とある冬山の話
「ここは……一体どこなんだ……」
冬の雪山……スキー場のリフトから乗り込んで途中から登山をスタート出来る事で有名な山。
だが、世界中の山を登るという俺の目標の前でそんなチンケなズルをする訳にはいかない。
登山道を確認し、一から登り始める俺。
一日で踏破する為になるべく荷物を少なくしている……それを実現できたのは何気にスマホの力が大きいだろう。
最近流行りの地図アプリのおかげで進行方向は迷う事なし。
自分がどの位置にいるかも常に把握できるので雪で視界が悪くなっても安心だ。
つくづく文明の力の有り難さを知る。
……数時間が過ぎ天候が悪化してきた。
間も無く山頂の筈なのでここで諦めて帰るなどという選択肢は出来ない。
……登りきったならリフトで帰るのもありだしな、うん。
そう思って進む事10分後……雪で視界が閉ざされて数メートル先すら見えない。
ここは登山アプリで進行方向を確認しようとしてスマホの電源を入れる……あれ?
何度も電源ボタンを押すかスマホはうんともすんとも言わない。
そう言えば先輩のクライマーがスマホは寒さで電源が点かなくなる事があるから注意しろと。
俺はそんなの旧世代だからそうなるんだよ、最新世代のスマホを舐めるなよって思って聞き流していたんだ。
舐めていたのは俺の方だった。
とりあえず自身の身体で温めようも服の中にスマホを入れる。
冷たい金属の塊を防寒着の中に入れた事で体温が低下していくのを感じた。
山の中での死因は低体温症が多い……そんな記事が頭をよぎる。
ま、マズイ……一刻も早く山を降りなければ。
来た道なら何となく分かるはずだ……とりあえず降りれる所まで降りて、スマホが点いたらスキー場に。
そう思って後ろに向かって足を踏み出した時であった。
「!?」
足が滑ってそのまま下へと滑落していく。
そう言えば先輩が言ってたっけ……雪山ではスノーシューズじゃなくてアイゼンを装備していけって。
俺はそんな先輩の忠告を無視して早さを重視する為にスノーシューズを履いていた。
その結果がこれである。
猛吹雪による雪と暗闇で視界が見えない中を高速で滑り落ちていく。
暗闇から木々が現れるたびに心臓が縮こまりそうになる。
そうしてどれだけの時が流れただろうか?
とても長い時間滑っていたように感じたが、実際には一瞬の出来事だったのだろう。
突如目の前に現れた木にぶつかり激しい衝撃が俺を襲った。
続いて、木の上に積もっていた雪が俺に向かって落下してくる。
こうして雪に埋もれて死んでいくのか……俺は自分の軽率な行いを反省しながら意識を失っていった。
現在の時間軸より少しだけ未来の話です。




