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「ニーナ! もう大丈夫なのかい?」



飛び込んできた金髪と空色の瞳にわたしはドン引きした。

顔というかもう、体全体で「心配ダヨ」みたいなのが溢れているのは先程のザ・王子だ。


王子様ルックスは両手を広げながら近づいてくるのがデフォルトなのか、彼は美麗な眉をこれでもかと下げて、ベッドの横のカウチに腰掛ける。

それからわたしの手をとると両手で握りしめてこう囁いた。


「君がいなければ私は生きていけないだろう。君が倒れた時、私の心臓はまるで握りつぶされたようだった……」


うわ、と声が漏れなかったのは奇跡に近い。


こんなことこんな顔でこんな感じで言う人間って本当にいるんだー、と白けた心で淡々と思った。砂を吐きそうってこういう時のことを言うんだな。


キザというか、なんというか。

外国というかこの世界では普通なのだろうか? 日本人の感覚がシャイすぎるのだろうか。まあどちらにせよあまり受け入れられるものでは無いな。



ぎぎぎ、と擬音がつきそうなくらいにぎこちなく王子の後ろに佇むアイザックさんに顔を向けたが、彼は無言で無表情で少しだけ顎を上げた。


……いや、どういう意味だ。助けて欲しいんですけど。

というか“聖女様”のフリをしろって言った割に予備知識がゼロだ。

なんにもない。この王子との関係も分からないし聖女様の性格も分からない。

こういう時どういう反応をするのが正解なのかさっぱりだ。



ダラダラと冷や汗をかくわたしを他所に王子はやたらとお綺麗な顔を悲痛そうに歪める。空色の瞳はうるうると潤んでさえいそうである。

……ちょ、ちょっとやめてよ。



この状況をどうにかしようと思った結果、わたしは日本人らしくへらりと愛想笑いを浮かべることにした。というかそれ以外に思い浮かばなかったのだが。


しかし、どうやらわたしの渾身の愛想笑いは失敗したらしい。口端がひきつっているのが自分でもわかる。そもそも、そういうのが得意な人間でもなかったし。


だからアイザックさんに眉を寄せられる覚えも、そんな眼光で睨まれる覚えもないのだ。どう考えても無茶すぎるのだもの。

普通いろいろ口裏合わせるもんじゃないの? アイザックさんだって“聖女様”を殺したことがバレたらやばいんじゃないの?



「ああ、まだ体が辛いのだろう? 私に心配をかけまいと無理しなくても良いのだよ」



なんてことだ。どうにかなった。


この王子割とちょろいのでは無いだろうか。それともそれほどまでに“聖女様”と深い仲だったのか。

いや、そうだとしたら別人だって気がつくべきだと思うけどね。



まあ、とにかくチャンスだと思ったわたしは悲しげな笑みを(自分的には)浮かべて俯いた。


ちらりと覗き見たアイザックさんは相変わらずの無表情だったので問題ないだろう。



「医師の見立てでは精神的な疲れから来るものらしい。あの珍妙な衣服は一応とってあるけど……」



そう言われて、バッと布団の中を見る。そういえばやけに着心地がいいと思っていたが確かに服が白のレースとフリルがぶわぶわのゆったりしたものに替えられていた。


……まさか、この男が着替えさせたのか、と思い切り顔を上げる。



「え? ……いや! もちろん服は侍女が替えたんだ! 紳士たるもの淑女の着替えを覗いたりしない! 本当だよ!」


思いっきり怪訝な顔をしていたのだろう。王子は顔を赤くして両手と首を振り必死な言い訳をした。


その後ろでアイザックさんはわたしを睨みつけていたが無視することにしよう。


というか、この王子キザな割に意外とウブというかピュアというか……何歳くらいなのだろうか。わたしよりかなり歳上に見えるけど外人さんは歳がわかりにくいしな……。


とりあえず未だに言い訳を続ける赤面王子に頷いて、「分かった分かった」と伝えてみるが幸い彼は正しく解釈してくれたようでホッと息をついた。



「ま、まあ、とにかく。確かに教会が煩いとはいえ、君に無理を言いすぎたよ。私が悪かった。役儀はまだ急がなくてもいいさ。君の体が一番大切だからね」

「や、くぎ……」

「うん、今はその事はいい。ゆっくり休んで早く元気ないつものニーナに戻ってくれ」



まだ幾らか赤みの残る穏やかな表情と優しい声音。アイザックさんとは大違いの優しい手つきで彼はわたしの前髪を軽く梳き、それから立ち上がった。


「私は執務に戻るけれど、何かあればアイザックに言うんだよ。……アイザック、ニーナのこと頼んだぞ」

「承知致しました」



アイザックさんが既に伸びている背筋を更に伸ばし、無表情のままそう言って胸に手を当てる。

王子はそれを見届けてからもう一度こちらに溶ける様なあっまーい笑みを浮かべて部屋を出ていった。



なんというか、嵐のような人だった……。愛的なものがもう溢れに溢れて……。



大きなため息をついてほっとしたのも束の間、そういえばまたこの無表情男と二人っきりではないか……。



ちらりと視線を向けると彼はやはり無表情で、しかし何か言いたげに鋭い眼差しを向けていて、再びじわりと嫌な汗が滲んだのだった。






いつもありがとうございます!

また明日更新予定です。よろしくお願い致します。

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