いかかってくる、そんなイメージである。



「二人とも危ない!」

「何ですのっ?」


 突然明後日の方向に動き出した雅に、困惑の声を上げる希羅々。優も一瞬、雅の意図が分からず硬直する。


 だが直後、化け物が、停まっている車を破壊しながら現れたのを見て、彼女の行動の理由を知った。


 そして同時に、絶句する。


 現れたのは、全身灰色の人型のレイパーで、頭部は激しく歪んでいるが、頭からは一本の角が生えていた。大きく肥大した両腕の皮膚は、見るからに頑丈そうだ。胴体は長いが短足であり、それが却って不気味に見える。


 雰囲気はサイのようなレイパーだ。


 突然現れたその化け物の突進を、雅はレーゼのスキル『衣服強化』を発動させ、さらに百花繚乱を盾にして受け止めようとする――が。


「きゃあっ!」

「みーちゃんっ? この……っ!」


 雅は、いとも簡単に撥ね飛ばされてしまった。


 慌てて、矢型エネルギー弾の先端を、サイのようなレイパーへと向け、放つ優。


 揺らめきながら真っ直ぐ飛んで行ったエネルギー弾はレイパーの腹部に命中するが、まるで効いた様子が無い。


「ちっ!」

「相模原さん! あっち! 逃げますわよ!」

「っ! しま――」


 サイのようなレイパーをアーツで斬りつける希羅々は優へと叫ぶ。


 優は襲撃してきたレイパーに気を取られていたせいで、空中の鷹のようなレイパーから目を離してしまっていた。


 既に、三人から遠く離れてしまった鷹のようなレイパー。


 何とか狙撃しようと標的をそちらに変え、二、三発矢型のエネルギー弾を放つも当たらず。


「……ぐっ!」

「さがみん!」


 雅が、警告の声を上げる。


 サイのようなレイパーが希羅々を吹っ飛ばし、優へと突進していたのだ。


 咄嗟に雅が百花繚乱をライフルモードにし、桃色のエネルギー弾をレイパー目掛けて放ち、同時に『共感(シンパシー)』のスキルで優の『死角強打』を発動させる。


 相手が視認していない攻撃の威力を上げるこのスキルにより、レイパーに命中したエネルギー弾は通常よりも大きな爆発音を立て、敵を吹っ飛ばす。


「二人とも! 下がりなさい!」


 そこに轟く、希羅々の鋭い声。


 同時に、空中に巨大なレイピアが出現し、レイパーへと突っ込んでいく。


 希羅々のスキル『グラシューク・エクラ』によって召喚されたものだ。


 彼女の最大の一撃が襲いかかってきて、一瞬体を強張らせるレイパー。


 しかし、すぐに姿勢を低くし、向かってくる巨大レイピアへと角を向けて突進していった。


 激突する、巨大レイピアのポイントと、レイパーの角。


 両者の力は全くの互角。


 否、僅かにレイピアの方が押されていて、三人は目を疑う。


 そしてついに、レイパーのパワーに巨大レイピアが負け、滑るようにレイピアの軌道が逸れた。


 レイパーの後方の地面を抉りながら突き刺さり、消滅するレイピア。


 まさかの出来事に呆気に取られる希羅々。


 そのままサイのようなレイパーは、彼女へと角を向けて突進するのだった。

評価や感想、ブックマーク等よろしくお願い致します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ