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フェンリル谷大ダンジョンが虹を描く


「あんなのをまた世に放って良かったのかしら? むしろ蛇輪で直接送り届けた方が良かったのかも……」

「いえいえ、もしまた悪さをすれば今度こそ捕まえて処刑するなりすれば良い事」

「しかし……あの者達は一体何者だったのでしょう?」


 結局男達は自分達が東の未知の地から来た、まおう討伐軍の追加派遣部隊である事を詳しく告げず去って行ったのだった。


 しかし彼らはまたまた迷いに迷い、なかなか主人である瑠璃ィキャナリーに会う事が出来ないのだった……


「ふぅ~~~やれやれこれにて一件落着! よし帰るぞ!!」

「わ~~~い、いい事するとお腹が減るのね」

「フルエレさんイェラお姉さまに美味しい昼食兼夕食を作ってもらいましょう!!」


 三人はすっかり帰る気まんまんになって蛇輪に乗り込もうとした。


「待ってくだせえ、そんな殺生な~~まだダンジョンがそのままじゃねえですか?」


 髭のリーダーが砂緒の足にすがり付いた。


「なんですかめんどくさい髭の男ですねえ?」

「も、もうここだけの話、ダンジョンをその巨人で埋めてしまってくだせえ……」

「んだんだ、俺達は何も見てねえ、事故でダンジョンが埋まった事にするだ」


 労働者達の突然の衝撃的な提言に、砂緒はすがり付く髭のリーダーと目が合ったまま固まった。


「フルエレどう思いますか?」

「……いいんじゃない? 早く帰れそうだし」

「いいんだ! フルエレさんもたいがいだな!」


 セレネが呆れて二人を見た。



探査(サーチ)! うん今ダンジョンの中には誰も居ないよ」


 セレネが魔法でフェンリル谷大ダンジョンにもはや冒険者は一人も居ない事を確認した。


「OK、早速セレネも乗って下さい!」

「なー本当にやるのか? ダンジョンの中には貴重なモンスターやお宝があるんだが」


 蛇輪の下の操縦席から、上の操縦席の砂緒とフルエレにセレネが神妙な顔で聞いてくる。


「私冒険者では無いので……興味も何もありません」

「私もー早く帰りたいのよ」


「……貴方達に訊いたのが間違いでした。では私からの提案ですが、ただ単に埋め立てるのでは無くて一旦掘ってからモンスターを蛇輪で倒してお宝をゲットしませんか? 多少ズルいやり方ですが」


 砂緒とフルエレは顔を見合わせた。


「そうね、一度やってみましょうか?」

「はい、フルエレが言うならやりましょう!」

「お前本当に自主性無いな」

「昔はそうでも無かったんですよ~こう見えてもフルエレをグイグイ引っ張っていました」

「そんな記憶無いわよ~」


 等と言いつつ、蛇輪は月の鉾を構えると、グサッとダンジョンの入り口に突き刺した。


 そしてそのままスコップの様にダンジョンの天井の土砂をバシャッと遠くの山に投げ捨てた。入り口からの一部の通路が外に露出する。


「まー便利ね、このスコップ!」

「鉾です」

「何でもいいわ、続けるぞ!!」


 セレネは渡されたダンジョン攻略の地図を見ながら慎重に慎重に天井を引っぺがして行く。


「これなんか面白いわっ蟻さんの巣を破壊しているみたい! 私もやりたいっ!!」

「セレネ、今すぐ操縦権をフルエレに渡しなさい!」

「フルエレさん結構やばい子だったんですね」

 

 するとセレネはしぶしぶ操縦桿から手を離した。フルエレが操縦桿を握ると蛇輪は乱暴に天井を破壊して行き、がらがらとダンジョンが崩れ落ちて行く。


「あちゃーー、難しいわね」



「こ、こうかしら? だんだんコツが分かって来た……」


 第一層のボスはフード軍団が既に倒しており、引き続き第二層の破壊に移った。


「第二層だと蛇輪の自重で潰さない様に……腕が鳴るわ……」

「フルエレにもこんな面があったのですね」


 いつしかフルエレは舌を出し夢中になっていた。


「フルエレさん慎重にやって下さいよ! もうすぐ第二層のボス竜の巣ですからねっ! それはあたしが生身で倒しますから」


「あっそうだっそのボス竜の遺体って兎幸(うさこ)の天球庭園の氷のモンスター博物館に寄贈すれば良いのよ!」

「あ、そうですねえ、月の兎幸も喜ぶ事でしょう! 今頃兎幸どうしてるでしょうか」


 砂緒とフルエレは二人で他人事の様に兎幸を懐かしく思い返した。


「いや、あんた達が兎幸先輩放置して来たんだっ」

「……だって、兎幸が置いて行けって言うから」

「あれは不可抗力です、兎幸は私達二人の心の中で今も元気に飛び跳ねていますよ……」

「酷いヤツらだなっ!」


 セレネが突っ込んだ瞬間だった。


「あっっ」


 フルエレが小さな声を上げた直後。


 ブシャーーーーーーーーーーーーーッッ

 何か梨汁的な感じでモンスターの青い血液が盛大に天に向かって噴出し、差し込む午後の太陽に照らされ綺麗な虹を描いた。


「ふ、フルエレさん……?」

「……綺麗……」

「フルエレ、やってしまいましたね」

「綺麗……じゃ無いですよっ」


 フルエレは操縦桿を握りながら、取り返しがつかない事をしてしまったと思い、暗中の猫の目みたいに瞳をまん丸にして固まっていた。


「フルエレ……無かった事にしましょう」


 そっと砂緒がフルエレの耳元で悪魔の囁きをした。

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