ライブハウスへ行こう 7
投稿の予約忘れで遅れました。
アイドルグループのパフォーマンスが終わり、全員がはけた後でナコと八起子がステージへと上がる。
「こいつらは私が面倒を見るから、あんたはあっち側を頼むよ」
そう言って店長がPAブースへと入る。
ステージに上がったナコは、ギターとアンプを繋げて、軽く音を確かめ、八起子は設置されたマイクスタンドの高さと角度を調整し、自分の口元へと設置して声を出す。
その頃にはホールにいた客のほとんどはバーフロアへと移動し、最早休憩期間という様相であった。
唯一残っていたのは、この場に不釣り合いなビデオを回している中年男性と、最初にライブをしていた男の子2人。
後はライブフロアに移動してきたユウとマオくらいである。
ビデオを構えた男性が以前にナコが言っていた、どのライブハウスにも必ずいる、写真を趣味にしている人なのだろう。
最早、彼女たちに注目している人は殆どいない。
だが、ナコと八起子はそんな事など全く気にも止めずに互いの目でコンタクトを取り……ナコのギターソロからステージは始まった。
その瞬間にライブハウスの空気感が変わったのをユウとマオは感じていた。
今までのどこか緩く……弛緩していた空気が引き締まり、圧のようなものを感じる。
その圧はモニターを通じてバーフロアにも流れており、フロアのあちこちでざわめきが起こっていた。
一部の家族は、出番を終えた子供と一緒にライブフロアへと移動してくる。
こうしてナコが1分以上の時間をソロで弾いたところで、八起子の歌声がギターの旋律に乗っかってくる。
その歌声は張り詰めた空気感を緩和させて柔らかく包み込むようなものであった。
場に張り詰めた空気感を強いるギターと、場の空気感を和らげる優しい歌声。
二つのまったく異なる音が一つに混じり合い、調和の取れた音楽として、ライブハウスに鳴り響く。
その音はまるで私達のことを見ろと叫んでいるようであった。
そうしてステージが始まって僅か20分にも満たない時間。
彼女たちはMCも無く、有名な洋楽のカバーを三曲演奏してからステージを降りた。
挨拶も無かった為に終わりということに暫く気付かなかった観客達は、ワンテンポ遅れたタイミングでようやく拍手を奏ではじめた。
「ねぇ……私たちってこのままで本当にいいのかな?」
「パパ、私、ああいう音楽がやりたい!!」
先ほどまでは緩いステージを披露していたアイドル達の、何人かの瞳の色が変わる。
ある者は現状に対する疑問を覚え、ある者はナコ達の演奏に憧れを抱き……僅か20分弱のステージ。
だが、演奏を聴いていた者の人生に深く刻みこまれるには十分なものであったのだろう。




