樹木の山と妖怪の里 14
結界に閉じ込められて動きを停止していた樹木神だが、その表面が震え始める。
「もうそろそろ時間切れみたいだけど準備は出来てる?」
「はぁ……最低の気分だわ。
おかげさまで準備はバッチリよ」
「僕とユウさんの全力で守る。
だから周りは気にせずに思いっきりやっちゃって」
「ああ、任せたよ!」
カコがそう言うと一本の矢を取り出した。
先が潰れた白と朱で彩られた矢……破魔矢と呼ばれる神事に用いられる矢であった。
本来なら破魔弓とセットなのだが、カコの手には矢しかない……しかし、左手を前に突き出して右手で矢尻を掴んで引く姿はそこに弓があるかのように錯覚させる。
いや……よく目を凝らしてみると蒼白く光る霊力が弓の方を為しており、そこには間違いなく弓があるのが分かった。
ただ、自身の霊力とイメージで弓を形作るというのは大変な作業なのであろう。
弓を引くスピードは非常にゆっくりなのだが、カコの額には大量の汗が浮かんでいた。
そうして時間をかけている間に復活した樹木神は淡々と枝や根、葉による攻撃を行なっていた。
カコを中心として、それを守るユウやカザのいる地点を制圧するような攻撃。
だが、それらの攻撃を神がかりな動きで2人は捌いていきカコには攻撃の一つとして届かせない。
このまま順調に行くかと思われた防衛戦であるが、ある事に気付いた樹木神の攻撃の変化による2人は苦戦を強いられる。
それは攻撃の比率をカザの方に集中させた事である。
ユウよりも数段劣るカザに攻撃を集中させてユウの方には最低限の足止めのみの攻撃を行う。
この変化によりカザに余裕が無くなり追い込まれていくようになったのだ。
「く……分かってたけどキツいなぁ」
(いい加減に我の力を使うが良い!!)
何処からともなく声が響く。
その声に呼応するかのように一枚の札がカザの懐から飛び出した。
「え〜また力を借りて対価を渡すの嫌なんだけど」
(そんなことを言っている場合では無かろう!)
「じゃあ、対価は一日デート権。
それでどう?」
(く……仕方あるまい。
将来の我が嫁を傷物にするわけにはいかぬ。
それで手を打とう)
「決まりだね……じゃあ、頼んだよ大黒様」
(任されよう)
そうして札がカザの胸元に張り付くとその身体から人の身では到達出来ないほどの霊力が溢れ出す。
「今回は防衛が任務だから破壊の力は無し。
というか変な力は要らないから私の能力強化だけお願い」
(任されよう)
この瞬間から劣勢だった筈のカザが息を吹き返して樹木神の攻撃を押し返していく。
「あれが奥の手か〜やるじゃん。
こっちも負けてられないね」
ユウはそう呟くと何処からともなく2本目の剣を取り出し、其々の手に装備する。
単純に手数が倍になった事により枝や根の再生を上回る速度で攻撃していった。
こうして両側から猛烈な攻めを受けた樹木神は、手数がどんどん減っていきジリ貧となっていく。
ユウとカザによる攻撃的な防衛が成功して多くの時間が稼がれていく。
その時間を充分に消費したカコの手には霊力で作られた破魔弓と実体のある破魔矢が構えられていた。




