マルチバースは失敗だった 1
「こ、こんなに人が多いんですか?」
「そりゃ、今は夏休みだもん」
「お台場と言えば夏休みのお出かけスポットじゃからな」
平日のお台場にやってきたのは、ユウマオとお隣さんの響子の三人組。
いつもの平日ならばがらんとしている東京テレポート駅だが、今日は扉が開くなり、一斉に人々が降りて改札を潜り抜けていった。
時はユウが語るように夏休み。
学生達や子連れ、更には外国人観光客までもが列挙して押し寄せて来ていたのである。
「映画館も人が多いですかね?」
「うーん、どうだろ。
まぁ、多かったとしても予約してるから関係ないよ」
「ドリンクを買うのに少し手間取るくらいではないかのう。
しかし、人が増えているのは予想しておるじゃろうから、スタッフの数も増えているのでは無いかな?」
そんな話をしながら三人がやってきたのはアクアシティの地下にある映画館であった。
真央の予想通り、普段は数えるほどしかいないスタッフだが、この日は明らかに人数が増えていたのであった。
「じゃあ、僕はチケットを発行してくるから。
あ、ドリンクはいつものをMサイズでお願いね」
こうして2人から離れたユウは、会員証を持って端にある機械へと向かった。
その機械に会員証を読み込ませると、予め用意していたチケットが発行されるのである。
その間にマオと響子はドリンクを頼むためにカウンターへとやってきていた。
幸いなことにカウンターには人が殆ど並んでいない。
2人はあっという間に自分たちの番となり、ユウを含めた三人分のドリンクを注文する。
その頃にはユウも発券を終えて合流したので、受け渡しはスムーズなものであった。
そのままドリンクを持って入場し、映画のタイプがアトラクションのように揺れる4DXだったので、ロッカールームへと荷物を預けたのであった。
そんな三人が観に来た映画……それは現在公開中の人気アメコミヒーロー2人がメインの物語である。
正統派の主人公と、トリッキーな主人公。
とても絡みそうに無い2人によるダブル主演映画と言うことで、三人は楽しみにしていたのである。
「とは言え……期待半分、不安半分って感じかな」
映画が始まる前の予告映像の時、ユウが呟く。
「そうなんですか?
面白そうですけど」
「最近、配給会社が潰れて超大手に権利を買い取られたんだよ。
そのせいで規制が厳しかったり、最近のトレンドに合わせた結果……めっちゃ大コケしてるんだよね」
「最近のこのシリーズは良い話を聞かぬからのう。
おっと、始まりそうじゃからこの話は一旦後にして、とりあえずは楽しむとするかのう」
マオの言葉通りに劇場内の照明が落ち、最後の予告が流れ始める。
三人は話を一旦切り上げて、映画に集中することにしたのであった。




