#三国教授の三国志講座 ゲスト:田中マオ回 2
2022/09/08 誤字報告受け付けました。
いつもありがとうございます。
「創作という点ではやはり蜀、特に劉備に関してが非常に多いです。
物語である演義では劉備は正当な漢王室の末裔として皇帝の前で家系譜を読み上げられて血統を証明されます。
当時の皇帝である景帝の第七皇子である中山靖王劉勝から辿っていったわけですね。
しかし、正史では劉備の出自は祖父までしか分かっておらず劉勝までの血筋は不明であり、創作であるという事が分かります。
これは劉備を正しく漢王室の血を引いているとする為にも付け加える必要があったのでしょう」
・え?あれ嘘だったの?
・本当だと信じてた
「三国先生、漢王室の血筋というのはそんなにも大事だったのえ?」
「良い質問ですね。
三国志は三つの国が争っているように見えますが、実際には漢という国が3つに内部分裂して争っているにすぎません。
どれだけ出世しようとも国のトップである皇帝になる事は出来ないですし、劉備、曹操、孫権の3人の上には必ず皇帝が上におります。
曹操は皇帝を保護してお飾りとし、その権力を使いました。
ですがトップは誰かと聞かれれば皇帝なのです」
「つまり、皇帝は会社で言うならオーナーで社長であり、他の3人は皇帝に雇われた役員という事かのう」
・急に俗な話に
・しかし分かりやすいな
「そう言う事ですね。
後に魏は曹丕の方ですが3カ国ともにトップが皇帝を名乗ります。
3人が経営していた会社を独立させたようなものですね。
普通ならばこのような行いは世間から非難を浴びる事間違いないのですが、3人は共に正式な作法に則って皇帝を名乗ったのです。
「曹丕は現在の皇帝からの禅譲であったな。
これは現社長から会社を譲り受けるようなものじゃから問題ないのう。
続いて劉備はそれを認めずに自ら皇帝を名乗る。
孫権は皇帝になった劉備に許可を得て皇帝を名乗った筈じゃが・・・劉備からの流れがおかしくないかの?」
・たしかに
・劉備がおかしいから孫権もよく分からんな
「その通り。
劉備は勝手に皇帝を名乗っていますが、ここに漢王室と同じ劉という名字が意味を持ちます。
つまり、私は劉性で漢王室の血筋を引いている正当な後継者なので皇帝を名乗る権利があると。
更に劉備は皇帝に名乗りを挙げる前に漢中を手に入れて漢中王と称します。
これは漢王室を起こした初代皇帝・劉邦と同じ道筋を辿っているわけです。
この時点で民たちは劉備を初代皇帝・劉邦の再来だと思い、彼は見事に皇帝を名乗る大義名分を得たわけですね。
その正統なる血筋に皇帝を名乗ることを許された孫権もまた大義名分を得たというわけです」
「なるほどのう・・・皇帝を名乗る大義名分を得るにはこのようなルールに従わねばならなかったわけじゃな。
そういえば袁術が皇帝を名乗った事があったと思うのじゃが」
・あったな
・三国志では小さな出来事と扱われてるよね
「あれは玉璽を手に入れたからですね。
玉璽とは秦の始皇帝が作らせた己の地位を示すものです。
つまり、これを持っていると言うことは始皇帝と同じ地位にあると言う事が出来たわけです。
しかし、この時に漢の正当な皇帝は曹操によって護られており、袁術の言う事は誰が聞いても詭弁だったと思います。
この時代に皇帝を名乗る為のカードは多くありますが、袁術の何も用意せずにただ玉璽を手に入れたから名乗ると言うのはとてつもなく弱いカードだったと言えるでしょう」
「なるほどのう。
とても分かりやすくて参考になったのじゃ。
漫画を読んでいた時には読み飛ばしていたような事も、掘り下げればここまで深い話になるのじゃない」
「それが歴史の面白いところです。
一つ一つの大きな出来事だけを見ると何故そうなったのかと疑問に思う事があります。
しかし、そこに付随する小さな出来事を調べていくとビックリするほどに一本の線で繋がっているものです」
「うむうむ、妾はもっと勉強したくなってきたのじゃ」
個人の解釈も交えています。
大先生の漫画ではサラッと流されている三勢力の皇帝就任ですが、事前の準備により民衆を納得させる為にこれでもかと手を打っていたのが紐解いていくとよく分かります。
作中でも話していますが、時代が違ったとはいえそれらを全く行わずに強行した袁術の末路を考えるとこれが如何に重要だったか分かると思います。




