黙ってた方が良かった人達 2
マオが次に映したのは、討論のような音声が流れているものであった。
更に画面には両者のやり取りと思われるSNSが映し出されていた。
「次にやらかしとして紹介するのはこちらの彼じゃな。
本名では無さそうな、平仮名の名前と、顔を隠して自分で描いたらしいイラストをアイコンにしておる人物じゃな」
「本名じゃないって……それってありなの?」
「実際に芸能人やレスラーが、芸名やリングネームで立候補しておるから問題無しじゃな。
立候補の届出自体は本名でなければ出来ぬが、そこから名乗る通称は自在に設定できるんじゃよ」
「へぇ〜まぁ、そうしないと知名度のある芸能人を使う意味がなくなるもんね」
選挙では申し込む時に本名を提示する必要はあるが、通称で使う名前は自由に選べるのである。
「ただ、この人物は顔出しすらしておらぬ。
当然ながら街頭演説なども一切行っておらんかったのじゃな」
「その割には結構な票数を獲得してない?」
「知名度があり、公表している政策自体は確かにと思えるものがあったからのう。
顔出しNGながらこれだけの票数を獲得した事も一定の評価を得ておる……んじゃがのう。
その後の行動が問題であったな」
「なにかあったの?」
「速報が流れて順位が決定していく中で、自分がアレよりも下はおかしいなどと言った、申し訳ないのじゃが見苦しいコメントをSNSで乱発しておっての」
そう言ってマオが提示した画面には当時の彼のコメントがまとめられていたのだが、その稚拙な文を見てユウは思わず顔を歪めたのであった。
「まぁ、結果が出ているから負け惜しみになっちゃうもんね」
「そういう事じゃな……しかし、ここで終わっておけばまだ良かったという話が、今映しておるこの話なんじゃよ」
「これって結局なんなの?」
「侵略されている国に義勇兵として志願してきて、帰ってきたという経歴を持つ者がおるのじゃが、その人物に対して本当に行ってきたのか?
といった疑いをかけて噛みついた話じゃな」
「え、それって何か確証はあっての話なの?」
「この対談を聞く限りは何も無さそうであったのう。
青年が軍の機密になる部分は言えないが、証拠になる写真を提示するも、軍のことも話せないのでは信用が無いの一点張りという有様じゃよ」
対談はこの堂々巡りであるのだが、話の筋が通っていないのは明らかであった。
「それって悪魔の証明ってやつじゃない?
本来、それを提示しなければいけない立場の人間が、そうではない証明を自分でしろって言い出すやつ」
「そうじゃな。
実際にこの噛みつき事件はかなりの人間を落胆させてしまったようじゃ。
この点で、やはり黙っておいた方が良かった人物という事であろう」
「うーん、良い事ならともかく、他人を害そうとするなら、それは悪評の方が広まっちゃうよね」




