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成りすましに注意しよう

その事件は隣人である響子からもたらされたものであった。


その日、いつも以上に上機嫌だった響子。


どうしたのかと話を聞いてみたところ、先日卒業した大物Vの転生先を見つけたという話だったのだ。


響子の一番の推しはユウとマオであるのだが、卒業式ライブを見てから気になり始め、過去のアーカイブを漁っている内にその転生先へと行き着いたのだという。


その時点でユウとマオは引っかかりを覚えていた。


「なんかその話、おかしくない?」


「おかしいって……何がです?」


「今回の引退理由はやりたい事と事務所の方針の違いからであろう。

とは言え、200万人を超えるチャンネルを捨ててまで同じ業界のVに転生などするであろうか?」


「Vが転生して別のVにってパターンは確かに珍しくは無いよ。

でも、その殆どが事務所と揉めて、円満退社とは程遠い人が多いイメージなんだよね」


ユウの話す通りに、このパターンの転生は珍しくなく、中には契約違反でクビになって別のVに転生した者もいるほどである。


そのような人物は最初こそかつてのファンが付いてきてくれるのだが、昔の話をしてはその時の不満をぶちまける配信をして、当時応援してくれたファンの気持ちを裏切り、呆れさせる事が多かったりするのであった。


「確かにそうかもしれませんが……この会社では別のVに転生した実例がありましたよね?」


「あの人は元々、中身を出しているチャンネルを持っていた……というか、そこ出身の人だったからね。

引退した後は元のチャンネルに戻って、そこから暫く経ってたからVのアバターを作ったとかいう話だったと思うよ」


「そうなんですね。

じゃあ、この転生先の人は一体……」


「そもそもなんじゃが、転生するにしてもあまりにも期日が短すぎるんじゃよ。

卒業して即契約解除というわけでは無いからのう」


「企業と契約した仕事は残っているし、最後のファングッズ制作とかもあるから。

それが終わらない限りは転生できないと思うし、そこからアバターを用意してってなると、数ヶ月から半年以上の期間は必要なんじゃ無いかな」


「つまりは偽物って事ですか」


「歴戦のファン達がそれに気付かぬ訳はないからのう。

ほれ、もう既にコメント欄が荒れておるぞ」


マオが示す通りにその配信のコメント欄は荒れに荒れていた。


殆どの者が偽物だと分かっていてのコメントなのだが、中には万に一つの希望を見出そうとする者もいるなど阿鼻叫喚の様相である。


「よく見たら、怪しい広告サイトに繋げようとしている感じがするね」


「これは120%の確率で黒じゃな。

お主も都会に慣れてきたとは言え、詐欺の方法は千差万別。

もう少し気をつけることじゃな」


「うう、肝に銘じます」


こうして反省した響子と共に成りすましの情報を調べてみたのだが、そのあまりの多さに辟易とする結果に終わったのであった。


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