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二方面の戦い

「ふ〜ん、これが例の結界か」


結界の中に閉ざされたユウは辺りを見回す。


一筋の光も届かない漆黒の闇の中で無数の何かが蠢いているのを感じる。


これがカザの言っていた不死身の妖怪であろう。


「素振りの的には丁度いいぐらいかな」


そう言いながら暗闇の中から飛びかかって来た妖怪の攻撃をミリ単位の正確さで避けるユウ。


更にすれ違った瞬間に妖怪の体は上半身と下半身を綺麗に分断されている……ユウの手の中にはいつの間にか一本の剣が握られていた。


続いて2匹の妖怪が立て続けにユウに襲いかかるが結果は同じであった。


唯一の違いは其々の妖怪が2回、3回と斬られていることにあった。


「君達がどれだけ細切れになったら復活できなくなるか試してあげるよ」


その言葉を皮切りに周囲にいた妖怪達が一斉にユウに飛びかかる。


「4、5、6、7……」


それらの攻撃を捌きながらユウが数字を呟くたび、襲いかかった妖怪の体に同じ数だけの斬撃が浴びせられる。


「29、30っと、もう品切れ?

早く再生してくれないとテンポが悪いよ」


剣をぶらぶらさせながら待っていると、ようやく最初に真っ二つにした妖怪が再生して動き始めた。


だが……


「はい31っと。

そんな足元でノロノロやってたら隙だらけだよ」


そう……ユウはこれだけの敵に襲われながらもその場を一歩も動いていない。


「まだまだ時間はたっぷりとあるし、左手も残っているからね。

もっともっと楽しませてもらうよ」


ユウはまたしてもいつの間にか取り出して左手に持っていた剣を見ながら口の端を上げるのだった。


♢ ♢ ♢


「な……何なんだ、あの化け物は。

結界の中に取り込めたのは運が良かったな」


蜘蛛妖怪は結界の中の様子を見て冷や汗を垂らす。


前回捕らえた退魔士も圧倒的な力を持っていたが物量で押し込めば勝てる要素はあった。


事実、疲労した退魔士を後一歩のところまで追い詰める事に成功したのだ。


しかし、いま捕らえている人間には全く通用する気がしない。


「人間にしか見えないが本当に人間なのか?

どちらにしても時間はかかれど疲労するのを待つしかないな」


どれだけ強かろうと疲労は蓄積されるし喉も乾けば腹も減るだろう。


こちらの兵隊が無限である限りいずれは勝てる……筈である。


「その前にお主が退治されるのが先じゃがな」


「何者だ!?」


突然声をかけられて振り返った先には先程覗き見た幼児がいた。


「人間……いや、こちら側か?」


人間だと思った少女の頭には角が、そして腰からは尻尾が生えていた。


明らかに人間ではない容姿であるが、このような妖怪は見たことがない。


「今は人間のつもりなんじゃがな……という事じゃから、人間として妖怪のお主を退治させてもらおうかのう」


「ふん、舐めた口を叩きおる。

その程度の力しか持たぬものに我が倒されると思っておるのか」


「思っておるぞ。

寧ろ妾に勝てると思っておる思い上がりに驚きじゃわ」


「ほざけ!!」


蜘蛛妖怪はマオに蜘蛛の尻を向けるとそこから糸を発射する。


微動だにしないマオを見て反応出来ていない雑魚だと心の中で蜘蛛妖怪はほくそ笑む。


怖いのは先程の人間だけだった。


それを封じた今、自分の勝利は揺るがないと……だが、糸がマオに当たる瞬間にその姿がかき消えた。


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