七華の危機、砂緒さま助けて…
「もう私達死ぬのよ!」
「いやよまだ死にたくない! こんな事なら言い寄る男達と契り倒せばよかったのですわっ!」
恐怖の余り錯乱し、あられもない事を叫び床に崩れ落ちる華麗なドレス姿の貴族の娘。
「破廉恥な事を言うのはおよしなさい! 貴族の娘としてしゃんとなさい」
姿勢を正し、身動ぎせず周囲の者を叱りつけた七華王女だが、実は内心全く同じ事を考えていた。
(まさか……私がこの様な事で……命を落とすなど……そんな事……砂緒さま来て下さい)
何故か七華は先程からずっと砂緒がドアを開け、颯爽と助けに来てくれる妄想に耽っていた。
バンッ
突然ドアが開き一斉に振り向く七華と室内の女達。
視線の先には床に倒れる数人の衛兵を避けながら、あたかも自分の部屋の様に普通に入って来る三毛猫仮面が居た。
「おお、麗しの七華王女、こんな所にいましたか」
マスクで唯一隠れていない口元で、おぞましく舌なめずりしながら七華王女に向かって来る三毛猫。
「ス、スピナ来なさい!」
七華が立ち上がって叫んですぐにハッとする。
スピナは自分の言葉を無視してニナルティナ北の半島の発掘現場に正規軍と一緒に向かっていたのだった。いつもいつも役に立たないと心の中で怒りが渦巻く。
三毛猫が悠然と進むと、周囲の女達は無言で避けて行く。
「な、何をするのですか?」
立ち上がり、震えながら後ずさるがすぐに背中が壁にぶち当たる。
「さあ、攻城の最中という異常な状況、そして女達が見つめるという衆人環視の中で二人は愛し合うのですよ、怖がらないで下さい」
「な、何を言っているのです!? 正気なの貴方……?」
壁にぶち当たり、身動き出来なくなった七華王女の顔横の壁をドンと突いた。
「この時を……ずっと待っていました」
三毛猫の手がすすっとドレスのスカートの裾にかかった。
「ひっ」
(助けて……砂緒)
「どうしたのですか、何故足が降りないのでしょうか?」
砂緒が先程から振り下ろした魔ローダーの巨大な足がロックして動かなかった。雪乃フルエレが操縦桿を握って足を上げるイメージを続けていたからだった。
「お願い……やめて……もう戦う意志は無いわ……あの人達」
「何を寝ぼけた事を言っているのですか? 先程のイェラの姿を見ましたか? 大変な辱めを受けたとしか思えません。私自身これ程怒る事が驚きでしたが、今は怒りが収まりません」
「いつもいつも……私のお願い聞いてくれてありがとう……今回も……今回は聞いて! こんな足で人間を踏み潰すのは人間のする事じゃないわ! 貴方には良い人間になって欲しいの! お願い止めて砂緒……」
「…………………………」
砂緒は止めるで無く、反論するで無く無言でじっと降ろすイメージを続けた。フルエレも涙を流しながら止めるイメージを続けた。
トストストスッ!
突然腰を抜かしながら後ずさりを続ける多くの敵兵に向かって、城壁の弓兵が射撃を再開した。次々と敵兵の胸や腹に矢が刺さる。
「見よ! 巨大兵器は我らが味方だ! リュフミュラン万歳!!」
次々に城兵が攻撃を再開する。逃走を始めるニナルティナ兵に対して城門が開き、少数だが騎馬兵や歩兵が出て来て追撃すら開始した。




