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「え、泉って……これ」
泉と聞いてわたしが想像していたのは、湖よりは大きくないけれどそこそこの大きさの池みたいなものだったのだけど、ルートリヒさんに連れられて来たそこにあったのは、予想外すぎるものだった。
「泉ですよ。まだ」
素晴らしい笑顔でそう言われたが声にはどこか刺がある気がする。
わたしは目の前の“泉”を見下ろして、ひくり、と顔をひきつらせた。
「水溜まりじゃん……」
泉とは程遠い、多分直径30センチくらいの水溜まり。しかも恐らく浅い。
なにやら周りに張り巡らされたジャラジャラのもの達は“聖女の泉”らしさを演出してはいるがどう見てもこれは水溜まりだった。
「ははは、なんですかそれ、喧嘩売ってます? 貴方の“泉”ですよ」
「……い、いえ」
ルートリヒさんは腕を組み笑顔を絶やさないまま、全然笑ってない笑い声をあげるという奇妙な技を披露した。
この人本当に怖いな。
どうやら聖女の泉を管理しているのは魔術師らしく、アイザックさんは入れないとかなんとかで扉の外に待機している。
ということで、この恐ろしい笑顔を張りつけた魔術師と二人きりなのだけど……。
「これでも俺達魔術師が毎日毎日、保護と保全の魔術をかけ続けた結果なんですよー。それを水溜まりって……どの口が言うんだか」
「え、っと……その、魔術をかけなかったらどうなるのかなー、……なんて」
「あ、あはは、」
言いきれたのは奇跡に近い。
言葉の途中で笑顔だったルートリヒさんの瞳が開き中からグレイの冷めた目が一瞬覗いた気がする。こわ。
あははー、と引きつった笑みを浮かべながら微妙に視線を逸らしてしばらく、隣からようやく声が聞こえた。
「本気で言ってます?」
「……あの、はい……」
いつもの笑顔に戻ったはいいが、中性的とは言い難いひくーい声で問われ、視線をウロウロさせながらなんとか頷く。
彼は頭を抱えて盛大なため息をついた。
「馬鹿だ馬鹿だと思ってはいましたけど、これほどまでとは。あ、罰するならどーぞ、どうせこの国は近々終わるのでしょうし、俺みたいに魔術師なんかはもう終わったも同然なんで」
「ば、罰したりしないですよ」
「はいはい、そうですかー。その気持ちの悪い話し方も泉に訪れる貴方の気まぐれも、何を企んでるのか分かりませんけど」
肩を竦め、両手を広げるルートリヒさんの話がいまいち分からない。
この国が終わる、だとか、魔術師はもう終わってる、だとか……。
というか聖女についてが未だに不明だし。
「まあ、良いでしょう。聖女様、貴方が知っていようと知るまいと、この泉が枯れれば今このフェインズリードを守護している力は尽きます。国に流れる潤沢な魔力は尽き、魔術師はただの役立たずとなり、魔力のおかげで豊富だった魔石は一切採掘が出来なくなります。魔石のやり取りが貿易の主である我が国は経済的にも破滅の一途でしょうし、そもそも、守護がなくなり魔術に見放された小国など良い餌です。大国ベルニスやら北のリューシェンに侵略されることでしょう」
「……は、ぃ?」
「貴方が“何もしなかった”のはそういう事です。泉に魔力を注がず、枯れる手前までにし、役儀も果たさず贅沢三昧。聖女様が聞いて呆れますねー。どうせ周りを魅了するのに一生懸命だったのでしょうけど」
「ほ、本当に?」
「ええ、本当ですよ。これは貴方がこの三年間何もしなかった結果です。
全く、俺に言わせれば殿下がどうしてこんなのに魅了されてしまったのか不思議でならないのだけど」
にこり、笑顔を向けて首を傾げたルートリヒさんに背筋が凍りそうなほどぞくりとした。
この人、こんな顔でこんな口調でさらさら話してはいるけれど内に秘めた聖女様への憎悪は多分アイザックさんと変わらない、かもっと上なのかも……。
嫌われる、とはこういう事か……。
彼にとってわたしは間違いなく聖女様で、聖女様でしかなくて。
つまりわたしはこの国を壊そうとしている張本人だと言うわけだ。
……なぜ、なぜ、聖女様は今まで何もしなかったのだろう。
こんなに大事なのであれば周りもうるさかったに違いないのに、どうして……。
拳を固く握り、震えそうな唇を噛んで、わたしは顔を上げた。
「その、魔力を注ぐっていうの、わたしにできるでしょうか」
いつもありがとうございます!
ちょっと説明回……。
タイトルがしっくりこなくて何度も変更して申し訳ないです。お許しください……。
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