鈍感でお人好しな人達
「いま帰ったのじゃ。
これはお土産なのじゃ」
「おかえり〜あ、あの角のパン屋さんの!
ありがとう」
マオは散歩から帰る途中で寄ったパン屋で購入した、色とりどりなパンをテーブルに並べた。
「妾は手洗いをしてくるのでな。
飲み物の準備は任せたぞ」
「まっかせてよ!
マオはコーヒーでいいの?」
「うむ、砂糖やミルクは要らんからのう」
こうして、2人は並べられた菓子パンを楽しみつつ、各々のコップに注がれたドリンクを楽しむ。
ユウも菓子パンにジュースは合わないと思ったのか、ストレートティーを飲む事にしたようだ。
「それで、何でまた急に正体を曝け出した状態で外に出ようと思ったの?」
「うむ、この国のものは程よい距離感で気にしないと思ってのう」
「どゆこと?」
りんごのデニッシュを楽しみつつマオに質問したのだが、返ってきたのはよく分からない回答であった。
「最近何かと記事を見るのじゃよ。
日本人は差別的な制度で遅れておるだの、もっと広い観点で受け入れる心を持つべきだのとな」
「ああ、確かに何か最近色々と見るよね。
何でこの界隈の人達ってこんなに声が大きいんだろうかと疑問になってたけど」
「妾達が外から来たものであるから分かると思うんじゃが、日本人というものは十分に受け入れてくれておると思うのじゃよ。
そこに人種や色など関係なくのう」
「実際、言葉が通じないから及び腰になる事はあっても、それで邪険に扱うとか排除しようって感じはないよね。
リスナーからもそういうエピソードたくさん来るし」
ユウとマオの配信は世界中に届けられている。
その為、海外ファン……通称海外ニキからもコメントやお便りが沢山届いているのだ。
それらを訳していると、日本は羨ましい。
最先端の日本に行ってみたいというお便りを多数貰っている。
また、中には黒人の方からも自分たちは色が黒かったり、身体が大きかったりで驚かれる事は多かった。
しかし、誰も黒人だからと差別せずに敬意を持って接してくれてもっと日本が好きになったというようなメッセージも貰っていた。
「日本人は良い意味で鈍感なんじゃよ。
自分達に危害を加えるものには敵視する事もある。
しかし、そうでないのならば何でも受け入れてしまう。
それは国が違うだけでなく、妾達のような世界が違うものも。
恐らくは神や妖魔といったものですら、危害がないと分かれば受け入れてくれるじゃろう」
「うん、そうだね……僕も受け入れてもらった側の人間だから分かるよ。
この国の人達は本当に鈍感で適切な距離感を持っているんだなって」
「じゃから無理に何かを変える必要なんて無いと思うんじゃよな。
それを確かめたくてこのままの姿で外を出てみた訳じゃが……やはり妾の目に狂いは無かったようじゃ」
マオは出かけている間に交流した人達のことを思い出す。
誰も彼もマオの角と尻尾に興味は持つものの、取り立ててそこについて話してくるものはいない。
仲良くしている親子とはその話をしたものの、それらを見せても羨ましがりはすれど気にする様子は一切ない。
「本当にこの世界のこの国に流れ着いて良かったよね」
「本当に心からそう思うのじゃ」
2人はこの国に来てから出会った人たちの優しさを思い出し、その良いところは変わらないでほしいと願いながらパンを頬張るのであった。




