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#天才に憧れて 3

唄う声が聞こえる。


とても穏やかで、優しく、温かく包み込みような歌声。


その声に誘われるように目を開けると、そこには朝日を浴びながら鼻歌を口ずさむ天使がいた。


まだぼんやりとする意識の中でその歌声に耳を傾け、唄う天使を眺め続ける。


「あ、起こしちゃった?」


こちらの視線に気付いた天使が唄うのを止めて近づこうとするが、自分はそれを手で制した。


そして、そのまま近くに立てかけてあった小さめのキーボードを手に取り、天使の近くの机に設置する。


彼女が自由に口ずさむ鼻歌に合わせるように指を動かし、それが自然とメロディとなって部屋の中に響き渡った。


「……お腹すいちゃった」


寝起きからの始まったセッションは、天使……雫のお腹の音で中断される。


「それじゃ、朝ごはんの用意をするから待ってて」


「は〜い」


キーボードの電源を抜き、元の場所に立てかけてからキッチンへと向かう。


簡単にベーコンエッグを作って盛り付け、予め買っていた菓子パンも皿へと乗せていく。


「ご飯食べたら早速続きをしようよ!」


「それは構わないけど……私、夕方から仕事入ってるからね。

30分前にはきりあげるからそのつもりでいてね」


「ええ〜私とのセッションよりも仕事の方が大事なの?」


「……今日の仕事はコラボで、先輩が相手なんだけど。

それでもそれを言える?」


「え……あ、大丈夫大丈夫。

ちゃんと大人しく待ってるから」


音楽を始めてから、優先順位が音楽と自分になっている雫であるが、今日一緒に仕事をする先輩にはどうも頭が上がらないらしい。


何でも最初に相当にやらかしをしてしっぺ返しを喰らったのだとか。


正直、自分もあの先輩とその相方に関しては怒らせるべきではないと考えているので、何をやらかすか分からない雫が大人しくなるのは良いことではあるのだが。


自分と雫は同じ仕事をしているのだが、現状では雫はほとんど表に立つことは無い。


出るとしても、自分と一緒に新曲PVの宣伝や、アルバムやミニアルバムの宣伝を行う程度である。


自分が隣にいる間は良いのだが、1人で仕事をさせていると、ふとした瞬間に音楽の方に意識が向き、予想だにしない動きをしかねないからであった。


「あ、先輩で思い出したけど……この前の突発ライブは楽しかったね。

またあんな事がやりたいなぁ」


「また先輩達にお誘いを受けることはあると思うから。

その時はまた、あの場所で何か出来るように交渉しておくよ」


「わぁ、ありがとう!

冥夜、大好き!!」


感極まって抱きついてくる雫の頭を優しく撫でる。


音楽の才能に目覚めてから、生きていくための決定的な何かを失った天才。


とても手がかかる、憧れた天才を愛して見守っていこう。


改めてそう心に誓うのだった。


お試しで書いてみたエピソードですが、慣れてなくて下手だったという実感はあります。

お気付きとは思いますが、雫=八起子。

冥夜=ナコで、本名とVの名前で分かれています。

八起子は音楽の才能に目覚めたものの、其方とナコに人生の比重を置き過ぎており、現在はマトモに配信を行なっていない状況となっています。

やっている事はPV公開と、ナコも交えた歌枠程度です。

その代わりの外回りの全てはナコがやっているという設定でした。

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