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安寧の祭り 3

微動だにしない巫女に場が支配されているような空間。


誰もが目を離せなくなった時、徐に巫女の瞳が開き立ち上がる。


錫杖を持った巫女は一定のリズムでそれを鳴らしながら、死者の魂を慰撫する文言を口にする。


その声は決して大声で張り上げているわけでは無い……しかし、どう言う訳だろうか。


自然と辺りに響き渡り、誰もがその言葉を正しく耳にしている気がした。


続いて死者の魂を癒した巫女は再びその場で正座する。


そして、錫杖の代わりに手にした物。


それは木の棒に白い紙が付いた大幣(おおぬさ)と呼ばれるものであった。


巫女は大幣で何かを落とすように振る。


棚の埃を払うように、場に満ちた穢れを祓う。


そうしながら、巫女はこの地の永遠の繁栄を神へと祈る祝詞を紡ぐ。


人々はその一挙手一投足に目が離せなくなっていた。


「どうですか、2人とも……巫女さんは神事は?」


「あれは……きっと何一つとして間違いのない完璧な神事なんだろうね。

本来なら何かの奇跡を起こすような力を持つ……」


「じゃが、あの儀式を経てもこの地には何も変化は無いであろう。

儀式を行う巫女に何の力も無いのじゃからな」


そう……巫女の儀式は正式な手順に則った完璧なものであり、彼女に霊的な力が少しでも備わっていれば大きな奇跡がこの地を祝福していただろう。


だが、巫女がどれだけ正しく、どれだけ心を込めようと何の奇跡も起きなかった。


彼女は霊の力を視る事が出来ない、その類の力を一切持たない人物であったから。


「そう……巫女さんは何の力も持っていません。

彼女がどれだけ心を尽くして神事を行おうと奇跡の一つも起きません。

……昔聞いた事があるんです。

何でそんなに完璧な神事に拘るのかと。

完璧にこなそうが間違いがあろうが、何の効果も無いのであれば同じでは無いかと。

そうしたらあの人は何て答えたと思いますか?」


花の質問に2人は首を捻る。


普段の巫女を知っている立場としては何の想像も出来なかったからだ。


「何の奇跡も起きないからいいのだと。

これでこの地に何の災厄も起きずに安寧が続くのであれば、それはこの地に住まう人々の努力だと分かるから。

もし、何かの災厄が訪れたのであれば、儀式に過ちの無い私のせいではなく、この地に住まう者達の努力不足であると分かるから。

人の力が足りないと言うので有れば、この地に住まう人達が協力して努力すれば良い。

超常的な力が関わらないからこそ、人々の努力が目に見えて活かされるのだと」


その時の事を思い出して胸の奥が熱くなったのだろうか。


花は胸の中の思い出を大事に抱えるように胸元を押さえた。


「巫女さんがそんな事を……」


「普段からは想像が出来んのう」


そう言いながら2人はステージへと視線を戻す。


神事は今も続いていて、巫女は決してミスをしないように最大限の集中をしている事が分かる。


「そういう人だから私達はあの人についていけるんですよ」

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