川崎の狂犬を愛でる 3
「二つの作品の違いについては分かったんだけど、ジャンルとしては同じロックだよね?
その割には歌とかも割と違う気がするんだけど」
「まぁ、4ピースバンドの5ピースバンドの違いが一番デカいとは思うんすけど。
狂犬ちゃんの方は稀にボーカル兼ギターになるっすけど、基本はボーカルがメイン。
後は人数が多い分はキーボードっすね」
「大体の形式においてギターとドラムは必須なので、4でベース。
5でキーボードという増え方がをすると思いますよ。
ここから増やすと、意外性を求めたサックスなんかが入ることもありますけど……」
「そうなったら昭和のロカビリーバンド路線っすよね。
ベースもギターと間違えそうなフォルムじゃなくて、人間よりも大きなウッドベースになるっす」
昭和のロカビリーバンド……男達は革ジャンにリーゼント。
女性達は花柄のワンピースに頭に大きなリボンという出立ちで、フロアでツイストを踊るという流れの音楽形式である。
この場合のベースはウッドベースという巨大な楽器を、倒れないように支えながら弾くというスタイルで、音楽に合わせてこの巨大な楽器をクルクルと横回転させるようなパフォーマンスが印象的であろう。
表舞台からは姿を消したものの、現在でも全国各地に根強いファンがあり、往年のアーティストは地方をどさ回りするだけで十分な利益になるそうだ。
「うーん、確かにそれもあるんだけど……それだけじゃ無いような」
「後はキャラの本質に合わせてあるとかですかね。
ぼっちな子ってさっきも話した通りに基本がギャグ漫画なので、あの子自身の環境って物凄く恵まれてんすよ。
逆に狂犬ちゃんは自身が蒔いた種というのもあるっすけど、まさに持たざる者。
バンドメンバー全員が何かしらの鬱屈を抱えてるんすよね」
「そのストレスを音楽にぶつけて外に向けている……それがパワーになっているんだと思いますよ。
どちらが優れているという話では無いのですが……現在の日本で突き刺さるのは狂犬ちゃんの方ですかねぇ。
逆に今の環境に不満がない人には前者の方が刺さりやすいかもしれません」
「ああ、言語化してもらうと何となく分かった気がする。
逆に言うと最後の歌がそこまでトゲを感じない気がしたのも、バンドとして、人間として完成されたからって感じなのかな?」
「それはあるっすね。
現実でもありますが、推しているバンドの現場で音楽性が変わることも多々あるんすよ。
それを変化と楽しむか、変わっちまったなと離れていくかはファン次第っすけど」
「音楽活動なんて来るもの拒まず、去るもの追わずですからね」




