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魔戦車に乗っていましたよ…  


「本来なら君にもちゃんと挨拶するべきだったね、こちらは新たに新ニナルティナ公となられた有未(うみ)レナード、僕の古くからの友人だ。そしてその補佐役となった僕が為嘉(なか)アルベルトだ。よろしくね」


 アルベルトは砂緒(すなお)に向かって手を差し出した。


「知ら――ん。ハルカ城に行くのはフルエレだからな、そんな奴ら知ら――ん」


 砂緒は子供の様に腕を組んで横を向いた。あからさまに嫉妬していた。


「馬鹿かお前は、フルエレさんに恥をかかせるな!」

「すいません、本当にこの人もう無視でいいですから……」


 フルエレとセレネが次々と呆れて言った。


「いや、良いんだ。予備知識で大体分っているからね。それに良い機会だ、これは言うつもりは無かったんだけど、実は僕はこう見えても魔導士で魔戦車乗りなんだよ」


 紳士ぶっていても子供丸出しの砂緒に比べて、アルベルトは小さな事でいちいち反応しない完全に大人だった。アルベルトの真摯な対応にフルエレはますます好感を持った。


「魔戦車乗り……?」


 今度はイェラが身を乗り出した。


「そうなんだ。領主の息子かつ魔導士という事で、優先的に安全な魔戦車に乗せられたんだけど……ある日例の亡くなった前根名(ねな)ニナルティナ王の命令で、こいつレナードの指揮する軍で、リュフミュランに攻め入ったんだ。そうだよ、君たちの前の居住国さ」


 アルベルトの話に皆引き込まれていた。


「あーーー来てたな」


 イェラが頷いた。


「その時突然妙な人間が出て来てね、まず魔戦車隊の隊長がやられて……指揮系統が滅茶苦茶になって……気付いたら僕の乗っている魔戦車の上に、とてつもない重たい物でも乗った様に、クシャッと潰れてしまって行動不能に……そう、それが砂緒君という事だ」


 魔戦車隊の隊長は流れ弾に当たって戦死したが、そんな事は誰も知らない。


「ハハハ、いい気味だー! フルエレ思い出しますね!! 二人の」

「お願いイェラ、今度砂緒がしゃべり出したら軽く首を絞めて頂戴」


 食い気味にフルエレが釘を刺す。


「そして……こいつは逃げおおせたのだが、僕は敵の捕虜となってしまい、ライグ村の皆さんに手厚い歓迎を受けた後にリュフミュラン城に送られてね、地下牢に入れられた挙句、毎日魔銃のカートリッジの弾込めと拷問をされて……もう死ぬって感じの時に変なコスプレをした親切な人に助けられてね……」


「済まん……俺だけ逃げて」


 レナードはかなりバツが悪そうに謝った。


「それで……仲間たちと共にふらふらになりながら地上に出ると、命がけで四方八方に逃げ出した……逃げた途端に魔法に撃たれて死んだ仲間も多数、で命からがらなんとか国まで戻る事が出来たんだ」


「だから何なんですか? つまらない話ですね」

「だからマジで黙れお前」


 セレネが即座に突っ込む。


「本当にごめんなさい……まさかそんな事になっていたなんて……」


 フルエレが涙ぐみ謝った。


「フルエレが謝る事でもないと思うぞ」


 今度はイェラが冷静に言った。


「そうだよ。こっちが先に王の命令とは言え侵略していて、殺される事も無く捕虜として扱ってくれて、政策には何もタッチしていない当時旅人のフルエレ君は何の関係も無いし悪く無い。むしろこっちが謝ろうと思ってね」


「そうだ! 早く謝れ侵略者共めっ!」


 砂緒が指を指して言った。


「折れた剣でもいいわ、もっかい斬るわ黙れ」


 セレネはもういちいち突っ込まないと駄目な体質になっていた……


「でも……他の殺された捕虜のみなさんには悪いけど、あの混乱の中でアルベルトさんが生きてて本当に良かった。もし違う結果になっていたらって想像しただけで、胸がなんだか痛むの」


 フルエレは両手を胸に当てて切実な声で言った。


「フル……エレ?」


 砂緒は最近のフルエレの自分に対する態度との余りの違いに愕然とした。しかし同時に自分自身はその時、地下牢の一角で七華(しちか)王女と深いキスをしていた事を思い出していた。


(七華……今にして思えば、かわいかったな……)

「今度は何を笑っている? 不気味過ぎる奴だな」

「え?」


 セレネに突っ込まれ、何故分かったんだとびくっとする砂緒。


「でもその事が良い方向に繋がった。今はもう完治したけど、捕虜になった時の拷問の怪我や帰り道で体力を極限まで消耗して体調を悪化させたりして、一時戦線から離脱した僕は、続くリュフミュラン城攻略戦の時に参加出来なくて……で今こうして生きているという訳だ」


「だから長々と何が言いたいんですか? つまらない話でしたね」

「だからお前は黙れと言っている」


 常にセレネが即座に突っ込むので、イェラもフルエレも何も言えなくなって来た。


「僕が言いたい事は、僕は見た目がナヨナヨしてる様に見られがちで、少し舐められる所があるけど、戦う時はちゃんと戦うよという事だよ。特に今日フルエレ君と知り合って……その、フルエレ君を守る為だったら死ぬ気でも戦える男だよって言いたかったんだけど」


(来た―――!! 火花バチバチ来た―――!! いいぞやれ、頑張れアルベルトさんとやら! 私もフルエレさんが好きだけど、今は全面的に君を応援するっ!!)


 セレネは両手をグーにして目を輝かせながら、無言で応援のオーラを送った。


「あ、あああ、あんな事言ってますけど、フルエレと私は将来を近いあ」


 フルエレは無言で砂緒の顔を全面的に覆い隠す様に、掌を出して言葉を制止した。


「有難う御座います……私、そんな事言ってもらった事ないから、凄く嬉しい。お城に登った時はいろいろと教えて頂きたいです。よろしくご指導お願いします……」


「いや、こちらも宜しくお願いしたいよ……」


 フルエレとアルベルトは物凄くいい感じで、お互い照れながらにこやかに見つめ合った。


(あ、あれ……フルエレ……貴方記憶がリセットされてるんですか? 一緒に戦いましたよね、月まで行きましたよね……)


 砂緒は頭の中で怒りが渦巻いたが、彼は七華王女と何度も深い浮気を繰り返した事を都合よく失念していた。



 二人はその後しばらくして帰って行った。


「どうしたのでしょうか……フルエレの様子が変です。一人で座席に着き、両手で頬杖したまま、ぽ~~っとしてたり、時々にへらっと笑い出したり……ちょっと医者に診てもらった方が良いでしょうか」

「ぃや、お前が脳を精密検査してもらえ」


 もうセレネはどのくらい速く砂緒に突っ込むかの競技者の様に即座に反応する。


「フルエレの事よりセレネの事も気になるのだ……確か人見知りで男子も苦手とか言っていたはずなのに、いつのまにか砂緒と仲良くなってて不気味だ……眼鏡も取ってて凄く可愛いしな!」


「か、顔をじろじろ見ないで下さい忘れていたのに。それにわ、私がこんな生命体と仲が良い訳がないでしょう……いくらイェラお姉さまでも止めて下さい、す、凄く心外です……」


 赤面してちょっと元に戻るセレネ。赤面したのはもちろんイェラに素顔を褒められたからだ……

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