シチュエーションボイス収録
「最近こもり気味だったから外に出ようか?」
唐突なユウからの提案であった。
だが、そう言われるとマオにも思い当たる節はある。
配信と作業、更にグッズ販売の打ち合わせに期間限定ボイス制作の打ち合わせなど家の中で行うべき仕事が山積みとなっていたのだ。
くじよじでは最近、シチュエーションを指定して録った限定ボイスの販売も行い始めていた。
今やくじよじ内ではトップに位置する2人は当然ながらボイス収録を頼まれており、今週はお花見デートという設定が決まっていたのである。
まるで本当にデートしている気分が味わえるとして好評であり、数量限定のボイスには彼女達のグッズや直筆サインも付いてくる。
そのサインの作成なども作業に入っていたので、本当に出歩く暇がない程に忙しかったのだった。
だが、主だった打ち合わせを終え、収録を残すのみとなったので、恐らくはその帰りにでも出掛けようという意味なのであろう。
「それならば上野公園はどうじゃ?
散る前に花見をしておくのも悪くは無かろう」
「お、それ採用。
それじゃ、明日収録終わったら一緒に行こう」
こうして短いやり取りでお互いに取り決めた2人は就寝して次の日、くじよじが用意したスタジオでボイスの収録を行った。
この手の収録は恥ずかしがって照れが入りNGになる事が多々あるのだが、2人は慣れた様子で淡々と仕事をこなしていく。
特にNGを出すこともなく収録を終えた2人。
予定時間を大幅に早まったのでスタッフからご飯に誘われたが、それは丁寧にお断りして、これから2人で花見に行くことを告げる。
スタッフは嫌な顔せず、寧ろニコニコとした笑顔で2人を送り出していった。
「いや〜ビジネスで仲良くしてる人達はいますけど、あの2人は本当に仲が良いんですね」
「そりゃデビューから今だに一緒に暮らしてるんだから仲良しでしょ」
「それはそうなんですけど……花見デートの相手も暗にお互いの事を考えて収録してましたよね、これ」
2人が出て行った後の収録現場ではスタッフ達が雑談を始めていた。
今日は他にも予約が入っているのだが、2人が大幅に時短した為に暇なのである。
「聞けば分かるよね。
でも、あの2人のファンにはこれがいいのよ」
「そう言うもんなんですか?
僕は自分が相手の方が嬉しく感じますけど」
「それはあの2人が仲良くしてる配信を見てないからでしょ。
2人が自然にいちゃついてる配信見てたらこう思うわよ。
この家の柱になって見守りたいって」
「俺はまだその境地には至れないっすわ」
「まぁ、その内分かるようになるわよ。
特にこの業界にいたら……ね」
数週間後、ユウとマオの配信を追った彼はこう話していたと言う。
「ユウマオの家の壁になって見守りたいと」




