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男は肯定も否定もしなかったが、その代わりに剣を持ち上げ、憎悪に満ちた翡翠の瞳でわたしを見下ろした。


この人だ。

何も言わなくてもこの人があの人を殺したんだ。

そう明瞭に語る瞳は暗くどこまでも濁っている。


日本ではあまり見ない形の剣だった。例えるならば古い映画に出てくるような、物語で王子様や騎士なんかが持っているような。

刀とはちがうけれど、よくキレそうだとかバカみたいな感想を浮かべてそれどころでは無いと硬直する。


恐怖にガタガタと震える両足でどうにか踏みとどまり無様に壁にへばりついたわたしは意を決して口を開いた。



「ど、どうして」

「そんな事貴方が一番良くご存知なはずです」

「何があったんですか」

「貴方の胸に問いかけてみてください。そして願わくばあの世で自分の行いを悔いて欲しい」

「なにが、なんだか……」

「……はぁ、もういいです」



男は心底呆れたようにそう呟いて「今度こそ死んでもらいます」と言った。

今度こそ、死んでもらいますーー??



じょ、冗談じゃない!!




「だ、だから!人違いなんですって! わたしは鈴木仁奈! 多分享年18歳! 〇〇県〇〇市生まれの日本人! 両親はいないけどばあちゃんと二人暮し! 高校は行ってないフリーターです! あの人とはまっったくの、別人ですから!」



今度こそも何も。わたしは多分日本で死んだのだ。確実に死んだのだと思う。

これが夢ならば最低な夢だし、これが死後の世界なのであれば神様は相当に趣味が悪い。


誰かお願いだからこの状況を説明してくれないかな。どうしてわたしがこんな目にあっているのか、あの死んだわたしと同じ顔の“聖女様”は何者で、彼は何者で、どうしてわたしがまた死ななければいけないのか。



勢い余ってまくし立てるように怒鳴ったわたしに男は顔色ひとつ変えなかったが、振りかぶっていた腕を止め、わたしの顔をじっと見つめてきた。

何を考えているのかまったく分からない無表情に怯みそうになるけど、どうにかそれを睨み返してふん、と鼻を鳴らす。

もう、訳が分からないし黙ってても殺されるのならば、言いたいことは言うべきだ。


日本で死んだ時もそうすれば良かった。どうせ死ぬのであればあのおじさんの股間でも蹴ってやればよかった。



「……なんの呪文だ」

「はあ? 呪文じゃありません! 自己紹介です」

「じこ、しょうかい」

「名前です! 鈴木仁奈! 貴方は誰ですか、それからあの人も誰なんですか! どうしてわたしが巻き込まれなきゃならないんですか」

「…………まさか聖女様でないと言うのか?」

「だからそう言ってます! あの人とは関係ありません! 顔は一緒ですけどわたしは“聖女様”なんかじゃないんです!」


男は無表情だった顔をわずかに青くして、よろよろと後ずさる。

その拍子に下ろされた腕が掴んだままの剣が、ガリガリと高そうな絨毯を引き裂いてわたしは心の中で悲鳴をあげた。


そりゃそうだろうけど、本当に本当に本物の剣だ。

平和な日本じゃあのサイズの刃物にお目にかかる機会はめっったに無い。

あのまま震えていたら今頃引き裂かれていたのはわたしの首か腹か胸か、とにかくわたしだっただろう。



「信じられん。では、俺は……」



真っ青な顔の男が剣を持つのと逆の手で顔を覆う。隙間から見える翡翠の瞳が忙しなくうろうろ動くのをわたしは唖然と見ていた。



この男は恐らくあの“聖女様”を殺した犯人のはず。だから多分悪い人なんだけどあまりの動揺っぷりに少し可哀想になる。

そりゃあ、普通自分が殺した相手と同じ顔の人間が現れたら動揺するに決まっている。


なんとなく「あの、」と声をかけた所で男はハッと肩を震わせ、それからまた憎悪に満ちた瞳でこちらを睨みつけてきた。



「ひっ!」

「貴様の話を信用した訳では無い。……がしかし聖女様と何もかもが違うのも事実だ。なにかおかしな魔術の可能性もある。この部屋から絶対に外に出るな、出たら貴様は内臓からどろどろに溶けることになる」

「と、とけっ!?」

「分かったな」



男は剣先をわたしの眼前に向け淡々と言い放った。

なんかとんでもなくやばいことを言われた気がするが、とにかくわたしは壊れた人形のように首を縦にぶんぶんと振った。


男はそれを見てから剣を下げるとさっさと踵を返して部屋を出ていったのだった。




「……な、なんなんだ、本当に」





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