樹木の山と妖怪の際 17
「今の声って鶴吉さん?」
「本来の身体に戻って僕たちにも意思疎通出来るようになったってことかな」
ユウとカザがそう言うと樹木子は肯定するようにその巨木を震わせた。
「その通りです。
皆様に助けられた事、本当にお礼を申し上げま……あいた!?」
「何気持ち悪い喋り方してんのよ!
私にはそんなに丁寧に喋った事ないでしょ」
ユウとカザに礼を述べている最中にカコは樹木子にげしげしと蹴りを入れる。
「や、やめてくれ!
これには訳があるんだ」
「ふむ……無数にある魂。
それが原因かのう?」
聞き覚えのある声にユウが振り向くと、そこには頭に角を生やした小柄な少女……つまりはマオがいた。
その後ろにはカザの仲間である3人もついてきていた。
「マオ!……複数の魂ってどういう事?」
「そのままの意味じゃよ。
恐らくは低位の神が吸収したものの、まだ完全に消化しきれていない魂が残っておったのじゃろう。
恐らくはそれらに影響されて鶴吉の魂が薄まっておるのじゃろう」
「それって大丈夫なの?」
先程まで樹木子に蹴りを入れていたカコだが、マオの話を聞いて表情を曇らせた。
「なに、その魂群の中で最も強いのが鶴吉の魂じゃ。
暫くすればそれらを全て吸収して完全に自分を取り戻すじゃろうて」
「そっか……全く心配かけるんじゃないよ」
そう言って樹木子の身体を優しく撫でようとしたカコであったが、
「小生が思うになるべくいつも通りにして日常を演出すれば魂もそちらに引っ張り込まれて元通りになる時間を早めると思いますぞ!」
「やっぱりアンタにはこっちの方がお似合いだよ!
「いた、いたたたた。
いい加減にせぬか!!」
空気を読まないバドの一言によりカコは再び蹴りの連打を浴びせ始めた。
その様子をこの場にいる全員が笑いながら見ていた。
ユウとマオ、花鳥風月の4人。
シロとクロに目を覚ました妖怪マンションの住人たちまで。
樹木神まで格を上げた事で神隠しが無くなったこの土地を見ていた異界の女神も。
誰も彼もが事件の解決を喜び笑い合っていたのだった。
〜おまけ〜
「この元凶の神様どうしようか?」
ユウが地面に倒れている狐の霊を指さした。
「正確には元神じゃな。
力の大半を樹木子に残したせいで動物霊に成り下がっておる」
「それじゃ僕が祓っちゃう?
見た目は可愛いから気が進まないけど」
「そうは言ってもこんな事をしでかすのを放置しておく訳にもいかないでしょ」
「そっか……じゃあ、一思いに」
「待ちなさい!!」
カザがバットを振り上げた時にストップがかかる。
「この場所に流れ着いた怪異は事情はどうあれ、地主である私の判断に委ねられることになっているの。
だから勝手をしてもらっては困るわ」
「そうは言っても……」
「悪さ出来ないようにすればいいんだからその霊を自由に動かせない身体にでも入れておけばいいのよ。
というわけで鶴吉!」
「人使いが荒くないかい?
とりあえず私の枝で作った身体に入れてしまうのはどうだろうか?
それならこちらで居場所を把握できるし緊急時に身体の掌握も出来る筈だ」
「それでいきましょう!」
「まったく……君は本当に強引だよ」
こうして妖怪の隠れ里に新たに小狐の霊が加わったそうな。




