引退と卒業式
8月の末日……二人はとある配信を並んで見ていた。
その中に映っていたヴァーチャルな存在はキラキラと輝いており、見る者全ての心に大きな感動を。
そして一抹の寂しさを残していった。
引退……生きて生活をしている限り、必ず訪れる瞬間である。
先にこの業界が廃れる可能性も無きにしもあらずであるが、現状ではそうなる前に選択に上がる措置であろう。
そんな中で、彼女は人気絶頂の頂にいる内に引退という選択をした。
そのことに関して、未だに惜しむ声は多いし復帰を望む声も多い。
だが、新たな旅立ちを祝福する声も多く、悲喜交々とは正にこの事であろう。
その多くの人がこの卒業式のライブを見守り、同説数は驚異の100万人弱。
投げ銭の額も4000万弱が集まったというから驚異という他にないであろう。
ユウとマオの二人もその卒業ライブを見守り大盛況に終わったそれを、最後まで見届けたのであった。
「……僕たちもいつかは引退する日が来るのかな?」
「それは間違いなく来るであろう。
最も、寿命に関しては他の者よりもアドバンテージがあるから何とも言えぬがのう」
マオは魔族であり、人間よりも寿命が長い……のだが、長い期間、時間の流れが狂っている狭間の世界に囚われていた二人は、共に寿命の概念がおかしくなっていた。
女神であるルーナの言葉では、二人の寿命は全く予想できないのだが、少なくとも通常の生物よりは遥かに長いであろう事を告げていた。
「この仕事を何十年……もしくは何百年もしてたらさ、中の人が入れ替わった何代目とかの疑惑とか出てくるのかもね?」
「よくもまぁ、そんなに似てる人物を探してきたと言われそうなもんじゃな。
まぁ、妾達のリスナーの場合は、半ば空想としてでも勇者と魔王の設定を信じておるからのう。
案外、気にもせぬかもしれぬぞ」
マオの言葉に普段のリスナーのコメントを思い出し、思いっきり吹き出す。
そんな馬鹿なと思いつつも、何となくその光景が目に浮かんでしまったからであった。
「信じてくれる人がいる限りはこの仕事をやり続けたいもんだね」
「そうじゃのう。
本当にありがたい事じゃからな」
そう言いながら、卒業ライブの余韻に浸る2人。
ここで終われば良い話で済んだのだが、この後に意外な人物からとんでも無い問題が起きた事を聞くのであった。




