とある刑務所帰りの男の話 3
「お、オヤジ!?」
驚いた俺が顔をあげると、確かに歳は取ったがそこには俺が尊敬しているオヤジの姿があった。
「オヤジ、配信の影響が残っているのは分かりますが少し抑えてください。
自分は兄貴に説明をしていないので戸惑うかと」
「あ〜あ〜あああアアアーー!!
よし、声の調子は戻ったかのう。
ヒロ、驚かせてすまんのう……長い間務めご苦労だった」
「そんな……もったいない言葉です。
詳しい話をお聞きしても?」
「ああ、そうじゃのう……先ず最初に謝っておきたいんだが組は解散してしまった。
今のワシは組長でもなんでもない一般人じゃ」
「な……ええ!?
でも、ヤスが組がどうのと」
オヤジの予想外の言葉に俺はヤスの方を見る。
「オメエはまだ組って呼ぶ癖が直ってねえのか!
ちゃんと事務所か会社って呼べと言っとるだろう!!」
「すいません……どうにもその言い方が慣れないもんで」
「そんなんだから配信でリスナーからスジモン扱いされるんじゃろうが!」
「ちょっ!ちょっと待ってください。
話の流れから察するに今は組を解散しているけれども、代わりにオヤジが会社を立ち上げたって事ですか?」
俺の言葉にオヤジは機嫌よく頷いた。
「流石はヒロじゃのう……組は解散したがお前を受け入れる皿は用意しておくべきだと思ってのう。
こうして会社を立ち上げたという訳よ」
「お、オヤジ!
俺のためにそこまで!!」
「お前は昔から頭がキレる上に気遣いの出来る男だったからの。
この世界で天辺狙える人材じゃと思うとる……見せたいものがあるからついてこい」
オヤジがそう言って防音室に入っていったので慌てて追いかける。
防音室の中にはパソコンやヘッドギア、それにこちらを映すカメラが置いてある。
「これが今ワシらがやっとるシノギじゃ」
そう言ってオヤジがパソコンを操作すると画面にはアニメのキャラが3人映されていた。
その3人がテレビのバラエティのようなトークを繰り広げていた。
「これが何っスか?」
「この右にいるのがワシじゃ。
「はい?何かの冗談ですか?
声が全然違うじゃないですか」
「声は普段からの特訓のおかげじゃな。
それにボイチェンという声を変える機械を使っておる」
「だからって……ええ???」
「こうして女のこのキャラに男が入るのをバ美肉と言うんや。
ワシには安定したファンがおるから中々の稼ぎになっとる。
じゃがな……ヒロ。
お前ならワシを超えられると信じておる」
「そこまで俺のことを買ってくれているとは……男ヒロ!
親父にそこまで見込まれたからには喜んで手助けさせてもらいます」
こうして俺は何の説明も受けないままにオヤジを信じることにした。
この先で儲けと引き換えに恐ろしい運命が待ち構えているとも知らずに。




