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射手と狼少年  作者: ささがき
1日目
4/8

第4話 雨の裏通り

 どんよりと垂れ込める灰色の雲から雨は降り続いていた。

 ぬかるむ裏通りを、シンは駆け抜ける。

 ガラの悪い者たちがたむろする場所を避け、塀をよじ登ったり、大人では通れない建物の隙間を縫うように進む。

 視界を邪魔する雨粒を払った手が黒く汚れた。

 髪からぽたぽたと濁った色の雫が滴っている。

 ――早くしないと。

 シンは先を急いだ。


 目的の場所は、奥まった場所にある建物に囲まれた狭い路地。

 簡易テントを張った露店がひっそりと佇んでいる。

 あやしげな香や獣臭いにおいが入り混じり、異様な雰囲気が漂っていた。

 毛皮をまとった年齢不詳の店主がシンに気づいて顔を上げる。

「なんだ坊主か。いつものか?」

「うん、お願い」

 店主はじろじろと無遠慮な目でシンを眺めた後、値段を告げる。

「銅貨15枚だ」

「…こないだより増えてる」

「いらねえならこっちは構わねえんだぞ」

 店主の視線は、シンの顔…より上、雫をこぼす髪に注がれている。

「わかったよ」

 しぶしぶシンは支払いの準備をする。

 ボロボロのシャツの隙間から、防寒のために体に巻いている布に指を差し込む。

 そこにはひそかに貯めていた銅貨が隠してあった。

 先程受け取った荷運びの報酬を合わせると、15枚ぎりぎり。

 食事を切り詰めてやっと貯めた銅貨だ。

 だけど、惜しんではいられない。

 硬貨をぐっと握りしめ、店主へ差し出そうとした…

 その手を、後ろから差し出された手が押しとどめる。

「ちょっと待て。」

「えっ…アロウ!?」

 シンが振り向くと、倉庫で別れたはずのアロウがそこにいた。

 走ってきたのか、雨をしのぐフードはずり落り、息を切らせている。

「おまえ…足速えな…」

 道のない狭い場所も通り抜けて走っていくシンを追いかけるのは、なかなか骨が折れた。

 アロウはぜえぜえと肩で息をしつつも、シンを後ろに押しやって店主の前に出る。

「なんだ兄ちゃん、邪魔すんのか」

 じろりと商人がアロウをねめつける。

「まっとうな商売なら邪魔はしねえが。」

 アロウは負けじと睨み返した。

「…警備隊にこの場所を通報してもいいんだぞ」

 その目線は、店主の背後に積まれた商品に向けられている。

 しばしの沈黙。

 両者の間に張り詰める緊張感に、シンは視線を彷徨わせる。

「…ちっ好きにしろ」

 吐き捨てて視線をそらしたのは、店主の方だった。

 アロウはシンの手を取って踵を返す。

「行くぞ」

「えっ…ちょっと」

 有無を言わせない雰囲気のアロウに連れられて、シンは店を後にした。



「ちょっと!困るんだけど!」

 アロウに手を引かれるようにして路地を抜けていく。

 シンは店を振り返りつつ抗議の声を上げた。

 今日買えなかったら…隠せない。

 "バレた"時の、人間の目をシンは思い出す。

 アロウも、同じ目をするのだろうか。

 想像するだけで心の芯が凍り付く思いがした。

 掴まれた腕が、痛い。

「はなせよ!」

 強めに腕を引くとアロウが足を止めた。

 アロウは振り返り、シンを見下ろす。

 その目には、怒りが浮かんでいるように見えた。

 ――殴られる?

 シンは反射的に身をこわばらせ目をつむる。

 次の瞬間、降ってきたのは拳ではなかった。

 ばさっと体全体に重みがかかる。

 …布だ。

 頭からすっぽり外套をかぶせられたようだった。

 ほとんど真っ暗な視界に呆然として立ち尽くす。

 布が引っ張られる感触がして、視界が開けた。

 アロウが覗き込んできて、外套の端を調整する。

 シンはきちんとフードをかぶせられ、余った裾は紐でくくられる。

 呆然と眺めている間に、外套を脱いだアロウの髪や肩に雨粒が染み込んでいった。

「あの店でなくても買物はできる」

 そっけなくそう言ってアロウは再びシンの手を取って歩き出す。

 シンは何を言われているのかよく分からなくて、考えがまとまらないままアロウに引っ張られるように歩く。

 ただ、握られた腕も、かぶった外套も、ほのかに温かい気がした。

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