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第86話『男性』

「た……倒した……?」


 レイパーを倒した後に立ち上る、バチパチと音を鳴らす炎を見つめながら、真衣華は肩で息をする。


 随分と派手に爆発したからか、未だ炎は消えず。


 夏の暑い日に、炎から伝わる熱気は体に毒だ。


 しかし、雅は別の理由で顔を顰めていた。


「何とか倒せましたけど、結局鏡は取り返せませんでした……」


 そもそもこのレイパーは、今日は最初から鏡を持っていなかった。


 どこかに隠しているのか、別のレイパーに渡したのか、無くしてしまったのか……真実は不明だ。ここから鏡の行方を追うのは相当に困難なのは、雅にも容易に予想がついた。


「まぁまぁ。命があるだけ良かったって思わなきゃ。そうだ、警察に連絡しないと」

「おっと、忘れていました。ありがとう、真衣華ちゃん――って、あれ?」


 雅が空中で人差し指をスライドさせ、ウィンドウを出現させるが、そこで首を傾げる。


 雅のULフォンも、通信機能が使えなくなっていたのだ。


「私のも、壊れてしまったんでしょうか? あ、でも他の機能は使えますね……」

「えー? そんなことある?」


 真衣華のULフォンに続き、雅のULフォンも……というのは、流石におかしいと感じる真衣華。雅のULフォンも、真衣華と同様、外傷は無い。


 これは一体どういうことか……と思った、その時だ。


 何かが動く気配がした。


 それに気がついた二人が視線を向けた先は、レイパーが爆発した場所。炎はだんだんと収まっているが、その奥に、何かがいた。


 アーツを構える、雅と真衣華。


 もしや先程のキリギリス顔のレイパーが、まだ生きているのでは――と不安になるが、そこにいたのは全く予想だにしていない存在で、二人は目を大きく見開く。



 人間の、男だ。



 年は三十代半ばくらいといったところ。細身の体型に、黒いシャツとベージュの短パン姿の、ごく普通の男性。しかし、全身ボロボロだ。


 そんな彼が、うつ伏せで、顔だけ二人に向けている。頭から血を流し、ひどい有様になっていた。


 もしかして、先程レイパーを倒した時の爆発に巻き込まれてしまったのでは、と肝を冷やした二人だが、男はよろよろと立ち上がると、口に溜まっていた血を地面に吐き捨て、雅達に背中を向けて走り出してしまう。


「ちょ――っ?」

「っ! 雅ちゃん! これ!」


 雅は逃げ出した男性を追いかけるが、真衣華は途中で彼女を引き止める。


 真衣華は、先程男が倒れていた場所に、小さな黒い箱のような物が落ちていることに気がついたのだ。


 拾ってみれば、思いもかけない物だった。


「これ……通信遮断機だ……! あの人、なんでこんな物を?」

「つ、通信遮断機?」

「うん。知識として知っているだけで、実物を見たのは初めてなんだけど……。私達のULフォンの通信機能が使えなかったのは、これのせいだね。壊れてなんか無かったんだ!」


 真衣華は通信遮断機のスイッチを切ると、人差し指をスライドさせてウィンドウを出現させ、「やっぱり……」と呟いた。


「通信機能が復活してる。これで警察が呼べるよ! 希羅々にも連絡しなきゃ!」

「警察には、私が話をしておきますね」



 そして、数分後。


 連絡作業も一段落し、ホッと一息吐いたところで、真衣華は改めて首を傾ける。


「あの人、何だったんだろう?」

「キリギリスの顔をしたレイパーが爆発したところにいましたよね? まさかとは思いますけど……」

「……いやいや、そんな馬鹿な」


 否定する真衣華の言葉には、力が無い。彼女も、薄々感づいていた。



 キリギリス顔の化け物はレイパーでは無く、あの男が姿を変えたものではないか、と。



「女性を襲う怪物なんて、レイパーだけで充分だって……。襲う理由、ないじゃん」

「……ごめんなさい。私、変なこと言っちゃいました」

「あ、いや。別に責めているわけじゃ――あぁもう、やめやめ! あの男性のことは、一旦忘れよう!」


 二人の間に流れる空気が重くなってきて、それを吹き飛ばすように真衣華は大きく手を叩く。


「そんなことよりさ、さっきのあれ! 私と雅ちゃんのアーツ、合体したじゃん! 何か凄くなかったっ?」

「ふふ、そうですね。まるで生き物のように動き回って……私も初めて見ました!」

「百花繚乱に合体機能があるのは知っていたんだけど……私てっきり、もっと大きな武器になるのかなって思ってたんだよね! 斧槍とか、大斧みたいな感じ! でも全然違っててさー! もうビックリ!」


 興奮気味に話す真衣華は、先程までレイパーと戦っていたとは思えないくらい快活だ。


 雅も、自然と笑みが零れてしまう。


 すると、雅はふと気が付く。


「真衣華ちゃん、アーツをとても大事にしているから……合体したアーツに意思が宿ったみたいな感じになったんでしょうね」


 もし真衣華が他の人達と同レベルの扱い方をしていれば、彼女の言う通り、斧槍や大斧になったのだろう。特殊な挙動をしたのは、それだけ真衣華がアーツを大事にしていたからに違いない。


「異世界にいた時、『焔払い』っていう短剣型のアーツがありました。元々はバスターが所持していたものなんですけど、レイパーに殺されちゃって、アーツを持っていかれてしまったんですよね」

「異世界……。前に話をしてくれた、レーゼさんの世界のことだよね。まだすんなり呑み込めていないんだけど……。バスターって、大和撫子みたいな人達のことだっけ?」


 雅は頷くと、セントラベルグでの事件の話をする。インプ種レイパーと、セラフィ達の一件だ。


「子供達にはアーツがスキルを与えていて、私、思ったんです。もしかしてアーツが、殺された本当の持ち主の敵討ちをして欲しくて、子供達にスキルを与えたんじゃないかって」

「ふーん」

「アーツって、使い手を認めてスキルを与えたり、敵討ちを願ったり、今日みたいに自由に飛び回ったり……まるで、生きているみたいですよね? 真衣華ちゃんがアーツを大事にすれば、きっとアーツも嬉しくなって、たくさん力を貸してくれると思います」

「…………」

「だから『馬鹿だ』なんて思うこと、無いですよ。物を大切にすることって、私とても素敵なことだって思いますもん」


 そう言って、雅はグッとサムズアップをしてみせる。


「……フォートラクス・ヴァーミリアが何で私にスキルを与えてくれたのか、分からないんだ。一度アーツを壊しちゃった私のことを、どうして認めてくれたんだろうって。これからもアーツを大事に使っていれば、分かる日が来るかな?」

「うーん……分かりません。でも、来ると良いですね」

「真衣華―っ!」


 二人がそんな話をしていたら、遠くから誰かが真衣華の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。


 そちらに顔を向ければ、そこにいたのは希羅々。後ろにはレーゼと愛理もいる。


「位置情報が消えたから心配になって来てみれば……随分とボロボロではありませんのっ? 何がありましたのっ?」

「ちょっとちょっと希羅々! 落ち着いてって!」


 血相を変えて真衣華の肩を掴み、前後に激しく揺らす希羅々に、真衣華は目を白黒させる。


「ミヤビ! 良かった……無事だったのね!」

「レーゼさん! 愛理ちゃん! ――そうだ! そっちに、男の人が走っていきませんでしたかっ?」

「あ、ああ。何だか随分酷い格好で、声を掛けたんだが……無視されてしまった。彼がどうかしたのか?」

「私もよく分からないんですけど……取り合えず、さがみんや優香さん達も交えて、話をしましょう」


 キリギリス顔の怪物と思わしき謎の男と、鏡の話。


 どちらも雅だけでは分からないことだらけだ。


 それに、三人もあちこち怪我をしており、どうやら激しく戦った様子。何があったのか聞きたいのは、雅達も同様だ。


 遠くから聞こえてくる、サイレン。


 駆けつけた警察の人に軽く事情を説明した後、一行は新潟県警察本部へと向かうのであった。

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