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泉に通い続けてはや三日。

未だルートリヒさんは綺麗な笑顔でばんばん嫌味を繰り出すけれどその鋭さと威力は徐々に弱まっているような気がしなくもない。


まあ、ただわたしが慣れてきたっていう線が濃厚だけど……。



彼もなんだかんだと言って迎えに来てくれるし、「三年前のあれはなんだったんですか」「男漁りのしすぎて魔力無くしたんですか」「もしかして俺に会いに来る口実ですか」とか何とかいいつつ、汗だくで祈っている間だけはその良く回る口も閉じていてくれるのだ。


おかげで、泉は随分と大きくなった。まだまだ枯れかれのオアシス感は否めないが、もうパッと見で水溜まりだとは思わないくらいには。



……というかルートリヒさんの中で聖女様ってどんな人だったんだろう。俺に会いに来る口実云々については自意識過剰を疑うし、自分でそんなことが言えちゃう辺り彼の自己評価の高さにちょっと引く。日本人として。


まあ確かに、どうやら聖女様は本当に男好き、というかイケメンに目がなかったらしいけど(ヤバい目をしながらアイザックさんが言ってた)、自分がそう思われていると思うと心底げんなりする。

という訳で、自分からはあんまり男性陣には近づきたくないのだけど、自室と泉の行ったり来たりしかしていないわたしの知ってる人間といえば、王子と無表情男と嫌味魔術師と、それからわたしの侍女らしいエマだけだ。



エマは入浴の手伝いから(全力でお断りした)食事の準備、着替えまで全てをやってくれている。

わたしより歳下のようにも見えるのに物凄く偉いと思う。

依然としてわたしへの異常な怯えっぷりは健在だけど、まあ……初日よりは、少しは良くなったような気がする……。

というか、そうであって欲しい。


少しずつ会話をしてくれるようになったし、殴らないで切らないで! みたいなことは言わなくなった。


……いや本当に何をしてたの聖女様。


ものすごく気にはなるけど、本人に聞くのはちょっとアレすぎて未だにその辺は謎である。


近々、アイザックさんにでも聞いてみるか。




「聖女様、お食事をお持ち致しました」


「はい、どうぞ」


噂をすればなんとやら。エマのやはり若干震えの混ざる声に返事をして扉の方を見る。


「失礼致します」


ガラガラとワゴンを押してやってきた華奢な彼女に微笑むと、エマはびくりと背を伸ばしそれから僅かに目をふせた。


なんか、こう怯えられてるのはどうにも居心地が悪い。怯えられることなんて今までの人生でなかったからどうしていいのか分からなくてとりあえず積極的に話しかけてみたり笑顔でいることを心がけてるんだけど、上手くいっているのかは謎だ。


無言でてきぱきとテーブルに食事を並べ、お茶を入れる彼女をぼんやりと見つめながら、やっぱりこう、所作というかそういうのが綺麗だよなーと感心する。


日本の一般家庭で育った庶民のわたしからすればこの世界はいろいろと難しいことが多いのだけど、食事とか所作とかは本当に大変だ。


まず当然ながら箸がないのが難しいし、お茶の飲み方も食事のマナーもいまいちよく分からない。いつも自室で一人で食事するから尚更だ。


服はドレスみたいなのしかないし、エマみたいに上品に歩けている気がしない。

実際アイザックさんは何か言いたげにこっちを見つめてくること多数だ。



やはり、エマは貴族とかそういうのなのだろうか? それともこの世界では当然のように身について然るべきことなのだろうか。


だとしたらヤバい。



「あのさ」


「は、はい!」


「エマは、その、貴族とかの家の子なの?」


突然口を開いたわたしにエマが一瞬飛び上がりかけたが、それでも準備をする手は粗相をすることなく、ぎこちない動作で愛らしい顔がこちらを向く。


ちなみにさん付けは、顔面蒼白で却下され、敬語を使ったらうるうるの瞳で怯えられたので速攻止めた。


本当にどんなやつだったんだ、聖女様……。



「……そんな大層な身分ではありませんが一応は子爵家の生まれです」



ちらちらと伺うように向けられる視線に首を傾げて、そっか、と呟く。

聞いてみたはいいけど子爵ってどのくらいのあれなんだっけ。

貴族は貴族ってことなんだよね、やっぱり。



「だから、所作が綺麗なのかな」


「え?」



ぽつり、と零した言葉にエマが茶色の丸い瞳を見開いている。

あ、しまった口に出てしまったらしい。


彼女が心底驚いた顔でこちらを見ていて、内心どう誤魔化そうかと慌てた。

まずい、聖女様として言ってはいけない系の言葉だったのだろうか。

こんなの知れたらまたアイザックさんにすごい顔される……。こわ。



なにか言い訳を探して、見つからなくて(だって聖女様のことあんまり知らないし)、伝家の宝刀、何でもない、を繰り出そうとしたところで、先に口を開いたのはエマの方だった。



「い、いえ、私など! 聖女様の方が幾分も美しいです」



いや、そんなわけない。


口に出なかったのは奇跡だろう。エマは青い顔で思い切ったようにそう言い放つとさっさと残りの仕事を済ませて逃げるように出ていってしまった。

というか多分本当に逃げてしまった。



「……気を使われてしまった」



ナイフとフォークでガチャガチャ悪戦苦闘しながら食事するわたしの所作が綺麗なわけもないし、ジーパン慣れしているわたしが美しくしとしと歩けているわけもないのに。




少しずつこの偽聖女様生活にも慣れてきたような気がしなくもないけど、やっぱり圧倒的に情報が少ない。



ちゃんと、勉強しよう。


そう決意してとりあえず、今日も無駄に豪華な食事に手をつけることにした。


腹が減ってはどうのこうのと言うし、実際お腹空きすぎてやばいし。

いかんせんあの泉で祈るあれは相当に体力を使うのだ。魔力が注げているのかそうでないのか、いまいち自覚はないし、祈っているだけなのに本当に謎だ。






いつもありがとうございます!

ノロノロ展開ですがお付き合いいただけると嬉しいです。

よろしくお願い致します。

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