場違いな幻覚
「おーい、大丈夫!?」
「ねぇ、これ生きてるの?」
何やら騒がしい声が聞こえてきて目が覚める。
「あ、目が開いたから生きてるみたい」
「ほんとだ。
お兄さん、こんな所で寝てたら死んじゃうぞ」
「いや、多分この人遭難してるんだと思うよ」
視界がはっきりせずにボヤけて見えるが、話をしているのは若い女性らしい。
「へぇ〜そうなんだ」
「……リ、面白くないよ」
「え、あ、いや、違うよ!
今のは冗談じゃ無くて……」
「分かってる分かってる……ちょっと揶揄っただけだって」
「もう……ムの馬鹿」
何でこの子達は遭難している俺の前でイチャついているんだろうか?
そう言えば低体温症になると幻覚が見えるって聞いた気がするな。
死ぬ前に女の子がイチャイチャしてる幻覚を見るなんて、俺は百合の属性でもあったのだろうか?
そう考えながらも気力で目を開くと視界がクリアになってくる。
俺の目の前には白い着物を着た2人の女性の姿が見える。
だが、倒れた状態で見上げているせいか顔は全く見えない。
こんな雪山にそんな軽装で平気な人間などいる訳が無い……やはり幻覚なのだろう。
「とりあえずこの人どうしようか?」
「えーっと、このまま見捨てるってのは?」
「それは一番やっちゃダメでしょ。
もうすぐ雪の宿がオープンするのに、その前に死亡者出してたら縁起悪いよ」
「それもそっか。
じゃあ、雪の宿に連れて行こう」
「それは良いけど、どうやって運ぶの?」
「雪の精霊に頼んでみるよ」
2人の内、異常に程に肌が白い女がそう言うと身体がひんやりとした何かに持ち上げられた感覚がした。
「雪の精霊feat雪像さん。
その人を雪の宿まで運んであげて」
「うわぁ、力持ち……でも、アレって体力奪われない?」
「私たちじゃ成人男性運ぶの辛いから仕方ないでしょ。
宿に着いたら温かくすればいいよ……最悪は」
「まぁ、先輩達なら何とでも助けてくれそうだよね」
幻覚にしては助かるという希望をやたらと与えてくるのは止めてくれないか?
こんな状況で俺が助かる可能性なんて万に一つもないのだ……指先も凍傷が酷くなって黒ずんできたし。
確か黒くなったら切断しなくちゃいけないんだっけか?
はは……どうせ助かった所で指無しよ。
どうにでもしてくれ……そんな気持ちとは裏腹に妙に冷たい感触と、揺れる一定のリズムが再び俺の意識を奪い始めた。




