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悪党とバカと不思議な黒猫  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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22/33

誠、寅美がデレて困惑する

 朝の工場にて、始業直後に誠は呼び出された。

 そして今、寅美の机の前で立たされていた。まあ、この工場ではよくある光景ではあるが、朝からというのは珍しい。


「小林誠……なぜマリアに、あんなことを言ったのだ? 説明しろ」


 寅美の声は静かなものであった。だが、逆に秘めた怒りを感じさせる。


「えっ? 何のことですか?」


「とぼける気かぁ! お前はマリアに、私が……」


 そこで、寅美は言葉に詰まった。周りを見回すと、小声で続ける。  


「その、れ、恋愛のプロだとか言ったそうだな」


「恋愛のプロだなんて言ってないですよ。ただ、班長は恋愛マスターだって言ったんです」


 すました顔で答える誠に、寅美はまたしても怒鳴りつける。


「ふざけるなぁ! 私がぁ……」


 またしても言葉に詰まった寅美は、小声で続ける。


「恋愛マスターなわけなかろうが。バカなことを吹き込むな」


「いやぁ、そうですかぁ? だって、班長みたいな女性が好きだって男は、少なからずいると思います」


 こんなことを言われ、寅美の頬は僅かに紅潮した。


「か、からかっているんだろうが! バカ言うな!」


「いやいやいや、何をおっしゃいますやら。だいたいですね、班長みたいな頼もしい女性に守ってもらいたい男はいっぱいいますよ。間違いありません。俺が保証します」


 自信たっぷりな表情で言ってのけた誠に、寅美はなぜかうつむきながら返していく。


「お、お前は……また、そうやって人をからかっているのだろう」


「からかってなんかいませんよ。だいたい、班長はちょっと真面目すぎるとこと大声を何とかすれば、確実にモテます。けっこう部下思いだし、なんやかんやで人望はありますからね……って、どしたんすか?」


 言いながら、誠は寅美の顔を覗きこむ。今や、彼女は耳まで真っ赤になっていたのだ。

 誠は困惑した。なぜ赤くなっているのだろうか。ひょっとして風邪でもひいているのか。あるいはインフルエンザか。いや、寅美がそんな病気ごときでまいるはずがない。

 となると、もっとヤバい病気か……などと考えていると、寅美が怒鳴りつける。


「な、何でもない! とにかく、マリアの相談にはお前が乗るんだ! わかったか!」


「いやあ、恋愛相談は俺も苦手ですよ。だいたい、俺の人生は生まれてこのかた女性にモテたことないですから」


「嘘をつくな。どうせ、学生の頃は女と遊び歩いていたのだろうが」


「いえいえ、俺は中学高校と彼女いなかったですよ。もちろん今もです」


「ほ、本当か?」


 寅美の表情が、またしても変化した。が、誠はそれに気づかず話していく。


「ええ。中学の時は、京極ってあだ名の教師にイタズラするのに夢中でしたからね。その京極ですが、ひどい奴なんですよ。男の生徒は殴るは、女の生徒にはセクハラするは……一度なんか、間違えたふりして女の子が着替えてるところに入っていったこともあったくらいですよ。だからギャフンと言わせてやるため、毎日イタズラしてました」


 言っていた時、誠の頭にかつての思い出が蘇る。

 京極は古文の教師だが、本当にひどい奴だった。年齢は三十代くらいで、常に相手を見下したスカした態度で授業をする。もったいぶった物言いで、結論をスパッと言わない。

 そのくせ、何かあるとすぐに殴る。女生徒に対しては、平気で「胸が大きくなってきたな」などと言うのだ。今どきの教師にしてはあり得ない態度だが、文句も言われず教師を続けていた。顔がイケメンだったせいだろうか。

 誠は、この男が許せなかった。全ての教室の黒板に「京極のアホ」と書いたり、猫の喧嘩の鳴き声を録音して授業中に流したりと、密かに戦いを挑んでいたのだ。

 もっとも、度重なる体罰とセクハラが表面化し、京極は一年も経たぬうちにクビになった。

 今にして思えば、あの京極こそが誠を本格的なイタズラ道へと引き込んだ張本人な気がする。とはいえ、二度と合いたくはないが……。


「そ、そうか。で、高校の時は?」


「高校はですね、男子校だったんですよ。周りがもう男ばっかりで……そこではイタズラはしなかったですが、いかにして給食を美味く食べるかとか、いかにして体育の授業で手を抜くかを毎日考えてました。彼女なんか作る暇なかったですよ」


 そこで、誠の頭に再び当時の思い出が蘇る。

 都内の高校の大半は給食がない。が、誠の通っていた高校は、なぜか給食があった。さほど美味くもなかったが、誠はこの給食をいかにして美味しく食べるかに夢中になっていたのだ。

 まずは、家から様々な調味料を持参し、いろいろかけてみる。しかし、それではすまなくなった誠は、さらなる味変に挑む。学校のストーブでご飯を焼いて焼きおにぎりにしたり、パンとチーズをストーブで焼いてチーズトーストにしたりと、様々なチャレンジを試みていたのだ。

 それだけではない。授業中には、変顔で隣の生徒を笑わせたり、体育の百メートル走では、練習していたムーンウォークで走りきったのだ。

 そんなバカなことをしている生徒の成績がいいはずもない。案の定、最低の成績で卒業したが、本人は悔いのない三年間を過ごしたと思っている。


「じゃあ、今はどうなんだ?」


 呆れた表情で尋ねた寅美に、誠は相変わらずすました表情で答える。


「今ですか? 今はですね……とりあえず、ギャルトリオをギャフンと言わせて吠え面かかせて、穴があったら入りたい気分にさせてやることが目標ですね。だから、彼女を作る暇なんかないんですよ。ああ忙しい忙しい」


 そこで、寅美はフゥと溜息を吐いた。


「つまり、お前にとって彼女を作ることよりも、バカをやることの方が優先順位が上なのか?」


「バカとは何ですか。人間はですね、時にはバカになることが必要なんです。だいたいですね、ためになることばかり意識してる人間に、ろくなのはいませんよ。それにですね、何事もためすぎると良くないですから」


 真顔でこんなことを言われ、さすがの寅美も一瞬ではあるが怯んでしまった。

 が、すぐに元の鬼班長に戻る。


「時には、バカになるのもいいだろう。だがなあ、お前は常にバカをやってるだろうが!」


「そ、そうですね。すんません」


 この後、誠はいつものように説教されたのであった。




 やがて昼になり、誠はマリアのところに行った。


「なあマリア、大丈夫か?」


「大丈夫だよ。私、運命を信じることにしたよ。いつかまた、ミスターヒーローと会えること信じるよ」


 答えたマリアの表情は、昨日と比べるとシャキッとしていた。そう、彼女も誠と同タイプである。悩みがあっても、あまり引きずらないのだ。


「そうかそうか。それは偉い。信じる者は救われる。とにかく、運命を信じろ。俺でもない。班長でもない。お前自身でもない。お前が信じる運命を信じろ」


「はあ? 何言ってるよ? わからないよ?」


「わからなくていい。今はわからなくても、いつかわかる日がくる。さて、俺は必殺のプロジェクトBをスタートさせるか」


「プロジェクトB? それ何よ?」


 訝しげな表情のマリアに、誠はニヤリと笑ってみせる。


「これはな、巨大な謎を秘めた計画だ。成功すれば、今度こそ極悪同盟のギャルトリオを完膚なきまでに叩き潰せる」


「ちょっとお! 女の子に暴力は駄目よ!」


 真顔でそんなことを言ってきたマリアに、誠はまたしてもニヤリと笑ってみせる。


「暴力? とんでもない。俺は暴力は嫌いだ。俺流のやり方で、奴らを銀河の果てまで吹っ飛ぶような恐怖を与えてやる」


 そんなことを言っている誠を、マリアは呆れた表情で見ていた。



 



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