大きなお風呂は良いところ 5
漫画手に取って読み耽っていた2人であったが、ユウの取った作品が長期連載であるのに対してマオの作品はようやく二桁に届いたばかりという巻数であった。
当然マオの方が先に読み終わったのだが、彼女は本を元の場所に戻すと手ぶらで帰ってきた。
そして、そのまま無数にある椅子の中でも一際大きな黒い椅子に腰掛けた。
「ふむ……先ずはリストバンドをかざしてからコースを選ぶのじゃな」
マオが座った椅子はこの施設に数個設置してあるマッサージチェアだ。
リストバンドで会計を済ませると迷いながらコースを選択していく。
迷いながらもマオが選んだコースは最も指圧の強いコース……身体を固定しての配信は想像以上に魔王様の体を蝕んでいたようだ。
音声によるアナウンスの後に椅子が動き出したのだが、先ず驚いたのは腕と足であった。
手首と足先が何かに包まれるような感覚がしたかと思うと一気に膨らんだ。
その圧力によってグッ!グッ!と手首と足先を揉みほぐしていく。
脈を測るかのような動きであるが普段マッサージをされにくい部分への刺激は素直に心地よい。
同時に椅子が後ろへと傾いたのだが、背もたれに寄りかかる寸前でマオの身体が止まる。
空中で固定されているよう形だが、その体制のおかげか手首と足首の刺激が心地よい。
そんなマオが何気なく視線を横に向けるとマッサージチェアのキャッチコピーが目に入る。
『無重力の心地よさを貴方に』
なるほど……これは確かに無重力じゃな。
そう思いながら本格的に稼働し始めた背中や腰の揉み玉に身を任せるのであった。
♢ ♢ ♢
ユウは黙々と漫画を読み続けていた。
元々、勇者の修行をしていた時に勉学も学ばされ読書の時間も作られていた。
剣術や体術といった実戦訓練を行い、身体に溜まった疲労を座学で癒す。
こうした日々を送っていたせいか勉学はあまり好きではなかった。
疲れた身体で読む本は全く頭に入らなかったものだ。
だが、この世界に来て漫画を読んでその面白さを知った。
漫画が与えてくれる知識が自分のものになる喜びを知った。
そうして改めて文だけの本を前にしたが以前のような苦痛は無く、知ることの喜びが自分の中にあるのを感じた。
今は漫画も小説も全て大好きだった。
そして、読んだ漫画が動いて話して分かりやすく伝えてくれるアニメも大好きだ。
そんな物語の主人公になれるゲームも大好きだ。
この世界に来て自分というものを形作ったきっかけとなった漫画。
そんな漫画を読む時彼女はついその世界に没頭してしまうのであった。




