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虐げられた公爵令嬢、女嫌い騎士様の愛妻に据えられる~大公の妾にさせられたけれど、前世を思い出したので平気です~  作者: りょうと かえ
1-4 運命の冬

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41.動き出す

 アデス公爵が繋ぎで現れるとは……クリフォードは内心、驚いていた。


 南の諸国との外交で、彼に目立った役割はないはず。


 新しく任命された、ということなのだろうか。


「……不思議に思っているようだな」

「正直に言えば、いささか」


 イリスを通じてアデス公爵のことは知っている。


 もちろんクリフォードは彼に好感を持っていなかった。


(……イリスの境遇も元はと言えば)

 

 アデス公爵が抱えた書類をテーブルの上に置く。その顔には疲労がにじんでいた。


「ケガをしたキャロルの体調がまだ良くならん。そのせいだ」

「…………」


 そろそろ目を覚ましても良い頃合いかと思ったが、まだキャロルは床に伏せっているようだ。


 まぁ、目を覚ましてもクリフォードの所業は表に出ないだろうが。


 神経を弄る魔法は記憶をも狂わせるのだから。


「そのせいだ、そのせいで……俺の手元には……」


 アデス公爵は落ち着きをなくしているようだった。


 どうやらイリスとキャロルを大公に差し出すのが、彼の戦略であったらしい。


 しかし、イリスはもう差し出し終わった。キャロルはあんな状態だ。


(なるほど。用済みということか)


 アデス公爵はいわゆる名ばかりの貴族で、何の才覚もない。


 おべっか以外に取り柄がないことは、クリフォードはおろか王や大公でさえも見抜いているところだ。


「……役割と手柄が必要だと」

「そう! 今のところは……あのダイヤも実は俺が大金を出したんだ。そうすればあの宴に参加し続けられると言われて。しかし、そう何度も何度も……」


 アデス公爵は頭を抱え、絶望した声を出した。


 いい気味だとクリフォードは内心、笑った。


 アデス公爵自体には、政治的に何の価値もない。

 だから――搾取される側に回ってしまったのだ。


(馬鹿な男だ。だが、これは利用できるな)


 聡明なクリフォードはアデス公爵をじっと見つめた。


 ここで突き放すのは簡単だ。

 だが、アデス公爵を利用できれば……かなり大きい。


 クリフォードはそっと優しい声を出した。


「それに宴に出続けるのも、安くはないでしょうね」

「……おお、わかってくれるか」

「ええ、公爵家といえども王の遊興に付き合うのは……」


 これみよがしにクリフォードが首を振る。


 アデス公爵が光明を見いだしたかのような表情を浮かべて、クリフォードの手を取った。


「た、頼む! 協力してくれ。この件で手柄を立てないと、俺は……っ!」

「――もちろんですよ。アデス公爵。あなたは大切な人なのですから」


 クリフォードがアデス公爵に手を重ねる。


 この男さえまともなら、イリスはもっと自由に生きられたのに。


 幼い頃からアデス公爵はこういう男だ。都合が悪くなるや乗り換えようとする。


「まさか君がそんなふうに思ってくれるとは……!」


 大げさなのか、そこまで追い詰められているのか。


 アデス公爵は何度も頭を下げた。


 クリフォードは穏やかな笑みを浮かべたままだ。


(地獄へ落ちるなら、この男も道連れだ)



 雪が降ったり、止んだり。


 イリスは日々を過ごす中で、今日はルミエとのお茶会であった。


 テラスではなく、暖房のきいた部屋の中であったが。


「少し狭いかもだけど、我慢して頂戴ね」

「いえいえ! 部屋が広いと中々暖まらないですものね」


 その部屋はルミエの屋敷の中では最新の冷暖房が完備された部屋だと言う。


 しかし代わりに結構狭い。

 客を呼ぶ部屋の中ではもっとも狭いらしい。


(とはいえ前世で私が住んでいた家のリビングくらいはあるけれど)


 やはりルミエ恐るべし。

 

「バニラビーンズは順調なようね」

「はい、かなり慣れてきました」


 最初よりも今のほうが圧倒的に早い。やはり慣れは大切だ。


「それよりも本当に、なんてお礼をしたら良いか。こんなに……お金が貯まっていくなんて」

「気にしないで。私は仲介をしているだけだもの」


 ルミエがすまし顔で紅茶をすする。

 その顔には新品の分厚い眼鏡がかかっていた。


 これはレイリアの眼鏡を元に作らせた眼鏡で、かなりレンズが厚い。


 試作段階らしいがそれでも目の悪さを何とかできているのなら、嬉しいとイリスは思った。


 話しながらクッキーを食べる。

 ややあって、ルミエがメイドに目線を送った。


「それで今日、あなたを呼んだのは……特別に商人を紹介しようと思ってね」


 ルミエとの付き合いはそれなりになる。


 イリスはそこに本当の「特別」を感じ取った。

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