ノスタルジーな味わい
「は〜お腹空いたな」
ついつい雑談が楽しくなってしまい、遅くまで配信してしまったユウが居間にやってくる。
マオは既に寝ているので音を立てないように移動しながら冷蔵庫を開けたのだが……
「あれ、何も入ってない……」
この家にしては珍しく何も食べ物が入っていなかったのである。
「あ、そう言えば今日は個別に何か頼んで明日買い物に行こうって話してたんだっけ……えーっと、今の時間は……」
ユウが今に飾られた時計を見る。
時計の針は頂点を指し終え、少しだけ右に傾いている。
「この時間じゃ開いてないかな。
牛丼とかハンバーガーショップなら開いてそうだけど……」
そこで限界と言わんばかりにお腹の音が鳴る。
「はいはい、そうだよね。
外に行って食べてくるなんて面倒な事出来ないよね」
お腹を押さえながらユウが辺りを見渡すと、大きな袋が見えた。
「あれって……いや、しかし……ええい!
背に腹はかえられん!!」
ユウはそう言って中をゴソゴソと漁り出す。
目的の物はすぐに取り出すことができた。
大きめの皿の上に深めの更に入ったスープであった。
その料理は常温の袋から取り出したとは思えない程に、出来たのようにホカホカとしている。
「後は……あったあった」
ユウがもう一つ取り出したのは黒くて硬そうなパンであった。
そう……以前の会話でチラッと話していたのだが、ユウは袋の半永久的に入れた時の状態を保つ袋の特性を利用し、お気に入りの食事処の料理を片っ端から袋に突っ込んでいた時期があったのだ。
一か八かで当時の料理が入っていないから漁ったユウであるが、賭けは見事に成功。
道中でお世話になっていた料理が姿を現した。
温度も入れた時と同じようにホカホカに保たれている以上は問題ないだろう。
「へへ、ちょっと……いや、だいぶ懐かしいなぁ。
それじゃ、パンをスープに浸してっと」
あちらの世界のパンは基本はカチカチであり、まともに食べられたものではない。
なので、こうしてスープに浸して柔らかくするのがお決まりの食べ方と言えるだろう。
最初にそんな必要がない、白くて柔らかいパンを見た時、2人は大興奮したものである。
今ではそんな白パンが当たり前になったユウにとって、このカチカチ黒パンは懐かしいと共に新鮮な気分を与えてくれた。
さて、そんなノスタルジーの入り混じった食べ物の感想であるが……
「うーん、不味くは無いんだけど……それだけって感じ。
当時はこれより美味しいものなんて無いと思ってたのになぁ……舌、肥えちゃったな」
こちらの世界の食事に慣れてしまったユウの口には合わなかったようである。
文句があるわけでは無いので、モニョモニョと食べ進めつつ、スープで流し込む。
「ふぅ〜助かったけど、もう一回はごめんかな。
次はちゃんと冷蔵庫確認しとこ」
こうして満足とは言えないものの、何処か懐かしい気分を味わいながら、ユウはベッドに向かうのであった。




