おかえりなさい、でもお店は乗っ取られていた…
燭台が並ぶテーブルの上には豪華な夕食が並ぶ。イェラが帰って来た二人をもてなす為に大急ぎで作った物だったが、下手な食堂などよりも美味しそうに見える物ばかりだった。
「凄い! イェラさんって絶対スーパー主婦になれちゃうね」
「私は生粋の戦士だ。スーパー主婦になどならない」
「手芸するのだって素敵よ! 実は一番お淑やかなのかもしれないわね」
4人は夕食を始めながら話を進めた。歓迎する二人は意図的にテロや牢屋の話は避けた。
「聞いてくれ、猫呼はプロだ。冒険者一人一人にバースデーカードや上達記念メッセージなど送っているぞ、ファンクラブまで出来た」
「イェラさんだって凄い人気ですよ、特に服を新調する以前は……」
「その事はもう言うな」
二人は偶然その場に居合わせていただけにも関わらず、性に合っていたのか嬉々として冒険者ギルドの話を続けた。
「しかしこのまま同じ事を続けていては駄目だ。今この辺りは深刻なモンスター不足に直面している。新しい狩場を開拓し、あちこちに宝箱を埋めて置いたりやらせもしようかと計画中だ」
「や、やらせは駄目ですよ!」
「フルエレさん、資金面はご安心下さい、魔法のお財布にはまだまだ金のつぶてはありますからね」
ようやく自分達の冒険者ギルドが軽く乗っ取られている事に気付いた……
「砂緒さんやフルエレさんにも手伝って欲しい事がいっぱいあります!」
「砂緒、お前も新しいアイディアを出すのだ」
雇う側から従業員になっていた……
「そうだ、少し前に紅蓮アルフォードさん、美柑ノーレンジさんという凄く強そうな超S級冒険者が来たのですよ! フルエレさんは知っていますか?」
「後で色々聞いてびっくりしたぞ。有名人らしい」
「まあ。凄いじゃない! 私はよく知らない人達だけどサインとか貰ったのかしら!?」
掌を合わせて驚くフルエレ。
「ああその発想は無かったな。それを飾ればここにも箔が付いたか」
がっかりして頭を押さえるイェラ。笑顔で話を聞きながらスープを飲む猫呼クラウディア、和やかな夕食風景だった。フルエレは黙り込んで静かに食べ続ける砂緒が気になり続けていた。
「砂緒、何か言って下さい! 今日はどんな迷言でも大歓迎よ!」
三人の笑顔の中、ゆっくりと砂緒がフルエレの方を向く。
「フルエレ、貴方は兵士を一人射殺したのですか?」
「ブフーーーーー!!」
猫呼は飲んでいたスープを霧状に噴射した。全て顔面で受け止めるイェラ。和やか一転黙り込む三人。フルエレは砂緒のおかしな様子はこの事かと誤解した。
「はい撃ち殺しました。おじいさんが後ろから若い兵士に斬られそうになって。それで気付くと引き金を引いてて」
暗く沈んだ声で淡々と語るフルエレ。
「もうそんな話題は止めようよ」
猫呼が辛そうな顔になる。
「砂緒にはなるべく殺さないでなんて言いながら、どうしようもない嘘つきだよね」
テーブルに腕を置きながら、俯いて誰の顔も見ずに話すフルエレ。
「いちいちそんな事気にするな! 戦場では当然の事だ」
「砂緒はどう思う?」




