七転八起子(元根田踊)の調査報告書１

私の名前は七転八起子。

元は根田踊という名前で活動していたのだが、色々とあって現在はVのプロデュースをしている『くじよじ』という会社に所属している。

この名前の由来は配信活動は朝の9時から早朝４時までにしておきましょうねと言うことらしい。

事前の申請による企画であれば通るのだが予告なしでそれを過ぎるのはNGなのだという。

社長の里中さん曰く睡眠を削ると言うのはとても恐ろしい行為らしい。

かつて不眠の世界記録を達成した男性がいたのだが、彼はそのチャレンジで脳に変調をきたしたそうだ。

具体的に言うと非常に短期で暴力的な性格に豹変してしまったらしい。

様々な場面で問題を起こした彼は家族や仕事の全てを失った。

その後、別の男子高校生によってその記録は塗り替えられており、高校生は特に体調に変化を及ぼすことはなかった。

だが、健康的なリスクを考えてそれ以降の不眠チャレンジは禁止となったらしい。

会社に入る際にその話を事細かに説明され、くれぐれも寝ないという選択肢は取らないようにと里中社長に念を押された

私としても元々チャレンジするつもりは無かったけど、性格が豹変する可能性があると言われると恐ろしすぎてやる気も起きない。

こうして里中社長が最大に気をつけた話は終わったのだが・・・実は私は困惑していた。

実はV活動していく上での名前は変わった。

チャンネルもそれ用に整えて名前も七転八起子チャンネルにした。

ヘッダーの絵も変え無事に始動したのはいいのだが・・・実はこのチャンネルは見た目を入れ替えただけの旧根田踊チャンネルなのである。

更に新しいモデルに変更されるかと思ったのだが見た目もそのままだったし、従来のファン達もそのままチャンネルに残っていた。

しかし、いざデビューしてみると誰も彼もが私を七転八起子として扱い、根田踊やんけ！

と指摘するものは現れなかった。

辞める前にあれだけいたアンチも含めてである。

訳が分からなさすぎて事務所に行って尋ねると、そこにはユウ先輩とマオ先輩の他にとても美しい女性がいた。

一目見て女神という印象を与える女性・・・そう、彼女こそが田中家三女の田中ルーナであった。

完全に頭から消えていたが、異世界から現れた勇者と魔王が本物だったのだ。

彼女も本当の女神なんだろう。

ルーナ先輩は私に気がつくと優しく微笑んで近づいてくる。

この世のものとは思えない美しき微笑みに思わず怯んでしまう。

逃げ出すわけにはいかないし、彼女は女神はさておいて事務所の先輩だ。

この世界とて配信上では軽口を叩き合うことはあっても、最低限の礼儀というものがある。

「ルーナ先輩、おはようございます！」

私は深々と頭を下げた。

そして、顔を上げた時に見たものは・・・

着ている服の裾でも踏んづけたのだろうか？

盛大に顔から転んで突っ伏している女神の姿であった。