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悪党とバカと不思議な黒猫  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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18/33

誠、宿敵と再会する

 午後三時、誠はいつものように大通りを歩いていた。コンビニに行き、好みの駄菓子を買い、意気揚々と帰っていく……はずだった。

 だが、その途中でまたしてもアレに出くわす──


「猫又ちゅわん……」


 立ち止まり、思わず呟く誠。そう、道路の端にいたのは、例の黒猫であった。尻を地面に着け、前足を揃えた姿勢でこちらを見ている。後ろにしなやかに動く二本の尻尾は、別の意思を持つ生き物のようだ。


「ね、猫又ちゅわーん……また会えたね。どったの? どったの?」


 そんなことを言いながら、誠は中腰になり近づいていく。

 黒猫は、二本の尻尾をくねらせながら、誠の顔を見上げている。美しいエメラルドグリーンの瞳は、誠に何かを訴えかけているようにも思えた。


「んー? 猫又ちゅわん、君は俺に何の用なのかな? もしかして、俺の守り神になってくれるのかな?」


 猫なで声を出しつつ、誠はさらに近づいていく。と、黒猫はいきなり動き出した。人混みの中を、すいすい駆けていく。


「猫又ちゅわーん、待ってえ」


 誠は追いかけていくが、黒猫は忽然と姿を消した。

 代わりに、目の前に現れたのは──


「あー、芝刈り機のおじさんじゃん!」


「紙袋のおじさん! また会ったね!」


 そう、誠の宿敵であるギャルトリオである。壁によりかかり、何やら話をしていたようだ。そこに、誠が乱入した形となってしまったのである。

 小ギャルと中ギャルが叫んだ後、大ギャルが不思議そうな顔をする。


「それにしても、よく会うよね。もしかして、あたしたちのことストーカーしてる?」


「んなわけあるか!」


 誠は即座に否定したが、三人は疑わしいという目で見ている。


「えー、どうだか。おじさん、見るからにスケベそうな顔してるし」


「そうそう、変態ぽい顔だ」


「とんでもなくマニアックなプレイしそうだよね」


 こんなことを言われては黙っていられない。誠も負けじと言い返す。


「ざけんな! 誰が変態だ! 俺はマニアックなプレイなんかしねえ! 人の性癖を勝手に決めんな!」


 そこで、ギャルトリオの表情が変わった。


「でもさ、実はあたしたちのこと好きでしょ?」


「本当のこと言っちゃいなよ、好きだって」


「少なくとも、あたしらのこと可愛いとか思ってんのは確かでしょ?」


 ギャルトリオからの思わぬ言葉に、誠は思わず後ずさった。


「えっ? いや、あの、それはだな……」


 その時、小ギャルが叫び出す。


「うわ! おじさん顔が赤くなってる!」


「本当だ! 頬が赤い!」


「変態かと思ってたけど、実は純情なの?」


 残りのふたりも、指をさして笑っていた。からかわれた誠の方は、飛び上がって怒る。


「ふざけんな! お前らをどう思ってるかを教えてやるよ! 敵だ! 俺の宿敵だ!」


 言われたギャルトリオは、無言で顔を見合わせる。

 一瞬遅れて、プッと吹き出した。


「ギャハハ、宿敵だってさ! まあ、あたしらはおじさんのことアホとしか思ってないけどね」


「それも、並のアホじゃないよね」


 小ギャルと中ギャルが言い合い、最後に大ギャルが締める。


「そうそう、あんた大物のアホだよ。一回さ、素人ネタコンテストか何かに出てみれば? 一回戦くらいなら突破できるかもしれないよ」


 言いながら、誠の肩をポンポンと叩く。その上から目線の態度が、誠をさらに怒らせた。


「クッソー、ナメやがって。あー、こいつら泣かしたい。涙が枯れ果てるまで泣かしたい。縛り上げて動けなくして、耳元で一日中歯医者のドリルの音を聞かせてやりてえ……」

 

 途端に、ギャルトリオの顔が歪む。


「うわ、それキツいわ」


「それは、あたしも嫌だわ」


「んなことやられたら、本当に泣くかもしんないね」


 三人はヒソヒソ言っていたが、誠の耳には入っていない。彼は地団駄を踏みながら、さらにとんでもないことを言い出した。


「ちくしょう、ちくしょう……こいつらに大人の怖さを思い知らせてやりてえ。伝説の必殺技オクラホマ・スタンピードで地獄に送ってやりてえ」


 誠のこのセリフに、ギャルたちは顔を見合わせる。


「はあ? オクラホマミキサー?」


「あの、てれれれん、てダンス?」


「あたしたちと、あれ踊りたいの?」


 口々に勝手なことを言うギャルトリオに、誠の怒りは爆発した。ビニール袋を地面に置いたかと思うと、とんでもないことを言い出す。


「いいか、これがオクラホマ・スタンピードだ! よく見とけ!」


 怒鳴った直後、誠は何かを抱え上げるような動きをしてみせた。


「オクラホマ・スタンピードってのはな、まず相手をこうやって抱え上げるんだ!」


 次の瞬間、誠は走り出した。と、すぐに飛び上がる。

 そのまま、地面に落ちていった。うつ伏せの体勢になる。

 が、すぐに起き上がった。


「見たか! こうやって相手を抱え上げ、地面に叩きつける……これが、オクラホマ・スタンピードだ! どうだ、驚いたろう!」


 得意げに叫んだ誠だったが、ギャルトリオの反応は冷ややかであった。


「何? 今のバカ踊りみたいなのがオクラホマ何とか?」


「なんかさ、アホなひとりコント見てるみたいだった」


 小ギャルと中ギャルの容赦ないセリフに続き、大ギャルがトドメを刺す。


「だいたいさあ、あんたガリガリじゃん。腕も細いし。相手を抱え上げようとしたら、腰とか痛めるんじゃないの?」


 こんなことを言われ、誠は怒りのあまり地団駄を踏む。が、そこで休憩時間が残されていないことに気づいた。


「クッソー、バカにしやがって……覚えてやがれ! ブタ! タコ! コブラ!」


 そんな捨てゼリフを吐き、ビニール袋を手に走っていった。

 残されたギャルトリオは、互いに顔を見合わせていたが……それは一瞬であった。すぐにゲラゲラ笑い出す。


「何今の!? しりとり!?」


「本当にバカだね!」


「最後のコブラって何だよ。意味わかんねえよ。けど面白い奴だよ」




 一方、工場に戻った誠はというと、プリプリ怒っていた。まあ、当然であろう。今日もまた、宿敵のギャルトリオにさんざんからかわれてしまったのだから……。


「クッソー、あいつらどうしてくれようか」


 ブツブツ言っていると、異変を察したマリアが話しかけてきた。


「誠、どうしたよ?」


「うむ、俺の前に宿敵が現れてな、俺をさんざんバカにしていったんだよ。だからな、どうにかしてビビらせて泣かせてやりたいんだよ」


「宿敵って、どんな奴よ?」


「悪い奴なんだよ。あれは、たぶん街で悪の限りを尽くしているだろうな」


 答えた誠に、さっそく絡んできたのがソムチャイだ。


「悪い奴? それは許せないだ! 俺のミドルキックを食らわしてやるだ!」


 言いながら、いきなり立ち上がったソムチャイ。構えたかと思うと、ミドルキックを放つ。さらに、肘打ちや膝蹴りのシャドートレーニングを始める。

 そう、このタイ人はかつてムエタイの選手だった。いいところまでいったが引退したのだ。本人いわく「上にいくと、周りはバチクソに強い奴しかいなかっただ! このままだと殺されると思って引退しただ!」とのことだ。それでも、普通の日本人相手なら簡単に勝てる腕前なのである。

 しかし、誠はかぶりを振った。


「いや、それは駄目だ。暴力はいけない。俺流のやり方でいく」


 そう言うと、誠の目がキラーンと光った。


「見てろよ、バカギャルども……いつか、あまりの恐怖にひっくり返ってそっくり返ってブリッジしながら逃げていく羽目になるぜ」


 その時だった。寅美の声が響き渡る。


「こらぁソムチャイ! 何暴れてんだ!」


 途端に、ソムチャイは椅子に座る。一方、寅美の目は誠を捉えていた。


「誠の奴、今日は妙におとなしい。また何か企んでいるな……」






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